簪の音 二十二話:学習
「悪いな、核を持って帰る使命がなければ、アンタとちょっとは仲良くなれそうな気がしたんだが・・・そうも言ってられなくてな」
取り出された黒い結晶ーーー"呪物"を持った呪術士は、なんとも形容し難い顔で言った。
近い表現で言うなら《残念そう》だ。
「何をする気だっ?!」
神風は手に持っていた電磁砲を呪術士に向け、すぐに携帯電話でイッセイに連絡をした。
『はい!イッセイです!神風さんどうしました!?』
「呪術士と話をしてました。今までは会話をしてくれたのですが、どうにも行動を起こしそうで・・・!」
電話口からイッセイの声が聞こえてきた呪術士。面白くなさそうな顔をした。
「『何をする気だ』って聞かれてたなぁ?
自分でここから出るよ。自分でって言ってもこの呪物の力を借りてだけどな。
俺は、さっきも言ったけど魔力があまりない。だからこの呪物の力を借りてるんだ。
呪術は魔術と良く似ている。だが、一つ違うのは、この呪物は"生き物"でな。まだ生きてるんだ。もう、何百年、もしくは何千年もだ。
だからな、この呪物は聡明で学習出来るんだ」
『・・・学習?』
呪術士の声はイッセイにも届いた。
「イッセイ君、呪術士が、術でここから出ると」
『電磁砲使ってください!!』
「ーーーっ威力を弱めたいのだが、どうすれば・・・!」
『威力を弱めたい?!神風さん!今の彼の言葉からすると、電磁砲の最大出力で効くか効かないかです!!
取り敢えず一回撃ってください!!
多分相手の呪物が電磁砲の波形を学習した可能さがあります!!もう手の内がバレて使い物にならないかも』
「そういう事だっ!!!」
イッセイの話の途中で呪術士の持つ黒い結晶が光った。
「うわぁぁああああああ!!!」
『神風さん!!!』
目を開けていられないほど眩しい光。
思わず神風は瞼を閉じた。
そして、次に目を開けた時には
目の前の部屋には誰も居なかった。
・・・ーーー
「ばぁーちゃーん!外のお祭りって楽しいね!」
「そうよ、私はおじいさんのお仕事に付き合ってこの間も別のお祭りに行きましたけど、お外でやるお祭りは素敵で楽しいわね〜」
「でも、ちょっと暑いねぇ〜!じいちゃんが作った空調機じゃないんでしょ?じいちゃんだったらもっと広い会場でもちゃんと涼しくなるの作ってくれそうだよね!」
「えぇ!あっちのお祭りはもっと大きいですけど、昨日はちゃんと涼しかったですよ」
セイタとおばあちゃんが二人で祭りを楽しんでいる。
おばあちゃんが、セイタの家の近くでも祭りがあることを思い出し、誘ったのだ。
「俺としてはみんなでワイワイ楽しくお祭りっていうのも良かったんだけどね!まぁばあちゃんが小さい方のお祭りで静かに楽しみたいっていうから今日はこっちね!明日はあっちに行くから!!」
「明日は、おばあちゃんはもう家でお休みしようかしらね・・・?」
おばあちゃんなりに、みんなとセイタを引き離すように頑張っている。
が、しかし
「ヒズミ!!」
祭りの会場で誰かが誰かを呼ぶ声がした。しかし、特に珍しいことではない。
人が多いため、逸れてしまうことがある。連れの名前を呼びながら歩いている人は時々いる。
「誰か迷子かも!小さい子供だったら大変だ!」
警察官のセイタが声に反応した。職業柄、非番とは言え見過ごせなかった。
「どこだ!ヒズミ!」
焦っているような、少し怒っているような声。
しかし、セイタはその声に何となく聞き覚えがあった。
「・・・?あれ?何か最近この声を聞いた様な気が」
「ヒズミ!!」
後ろから腕を掴まれた。
「あ!君は昨日の!!真っ黒スーツの!!あれ?!そういえば昨日大丈夫だったの?!」
「やっと見つけた。ヒズミ、悪い、少し目を瞑れ」
人混みから現れたのは呪術士だった。しかし、セイタは呪術士ということは知らないし、彼の名前も知らない。
