簪の音 十七話:時機
「「あれ?俺だ」」
携帯電話の震えに気付いて声を上げたのは、イッセイとセイタだった。
「誰じゃい!朝っぱらから電話してくるヤツは!まだ8時にもなっとらんぞ!」
「俺、署からだぁ〜〜!次何言われるんだろう・・・」
セイタは職場の警察署からの電話だ。そしてイッセイの方は
「神風さんからだ」
現在、呪術士を拘束・監視している、神風 時雨からの電話だった。
イッセイは画面を触って応答した。
「おはようございます。イッセイです」
『イッセイ君、おはようございます。朝からすみません。電磁砲のことで聞きたい事があって』
「勿論、どうしました?」
『実は、電磁砲の液晶画面に出てるバッテリー残量がかなり減ってきたんです。もう残量30%で。なので、一緒に借りた充電器を挿そうと思って。念の為、電話しながら繋ごうと思いまして』
「あぁ、そういうことですね。でしたら、充電前に一回電磁波を呪術士に撃ってからにしましょう。呪術士は今どんな感じですか?」
『明け方まで起きてましたが、その後寝てます。寝てるんだか気絶しているんだか定かじゃないですけど。私はよく分かりませんが、電磁砲を撃たれてもどうにか術を使おうとかして足掻くことにより体力とかを使っていたのなら、多分気絶でしょうね』
「じゃぁ、今がちょうど良いですね」
イッセイと神風の会話。電話はスピーカーではないので、イッセイの声しか食卓には聞こえない。しかし、イッセイの『今がちょうど良い』という言葉を聞いてリリが疑問を口にした。
「・・・おじいちゃん。彼がこの場にいて、”今がちょうど良い”なんて事あるのかしら?」
「あると思えん」
おじいちゃんとリリがちょっとピリピリとし出した。それに気付いたキキと稲荷は二人で顔を見合わせる。おじいちゃんとリリがセイタを凝視し出した。二人の箸が止まる。
「えええ!!それ俺がやってたのにぃ〜!まぁ、しなくて良いって言うんなら良いけどぉ〜!。えっとね、俺のデスクにカラーボックス?なんか書類を立てかける箱があるでしょ?それに入ってるんだけど・・・え?今?今は朝ごはん食べてるよ!なんかいきなり休みっていうか家にしばらく居ろ!なんて言われてさぁ〜!」
セイタが同僚だろうか・・・仕事と雑談が混じりながら話をしている。
『イッセイ君、寝てる呪術士に今また電磁砲を打ったよ』
「これでしばらく・・・充電している間は問題ないですね。じゃぁ、充電器を挿してください」
『充電前の操作は無しかな?』
「はい、挿してからの操作です。挿した後、急速充電のモードにするのと、一旦電磁砲本体を再起動します。まぁパソコンと一緒です。ずっと起動状態だったので一度シャットダウンとかした方が良いので。で、繋いだら押してもらいたいボタンなんですけど、最初は赤いボタンを押してください。それが急速充電のボタンです」
おじいちゃんとリリは次はイッセイの会話を聞いた。電磁砲の操作についての説明。問題なし。
続いてセイタに視線を戻す。
「だからね!あれだよ!書類立てかける?入れるやつ!とりあえず端から見てみろって!見りゃわかるんだから!!右から白、白、透明、黒って並んでるでしょうが?!」
「その次に、液晶画面です。急速充電を開始したら表示内容が自動で変わります。多分、再起動が出てると思うんですけど」
『あ、あった。それを押せば良いんだね?」
「はい、そうです。そうしたら——」
「そしたら次は・・・その隣の赤いの!!」
「「!?」」
「フゴウッ!!!」
セイタがイッセイの会話の途中に割り込むかのごとく言葉を発した。
慌てておじいちゃんとリリがセイタの口を塞ぐ。しかし
『再起動をして、赤いボタンを押せば良いんだね?』
「えっ?!あっ!神風さん違う!今のはこっちの話で・・・!!」
