簪の音 二十話:境遇
機関の建物を出て、帰路についたイッセイ。
携帯電話を取り出してかけた。発信先は自宅だ。
『もしもし!私よ!リリ!イッセイもう終わったのかしら?』
電話に出たのはリリだった。
イッセイとわかる仕様にした為、出てくれた。
「はい、今から帰る所です。リリさんが出てくださったと言うことは、ばあちゃんやセイタが出かけたって事ですね」
『そうなの!おばあちゃんが私たちに気を遣ってくれて、セイタくんを連れ出してくれたのよ!呪術士の方は問題ないのかしら?』
「はい、大丈夫です。少なくとも今日の夕方までは起きないでしょうから」
『そうなの。だったら私たちが家を出ればよかったわね。今更言っても遅いけど』
「大丈夫ですよ、そんなに気を遣わないでください」
イッセイは歩きながらそのまま会話を続ける。
「電磁砲も神風さんに渡してます。何かあったら連絡もらうようになってるので、その時はキキと稲荷にも対応してもらうつもりです。どうしますか?今日もお祭りに行きますか?」
『もちろんよ!キキもそのつもりだし!』
「じゃぁ、帰って支度しますね。あ、そう言えばリリさんの磁場砲の件なんですけど」
『いつも持ち歩いてるわ!今日も充電もバッチリよ!あとで貸してあげる!』
「ありがとうございます。でもリリさん、いつも充電の電圧間違ってとんでもないことになってるので、次の充電時には必ず確認してからコード差し込んでくださいね?あと——・・・」
話しながら、自分が乗ってきた車に乗り込む。あとは、自宅へ帰るだけだ。
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・・・——————
施設の中。
建物の中は光が入らない。今が何時か・・・と正確な時間を問われると時計を見ないとわからない。
時間の感覚や、体内時計が狂う。他の国へ行った訳でないかはないのに時差ぼけを起こす人もいる。
夕方
呪術士が目を覚ました。
ガラスを挟んで向かいにいた神風は、今もなお録り続けている呪術士の脳波データを表示しているモニターの乱れで気付いた。
「起きましたか」
「・・・随分ひでぇの喰らわせてくれたじゃねーか。お前、魔法使いでもないのに何した?」
頭を押さえながら呪術士が上体を起こした。
ガラスの向かいにいる男・・・神風の手元を見た。この世界の魔力ない青年が持っていた『電磁砲』が視界に入った。見覚えがある。自分を撃ったあの銃だ。
「・・・その銃、お前も持ってんのな。量産されてんのかよ。話と違って随分異世界人に対応してるじゃねぇか」
そう言って、冷たいコンクリートの上に胡座をかいて座った。
神風は改めてちゃんと呪術士をみた。拘束してからは気を失っている時間の方が圧倒的に多かった。
黒いスーツに、漆黒の髪。長めの前髪はイッセイに少し似ている。前髪だけだ、後ろ髪は長く一つに括っている。
整った顔で少し吊り目。可愛らしい顔つきではないが、綺麗な顔つきだと思った。童顔の自分とは正反対で、何歳なのだろうかと一瞬無関係な思考が神風の頭をよぎった。
「・・・手の内を明かす訳じゃないが、この銃は量産されていない。あの青年から借りているんだ。まぁ、量産する予定ではあるが」
「結局するんじゃねぇか」
「それより、君も”核”を取りにこの世界へ来たのだろう?勝手をされては困るからこのように軟禁させてもらっている」
「あ?あの巫女魔女とか稲荷神はあんだけ自由にしてるのに俺だけ軟禁?理由を説明しろよ」
吊り目がキッと開いて神風を睨む。
「君は人が多いところで呪術を使っただろう?この世界は魔法や呪術は認知されていない。一般人を巻き込んで怪我をさせるような恐れがある者は放置しておけない」
その言葉に呪術士は笑った。
「ッハ!!じゃぁ巫女魔女と稲荷神が一般人を巻き込まない保証があるのか?そう言う契約でもしたのか?ただ普段の態度が穏便だからだろ?俺もあいつらもかわりゃしねぇよ!!それじゃ理由にならねぇな!!っ・・!!イテテ」
神風の意見では納得しなかった呪術士が怒り、大声を上げた。その自分の声に、まだ回復していない頭が痛み出した。まるで二日酔いの人間を見ているようだと神風は感じた。
「彼女は、以前また別の異世界からの刺客を退治してくれています。契約は結んでませんが、まぁ我々の協力者のような関係です」
「稲荷神の方は?」
「彼に関しては、彼女達が知らぬ間に匿っていたのです」
「で、特に今の所被害もないからって放置してんのか。なんだ、だったら俺の運が悪いって事だな」
まるで、プールに入った後、耳に入った水を外に出すかのような仕草をとっている。耳に違和感があるのだろうか。
「この世界の人間に用はない。核に触れさえすればコチラのものだ。その瞬間に俺は自分の世界に核を持って帰れる。無意味な殺生はしない」
「では、何故魔法使い相手に攻撃を仕掛けたのです?最初に彼女と彼に攻撃を仕掛けたんでしょう?」
キキや稲荷が感じた頭痛だ。
「そりゃそうだけど、ありゃ炙り出しの常套手段だ。何も珍しい事じゃない。大体、祭りの最中に俺の居場所を突き止めてわざわざ空間から引きズリ出したのは巫女魔女の方だ!!
