簪の音 十九話:生贄
イッセイの前には大きなモニターがある。
そこに映し出されるのは、呪術士が拘束されてからのデータだ。沢山の脳波や体温、体の状態などが波形やグラフで表示されている。
「彼、いつまでもここに拘束しているわけにもいかないですよね?」
「できれば話をしたいんだ」
神風が答えた。
「あぁ、今の電磁砲の調整がうまくいけば、ずっと魔法や呪術を使えない状態のまま、他は問題なく喋れるような電磁波にしてます。もちろん、必要であれば口を割るための”お仕置きモード”もありますよ」
「”拷問モード”の間違いじゃないかい?」
クスッと神風が笑う。
「嫌だなぁ、それじゃ俺が悪者みたいじゃないですか」
変わらずモニターに齧り付き、データを読みながらも返事を返すイッセイ。
「キキさんや、稲荷さんのように穏便に核を探して取って行ってくれればこちらとしてはありがたい。そうしてもらえないかと話をしたい。人前で魔法や呪術を使われては困るんだ。その・・・」
「この世界には魔法も呪術もないですからね。混乱の素ですからね」
「えぇ。その通りです」
モニターをスクロールさせてまた別のデータを見るイッセイ。
「でも、どちらかというと、キキや稲荷が特別ですよ。多分、他の二人は持っている力が強いと言う話ですから、余裕なんでしょうね。他の異世界から来た人・・・今回の呪術士はキキや稲荷ほどじゃないらしいですから。自分より強い力を持った人間が、自分と同じ核を狙っている。そうすると、勝ち目ないじゃないですか。強硬手段に出ても仕方ないですよ」
「まぁ、言いたいことはわかりますが。・・・でも、そうですよね。彼は彼で、世界の代表か何かでこの世界に”核”を取りに来たんですもんね。自分の世界を守ために必死ですよね。参ったなぁ」
「神風さん、優しすぎますよ。良いんですよ、キキや稲荷みたいに好意的ならこちらも普通に接したりできる事は協力するくらいで。刃向かってくるなら容赦しないで電磁砲撃って仕舞えば良いんです」
「核の話を聞く前までは、異世界人なんて拘束・拷問・排除の対象だったんですけどね」
「キキや稲荷みたいな人もいるし、それぞれ事情を抱えているんですよね。まぁ、でもやっぱり以前のように悪意満載の異世界人だっています。今回だって、油断はできません。まだ、この世界の人間に手を出してないから俺もまだ甘くしてますけど」
「そうだね。いつ、魔法や呪術・・・物理的にも攻撃をしてくるかわからないですからね」
「はい、だから、俺たちは今まで通りで良い——・・・あれ、このデータ、一瞬だけ途切れてその後波形が変わってますね」
一つのデータを見てイッセイが話を止めた。
「あぁ、そうなんです。これ、ここを境に波形の幅が変わってるんです。でも、それ以外は特に問題なくて・・・それに、データを収集出来たのは良いのですが、そもそも何の波形かがわからないんです」
「魔法を使うとき、または呪術を使うとき・・・もしかしてずっと使おうとしてて、ここを境に辞めたのだろうか。もしくは逆か・・・としたら、今耐性が出来て無意識に魔法か呪術を使っている状態か・・・?でも、他の波形は問題無いし」
「この部屋には対魔法用の対策がされてます。少なくとも、魔法ではないと思います」
「だったら呪術の可能性かな。電磁砲から出る波の間をすり抜けてきたのか?だとしたら・・・神風さん!」
イッセイが調整した電磁砲をまた手にした。
再起動も済み、使える状態になった。
「一度、この状態で呪術士に一発撃ちます」
そう言って、呪術士に電磁砲を向けながら、モニターを操作した。
今まで過去のデータを見ていたが、現在の人体データを映し出した。
線が波打っている。
「いきますっ——!!」
———キュィィイイイン——・・・・・ビィイイイインッ!!!
———ズギャァアアアアンッッ!!!!
