簪の音 十八話:分解
「あんなタイミングの悪さ、初めて見たわ。私の世界でも無いわ」
「私もです。でも、彼から悪い気は感じないんですけどね」
「人畜無害代表みたいな顔して、酷いタイミングの悪さよね。私がこの世界に来た時も彼が原因で時雨に銃を向けられたものよ」
朝食後。太陽の光が部屋の中に入る。普通なら熱いはずだが、空調が効いている。他にも、今夏はおじいちゃんやイッセイが作った熱を回避する仕掛けがある為、さほど問題は無い。つまり、居心地の良い空間だ。
学校に行くわけでも、仕事に行くわけでもない三人。その視線の先には、成人してもなおおばあちゃんに付き纏う子供のような無邪気な警察官の姿が映し出される。
「ねー!ばーちゃん!俺洗い物しようか?!」
「大丈夫よ、セイタはもうお仕事行った方が良いんじゃないかしら?それともおやすみかしら?長い間、出張か何か行ってたんでしょう?」
「そうそう!あ!だからか!!研修行ってたから休んで良いって事か!『家に居ろ』って署から言われててね!」
「まぁ!じゃあ、自分の家にいた方が良いわね!料理包んであげるから持って行って頂戴ね!」
「いいよ!しばらく休みって事でしょ?!ここでゆっくりするから!」
「長く空けてたならお家のお掃除もあるでしょう・・・?」
「今度やる!!」
やりとりを見ながら今のソファで大人しく座っている三人。
下手に動いてセイタのタイミングの悪いさを引き出さない為、あえて大人しくしている。動きたくても動けないのだ。
「洗い物、私がしたいんですけどねぇ」
「稲荷だめよ。少なくともセイタ君がこの家の中にいる間はやめた方がいいわ!」
「・・・っていうか、職場から『家に居ろ』っていうのは・・・自宅待機や自宅謹慎なんじゃないかしら・・・?」
リリが思いついたように口に出した。
「え?」
「だって、休みなら”休み”って言わない?『『家に居ろ』って署から言われててね!』って、自宅待機・・・というか、自宅謹慎じゃないの?それか、彼の身を案じてとか」
「・・・彼、呪術士に顔を見られますからね。それに、我々と合流してますから知り合いって顔が割れてますし。その可能性ありますね」
「っげぇ?!じゃあここにいない方が良いんじゃないの?!」
「きっと、パパのいる機関からの指示ね。呪術士に顔を見られたのが理由なら、警察官の誰にも言えないから謎の自宅待機だわ。それが彼には伝わらないからこうやって出歩いてるのね・・・」
そう言って、テーブルのお茶をリリが飲む。
他の二人も、下手に動くと墓穴を掘りかねないため、大人しくする他なかった。
・・・———
少し暗めのオレンジ色の光。
その部屋の中は大きく二つに別れている。
片方は、イッセイたちがいる部屋。分厚いガラス越しにもう反対の部屋の中が見れるようになっている。
そして、その反対側とは、呪術士がいる部屋だ。電磁砲を撃たれて横たわっている呪術士。設備に簡易ベッドがあるが、呪術士が横たわっているのは床の上だ。
イッセイは、気を失っている呪術士を目の前に電磁砲の調整を開始した。
「本当に凄いですね」
「何がですか?」
「こういうモノを作ってしまうところですよ」
神風が指すのは、電磁砲。
「大したモノじゃ無いです。対魔法や呪術用と言いましても、実は効かない弱点があります」
「魔力や呪力を持たない人間に対しての事でしょう?」
「いえ、魔法使いにも呪術士にも効かない場合があるんです」
「そうなんだ?」
「魔法や呪術を使おうと全く考えていない時です。術を使おうとする脳波を読み取ってですからね。少しでも考えてくれたら反応するんですけど・・・なので、自己コントロールの凄い魔法使いや呪術士には効かないんです。まだまだですね」
「十分凄いよ」
電磁砲は、銃弾の出る拳銃よりも大きい。
それを慣れた様に片手で持ち、分解を始めていく。分解して1分でまず半分になった。そして、片方を床に置いて、もう片方の中身を取り出してさらに分解する。
コードをいくつか切り、別のコードと繋ぐ。そして、持ってきた新しい基盤を入れてさらに先ほど切ったコードと繋いでおく。携行用のハンダゴテでそれを素早く行う。