それにあの二人の魔力量はとんでもない。特に純粋な魔力量だけで言えば巫女魔女は化け物級だ!あんなのが裏切ったとしたらとんでもない惨事だぞ?そもそも俺の方は攻撃っていう程じゃない。ただの炙り出しで済んでるんだ、大層穏便に済ませてるんだぜ?」
「そうなのか?」
馬鹿馬鹿しい、そんなこともわからないのか?というようは呆れた顔をした。
「無狐の世界の者は魔法が使えない。だが、異世界人が居ればそいつらは魔法や呪術が使える可能性が高い。
無狐の世界と同じように魔法が使えない世界もある、その場合はその世界の”狐”が無理矢理飛ばしてくるとか言う噂もあるが・・・。
まぁ、そんな事はどうでも良くて。
お前がこの世界の人間なのに異世界人だ魔法だ知ってると言う事は警察官か特殊機関で俺たち”異世界人”という存在を知ってると言う事。
ならわかるだろ?異世界人は”核”の為に容赦なく、魔法の使えないこの無狐の世界の人間を殺す」
呪術士の言葉に神風は息を呑んだ。一瞬、呼吸の仕方がわからなくなった。
その一瞬を見逃さなかった呪術士。目の前の男もまた、自分と同じように仲間をやられたのだと悟った。
「俺だって異世界人に仲間を殺された。いきなりだった。喋らなくても意思疎通が出来る相棒だったさ。
アイツら、核も無いのにワザワザ他の世界に来て情報収集するんだ。それで殺して行くんだぜ?
俺たちは"そういう世界で生きてる"んだ。
気を抜いたら殺される。探している核は、自分の世界の行末を左右する代物なんだ。相手が他の世界の人間になりゃ普段は善人だったとしても敵対関係になればどうなるかなんてわからねぇし、本当に良い人だっつったって、最終的には核を取り合うんだ。
あの巫女魔女と稲荷神だか狐神だかわからねぇが、あれだけ馴れ合ってるほうがおかしい。
いつ裏切られて殺されるかわかったもんじゃねぇんだよ」
呪術士はゆっくりと立ち上がりながらもつらつら話を続ける。そして、目の前にいる神風の目をしっかり見て続きを喋ろうとまた口を開いた。
「つまり、力を持っている人にしか効かないあの攻撃や、それ以外でも貴方は・・・」
「言ってるだろうが。歯向かわれない限り、俺は無狐の世界の人間を殺さない。意味がないから。だから、ほら、解放しろ」
呪術士が言った言葉が本当かどうか、神風には判断がつかない。ただ、今のところ言動は一致している。確かに死傷者は出ていない。呪術を仕掛けられたのも、イッセイ、キキ、稲荷だけだ。演じてない限りだが。
「頼む。俺の世界は夏が無くなったんだ。年中寒い。生態系も崩れてきてる」
「夏がない?!温暖化で冬が無いのではなく?」
「そう言う世界もあるだろうけどな。俺の世界は違う。ここで俺を解放しないなら、敵と認定しなけりゃいけなくなる。
アンタ、話が分かりそうな人だから頼むよ」
着ているスーツこそ、SFアニメのパイロットスーツの様なもので現実味がない。しかし、これほどまでに話ができる相手だと思っていなかった神風は、彼・・・呪術士とは争いたくないという気持ちが芽生えてきた。
それは、呪術士の彼もまた、自分の同じように別の異世界の者に同僚を消されてしまったからだ。同じ境遇が、勝手に親近感を湧かせる。
嘘かもしれない、演じているだけかもしれない。しかし、本当なら彼の気持ちは痛い程わかる。
解放しても大丈夫かも知れないと神風の心が揺れた。