窓ガラス越しに放った。
「電磁砲の設定を変えました。もしかしたら、呪術で何か電磁砲に対抗したと仮定して、以前と電磁砲の威力と種類を変えてます。より強力にしました」
「呪術士への影響は?」
「もちろん強くなります。なので、これは次に呪術士が起きて、話をしても全く聞かない場合に撃ってください。短時間での撃ち過ぎには注意してください。ダメージが回復していない内に次を撃つとあまり体に良く無いです」
撃たれた呪術士の人体データの波形が少し動いた。効いている証拠だ。
「何時間空ければ?」
「最低でも一時間は空けたほうが良いです。それに、もし暴走や脱走にまで至りそうになったときや危険を感じたら連絡ください。キキと稲荷に頼みますから」
「ありがとう。助かります」
頼りになるな。と改めて神風はイッセイの顔をみた。
「じゃぁ、一旦休憩して、もう少ししたら俺は家に帰りますね。一応、出来ることはやったつもりです。ここから先は神風さんたちのお仕事で、呪術士が寝てる間は俺達ができることはないでしょうから」
「いてくれるだけで心強いよ」
「またまた」
・・・———
「何が一番良いか、一番被害が少ないかを考えましょう!」
「そうすると、魔法が使えない私が犠牲になるのが一番被害が少ないってことになるじゃない」
「ですが、リリさんの場合は磁場砲を持ってますから、それが例えば暴発だとかになると考えるとリスクが大きいですよね。私たちは何か起こっても最悪魔法でなんとか出来ますから」
「でも!魔法を使えることが最悪な何かを引き寄せる可能性だってあるわ!」
「じゃぁ、私が磁場砲をここに置いていけば良いんじゃないかしら?」
「そう言う時に限って、磁場砲があれば!という事態になりかねませんね・・・」
家の居間。
三人が真剣に話している。内容は、『セイタを誰がこの家から連れ出すか』である。
誰が連れ出してもリスクがあるだろうが、”誰なら一番被害が少なく済むか”を話合っている。
「おばあちゃんなら問題なさそうじゃない?一応、祖母と孫って関係性だし!」
キキが閃いたように言った。
「セイタさんのタイミングの悪さも、私たち異世界人や”核”に関係のある事みたいですからね・・・絶対とは言えませんが」
「じゃぁ、おばあちゃんに買い物に行ってもらうのが良いかしらね。・・・でも、おばあちゃんを生贄として差し出すみたいでなんか嫌だわ」
「そんなこと思わなくて良いじゃない!だって孫だもの!!」
「あなた急に薄情者になったわね」
三人が台所を見た。
片付けを終えたおばあちゃんが漬物の仕込みをしようとする。それを見ているセイタ。今のところ、おばあちゃんと居て特ににも問題はない。
それは、リリたち一行が全く動いていない事もある。
「私、そろそろトイレに行きたいのだけど、このソファから立ち上がるのすらちょっと怖いわ・・・!」
「魔法で抑えちゃえば良いじゃない」
「魔法はそう言うことに使うものではないのよ?!」
「ねぇ!ばあちゃん!今日もお祭りあるんでしょ?!一緒に行こうよ!!」
セイタの声が聞こえてきた。
「!?」
「おや、まさかの展開ですね」
「何が合っても私はお祭りに行くわよ」
「嘘でしょ・・・!彼がお祭りに来たら・・・絶対に呪術士がなんか脱走とかしてきそうじゃないの?!」
「キキ、言うもんじゃありませんよ。言霊という言葉が私の世界にありまして」
「私の世界にもあるわよ!!」
「じゃぁ尚更言うの辞めなさいよ!!」
「今日も、とっても賑やかね〜!」
台所も居間もみんなが喋り込んでおり、今日も今日とて賑やかだ。
ただ、おばあちゃんもセイタのタイミングの悪いさは少し気になっている。
「セイタ、今日は家に帰ってお家の掃除をしてらっしゃい。それで、しっかりと寝て、疲れを取ってから明日またウチにいらっしゃいな?」
「疲れてないよ!なんか昨日いきなり眠っちゃってめちゃくちゃ長い時間寝れたからすごく元気だよ!」
その言葉に稲荷が顔を押さえた。稲荷が昨日の夕方に魔法で眠らせてから今日の早朝までずっと寝ていたらしい。12時間近く寝たセイタはとても元気だった。
「ほら、掃除をね・・・!」
「家に大して物ないからそんなに汚れないよ!」
「そうなの・・・じゃぁ、おばあちゃんこれから買い物に行くから、セイタ荷物持ちしてくれる?」
「買い物!行く行く!じいちゃんの車借りて行こうよ!俺運転してあげるから!」
「近くのスーパーがいいのよ、今日は特売日だから。歩いて一緒に行きましょう」
「ちぇっ!じいちゃんの改造車乗ってみたかったんだけどなぁ〜まぁいいか!じゃあ早く行こうよ!」
まるで飼い犬に散歩に行こうと話しかけた時のように、セイタが嬉しそうに出かける準備をする。
「尻尾があったらちぎれんばかりに振ってそうね」
「まぁ、言いたいことはわかります」
リリが覚めた目で見ている。
「ちょ!おばあちゃんが自らを生贄に買い物に行くってことよ?!どうする?!護衛に着く?!」
「護衛が逆に問題の原因になりそうですね」
「どうしたらいいか流石にわからないわ。でも、彼がこの家から少しの時間でも出て行ってくれるならって今安心しちゃったわ。私もキキのこと言えないかも」
そう言っている間におばあちゃんは支度を済ませた。
「じゃぁ皆さん!ちょっとの時間ですが、ちゃんと心を休めて下さいね?孫が迷惑を掛けてます」
「!?いえっ!そんなっ!私たちこそっ!!」
「「おばあちゃんごめんなさいーー!!!」」