他にも、レンズを新しいものに交換したり、また新しい基盤を取り出して交換する。少なかったボタンが増えた。
「イッセイ君は、キキさんと魔法の話をします?」
「キキがうちに来た時は参考になればと思ってよく聞きました。あ、でも沢山聞いたからって俺は魔法使えませんよ」
作業をしながらだったイッセイが、顔を上げて神風の目を見ながら答えた。冗談を言いながら顔も笑っている。
その表情を見た神風は思った。こんな作業をしながらでも笑って冗談が言えるこの青年が少し怖い。しかし、その怖さを凌ぐほどに尊敬が出来る。
今まで異世界人が関わる事とリリを迎えに行く以外、大してちゃんと話をしたことはない。
しかし、ひと回り近く年下のイッセイに対してとても信頼を置いている自分がいる事に神風は驚く。
仕事で神風にも沢山の部下がいるが、イッセイ以上に信頼・信用をしている人物はいない。
彼の仕事ぶりか、喋り方か、何かがそう思わせている。と考えながらも口では別の言葉を話す。
「”魔力”がないからだろう?もしイッセイ君が魔力を持っていたら、もの凄く優秀な魔法使いになるんだろうね」
「悪用するかもしれませんよ?」
「君は絶対にしないって」
「かいかぶりすぎですよ」
言いながら、イッセイのては止まらない。先ほど床に置いた電磁砲の半分を持ち、もう半分と合わせる。そしてネジで止めた。
「これで様子を見ましょう。グレードアップしました。上手く起動すると良いんですけどね」
「早いね」
「構造は頭の中に入ってます。なので、ここに来る途中に何度も作業のイメージをしました。だから早かったんだと思います」
「君の頭の中を覗いてみたいものだ。それで、イッセイ君からみた魔法っていうのはどんなものなんだい?それに、稲荷さんからも聞けました?”呪術”に関する事」
イッセイの後ろにずっといた神風が、隣にきて近くのパイプ椅子を引っ張り出して座った。
電磁砲を再起動したイッセイの横がをみている。
「俺はキキの魔法の話ししか知らないからなんとも言えないですね。呪術がどんなものかはサッパリです。ただ、キキは『呪物持ち歩くなんて気持ち悪い!!恐ろしい!嫌だ!!』って毛嫌いしてます。まぁ、神社の生まれだから呪いの代物なんて嫌いなんでしょうね。稲荷も呪術は使えない様です。存在は知ってはいるものの、関わったことがないみたいです」
「そういえば、キキさんと稲荷さんの魔法と言うのは一緒なのでしょうか?」
「あ、その辺は世界が違うだけあって全く・・・?別物みたいです。魔法の出し方を見てる限りですけどね。稲荷はこの世界に来たばかりで、魔法の話はあまりしませんでしたから。ただ、二人の話を聞いていると魔法使い同士、"面倒だなぁ〜"と思うポイントは一緒みたいですよ」
「面倒なポイント?」
「はい、例えば、【この場に無造作に風を起こす】のは簡単だけど、【天井付近だけに、一糸の風を部屋の四隅に回し続ける】のは面倒みたいです」
「細かい動作が面倒なのでしょうか?」
「それもあるみたいですが、規模が大きくても面倒な事があるみたいです。あと、今のところですけど、稲荷の魔法の出し方は【型】があるみたいですね。公式と言うんでしょうか・・・」
「段々俺じゃわからなくなってきたかな」
神風が笑い始めた。未知の感覚を、聞いただけで自分の中で整理してインプットしようとすることが既に凄い。さらに、あっているかは別として、自分なりの解釈を言語化して人に伝えようとしている事にさらに驚いた。しまいには笑い始める。
「車で例えるなら、キキがMT車で!稲荷がAT車ですね。
キキはその場で考えて魔法を作れるので応用が効くんです。ただ、発動までにタイムラグがあったりしますけど。稲荷は使う術を絞っていて、型のようにして覚えているんだが、何かに記憶させてるような感じです。だからすぐに対応できてます」
「良く、分析してますね」
電磁砲も、起動が完了した。一見して問題ないように見える。
しかし、また魔術師が起きた時に電磁砲を撃ち、ちゃんと動くのかを試験しなければならない。一旦はイッセイの役目は終えたが、このまま帰るわけにはいかないのだ。
「・・・機関の収集した呪術士のデータ、見ますか?」
「もちろん」
興味津々な顔をしてイッセイが返事をした。