『”ビィイイイイイイ———!!!!!システム強制終了。再起動ハ管理者ノ指紋照合ガ必要デス”』
イッセイの電話のスピーカーから、小さいながらに立派な警報音が流れてきた。
「・・・———っ」
イッセイの喉が締まった。
「え?!なに?!俺なんかした?!」
「したわい!!無意識罪というものを作ってやりたいわい!!」
「怪しいと思ってたけど、こういう事ね・・・!タイミングの悪さは一級品ね?!イッセイ!!貴方は悪くないわ!!」
「いや、俺が部屋から出て電話すればよかったんだ・・・」
「イッセイそれは違う!全部コイツが悪いんじゃぁ!!」
「何で俺っ?!」
それを見ていたキキと稲荷。そして、おばあちゃんは食事に集中していて事態を把握していない。
「おやまぁ・・・?四人ともどうしちゃったのかしら?」
「えっとね、おばあちゃん。今のはね・・・イッセイの電話の最中の”凄いタイミング”でセイタくんが発した言葉が神風さんに伝わっちゃったみたいなの・・・」
「それで、こんなにみんな怒るのかしら?」
「おそらく、電話の向こうで機械操作を説明されていた神風さんが、セイタさんの声を聞いて誤操作をしたみたいですので・・・」
「あらららら、セイタったら本当にタイミングが悪い子ねぇ・・・何でこんなタイミングの悪い子になっちゃったのかしら?」
話にだけ聞いていたリリも、キキも、稲荷も、初めてセイタのタイミングの悪さを体験した。
「はぁ、今から行きますね。充電前に一回撃っておいてよかったですけど、呪術士に耐性ができたり対処されたら困りますので」
『なんか、申し訳ないです』
「いえ、我が家の問題ですので大丈夫ですよ」
そう、電話に向かって言ったイッセイは立ち上がった。
イッセイを見て、おばあちゃんが皿の残りを片付け始めた。台所へ持って行き、綺麗に詰め直す。
おじいちゃんは、セイタから手を離して別の部屋へ入ったと思ったらすぐに工具箱を持って出てきた。
「イッセイ、この一式がありゃあの電磁砲も直せるじゃろ。まぁ、お前さんがいれば指紋認証だけでまた使えるじゃろうけど、なんかバージョンアップさせてくるんじゃろ?」
「はい!ちゃんと間に休憩取って頂戴ね!」
お弁当箱と水筒をおばあちゃんから受け取る。
その一連の流れを、この家の者ではない人間が見て感心する。連携と思いやりの塊だと。
「え?!なに?!どういうこと?!イッセイ!ちゃんとご飯食べ切ってから出かけろよ?!ばあちゃん大変だろう?!」
「貴方はちょっと黙ってて!!」
リリに再び口を塞がれるセイタだった。
・・・———
機関の建物の地下。赤暗いランプで照らされた廊下はとても不気味だ。
イッセイと神風が、呪術士が拘束されている部屋まで一緒に歩いて向かう。
「本当にすみません。お手数お掛けします」
「こっちからすると、イッセイくんがいてくれると心強いから嬉しい限りだよ。それよりも、私が指示以外の操作をしてしまったのが原因だから、申し訳なかった」
「いや、うちの貧乏神のせいなので」
「貧乏神?」
あまり効かない言葉に神風が少し笑った。
「あの警報は、防犯装置みたいなものなんです。何というか、緊急停止ボタンみたいなものです。再起動中やシャットダウン中に押すことにより、一旦全機能を停止させるんです。ちなみに、実は管理者の指紋認証だけじゃ再起動しないんです。パスワードとか他にも必要なものがあるんです。盗難されても勝手に使えないようにしてるんで」
「凄いね。それならやっぱり量産しても安心だね」
「コスト高いですよ」
そう言いながら、離していると長い廊下もすぐに歩き終わり、部屋の前まできた。
銀行の金庫のように分厚い扉を神風が電磁ロックを解除して開閉した。
目の前には、分厚いガラスと格子、その先に横たわっている呪術士が居た。