「え?!ヒズミって俺のこと?!俺はヒズミくんじゃなくて、セイタくんだから!!どこで誰が名前を教えたの?!」
「目、瞑れ」
「え?はぁ、うん」
素直に目を瞑った。近くでおばあちゃんも見ている。見たこともない黒いスーツで、明らかにこの世界の人間ではない。彼が、みんなが話していた呪術士だとわかった。しかし、何もする事ができない。
しかも、目の前に現れて、タイミングが悪いと言われている孫と接触をした。
何をしているのかは全くわからないが、多分またセイタが原因でイッセイたちに何かが起こるかもしれない。
おばあちゃんは携帯電話を鞄から出してイッセイに掛けた。しかしイッセイが電話に出ない。祭りで気づかないのか、それとも誰かと既に通話をしているのか。
「あ!そうよね・・・だって目の前に呪術士さんがいるってことは、神風さんとイッセイが連絡をとっている可能性が高いのよね・・・」
ここにいます。と、おばあちゃんが伝えたくとも電話に出てもらえないことには伝えられない。
その間に、呪術士はセイタの額に手を当てた。
呪術士の目が光る。手からは何も出ない。しかし、呪術士とセイタの周りには微量な風が巻き起こる。自然の風ではない。不自然だ。
そして、額に手を当てること10秒。
呪術士がセイタから手を離した。
「助かった」
「え?俺何もしてないけど、てかむしろ俺に何したの?!」
「稲荷神の”跡”がお前に残っている。それを知りたくて」
「稲荷神?跡?何それ?なんの話?」
セイタが問いただしている間、呪術士はおばあちゃんの方を見た。そしておばあちゃんに向かって言った。
「そっちにいる稲荷神の力を、この人は昨日受けてる。その力がまだこの人に残っている。それを確認しにきた。それを辿って、今から稲荷神・・・と一緒にいる巫女魔女のところへ行く。欲しいものがある。それを貰うだけだ」
「・・・なぜ、それを私に?」
「あなたも"ここの人"じゃないだろう。多分”知っている側”だ。
知り合いに手を出して悪かった。特に読み取りをしただけで何かしたわけじゃない。
余計な不安を与えたいわけじゃない。でもここでは全部説明できない。
濁しながらで悪いが、それでも不安が除ければと思っただけだ」
目の前に何も事情を知らないセイタがいる事を踏まえて、"魔法"や"呪術"の単語を出さないでおばあちゃんに伝えようとした。
「まぁ、優しいのね・・・!」
「優しさじゃねぇよ、こんなの。マナーみたいなもんだろ。じゃあな」
「待って俺には全くもって何も伝わってないんだけど?!」
そう言って呪術士はその場から駆け出した。
・・・ーーー
「イッセイ君、すまない!!」
『大丈夫です!多分、キキの刻印石を狙ってくると思いますのでコチラで迎えてなんとかします!』
「私もすぐに皆さんの所に行きます!!どちらへ?」
神風は目の前から呪術師が消えた事をイッセイに告げた。告げながら、もう使い物にならないかも知れない電磁砲を持ち、部屋の扉を乱暴に開けて廊下を疾走する。
その途中で気づいた。
片目を光にやられた。片方の視力が著しく悪い。
『祭り会場の、長い露店のちょうど真ん中にいます!!通りから東側に距離を取りますね』
「わかりました、すぐに向かいっ——っイダッ!!」
廊下の壁から出ている配電盤の角に頭をぶつけた。
『どうしました?!』
「いや、かなり明るい光を出されて片目がちょっと見えない状態なんです。でも、時間が立てば戻るかと」
『・・・無理はしないでください』
「ありがとう。すぐに向かいます」
そう言い、通話を終了した。そして次に電話をかけるは上司の最上へだ。
事の流れを手短説明し、今度こそ全神経集中してぶつからないようにする。そして、駐車場へと向かった。




