簪の音 二話:緑茶
ポゥ・・・
ポゥ、ポゥッポゥーーーーー
光り出した三つの勾玉。そしてそれぞれが一筋の光を出した。目の前の本殿に向かうかと思った光の筋は、なんと3人の右側へと向かって伸びていった。
「はぁ?!どこ指してるの?!」
「先に何か見えるわ!小さな祠よっ!!」
あらぬ方向へと向かった光りに驚くキキ。そして、リリが光の先に祠があることに気づいて近寄った。
「リリさん!危ないですから!」
イッセイはリリの腕を掴んで止めた。代わりに自身が祠へと向かう。仮にも母親の生まれの神社だ。少なくとも自分に危害はないだろうという希望で近づいた。
祠には扉が付いていた。しかも、ほとんどが石で作られているのに扉だけ木製である。不自然だ。そしてイッセイが覗き込んだ時、木製の障子貼りの扉が開いた。
ーーーバンッ!!
「ぅわっ!?」
「キャァッ?!」
「どうしたの?!」
驚いてイッセイが一歩下がった。
すると、開いた扉から煙が出てきたそして、人の指が出てきた。
「ギャァアアアアアアアーーー!!幽霊よ!!妖怪よっ!!!!!」
リリが叫ぶ。叫んでイッセイの腕を掴んで後ろに引っ張る。逃げようという合図だ。しかしイッセイはびくともしない。どころか少し前へ体を傾けている。
「ちょっ、本当ホラーなんだけど、この世界の神社ってなんかこう・・・怖いわね・・・」
「そんなわけないでしょ?!神社って神聖なところでしょ?!こんなの見たことも聞いたこともないわ!!」
そう喚いている最中にも、小さな祠から指に続き、手、そして腕までもが出てきた。
「合ってない!!合ってない!祠と出てきた人の体積が合ってないから?!」
「人そもそも人なの?!イッセイ!あぁ!!顔出てきたわ!!耳があるのに頭に更に耳が生えてるわ!!耳が四つあるわ!イッセイ!やっぱり妖怪よ?!」
祠からよりも長身の人型が出てきた。人とは限らない。なんせ耳が四つある。
和服を着たその長身の人が一息ついた。
「ふぅ、ちょっと入り口が狭かったですね?」
声が低い。この世界の基準で当てはめるならこの声の低さは男性だ。
「人に始めて会ったらまずは”こんにちは”でしょーーー?!」
「貴女何言ってるのよ今はそれどころじゃないでしょ?!敵か味方か判断するところでしょ?!イッセイーー!!」
リリがキキに突っ込む。
「まぁ、神社から出てきたから悪い人ではないんじゃないかな?」
女性二人が慌てふためく間、祠から出てきた人が三人に向かってきた。
「こんにちは。初めまして。私の名前は『稲荷』と申します」
「初めまして、イッセイと言います」
「よろしくお願い致します。この世界に、『核』を探しに参りました」
そう、男性は・・・稲荷は言った。
「貴方も核を?!残念だけど、核は私が持って帰る予定よ!!渡さないんだから!!」
「ですが、最初に核に触った者が持って帰れるんですよね?早い者勝ちですよ!」
ニコニコと、色素の薄い髪の毛を揺らしながらにっこりと笑った。
「それより貴方は人間なの?!あんな狭いところからニュルニュル出てきて?!どうなってるのよ?!」
妖怪の類だと疑っていたリリ。リリには人か人ならざる者かが重要のようだ。
「あれは”術”ですから。移動魔法は大変なので、この神社の祠と私の世界を一時的に繋いだんです。そうするとあのような形になるんですよ。その方が消費する魔力も少なくて済みますので!」
「魔法の事は全くわからないわ!!」
そう、別の世界から来たキキは魔法が使えるが、イッセイのいる世界では魔法は認知されていない。漫画やアニメの中の話である。使えるものも居ない。
「でも、祠と世界を繋ぐのだって、最初は十分に大変よ・・・あぁ、貴方の世界で以前にもその祠から出入りした人がいたって事ね?!だから、それを今回は貴方が使ったと・・・それなら魔力の消費も最小限だし、帰る時だけまた繋ぎ直せば———」
「私たちには理解できないから解説しなくてよろしい!!」
稲荷は目の前で自分を見ている青年のイッセイの目を見返す。
そして、近づいた。
「ここの神社の生まれの方の血縁ですね?神社と同じ、色と香りがします」
「色と香り?まぁ、俺の母がこの神社の生まれです」
「そうでしたか!この度は、再度祠と世界を繋いでしまってすみません。でも、悪影響はないですから」
「十分あるでしょう?!貴方が出てきたんですから?!」
リリのツッコミもむなしく無視をされ、稲荷がイッセイに近づいた。
そして、挨拶として敬意を込めて稲荷がイッセイの右目の瞼に口づけをした。
「ぎゃああああああーーーーー!!!何すんのよっ?!」
リリが発狂した。すぐに稲荷からイッセイを引き離し、ハンカチで瞼を擦る。
「あらっ?!貴方そういう趣味?」
キキは案外冷静だ。
「いいえ、彼には敬意を込めてのご挨拶です」
「じゃぁ?!私たちもするっていうの?!」
「いいえ?あなたたちには決して致しません」
「良かったはずなのになんかムカつくわね・・・」
安心と共になぜか苛立ちも芽生えたリリ。
イッセイを除く三人がまたやんやと騒ぎ始めた。その光景を見てふと思ったイッセイ。
「・・・この人もうちに住むことになるのかな・・・?」
・・・———
「ぺぇえええーーーーー!!!イッセイ!!お前さんの悪いところじゃ!!なんでもかんでも拾ってくるのは良くないぞ!!元の場所に帰してきんさい!!」
「私はおばあちゃんに拾ってもらったの!!」
「私は拾われたんじゃなくてついてきたのよ?!」
「カナンは元の世界に還したじゃないか」
「変わらん変わらん!!うるさいうるさい!しかも今度は男で耳が四つじゃわい!!四つも耳があってワシのでかいこの声のデシベルに耐えられるのかお前さん?!!ん?!」
一行はイッセイの自宅へと帰ってきた。
稲荷を連れて。
「こんにちは。初めまして。私の名前は『稲荷』と申します。異世界で稲荷神社に常駐しております。まぁ、人間なのですが、狐神の力が体に入っておりますのでこんな耳もしてます。あ、魔法は使えます。ですが、こちらの御宅にお世話になるのにお役に立てる魔法であるかどうかは少し自信がないのですが・・・」
頭の上の耳をピクピクと動かしながら、少し照れたように挨拶をした稲荷。
「うちに住むの前提かーーーーーいっ!!」
居間で行われる話し合い。
「まぁまぁ、お部屋も余ってる事ですし、賑やかになって良いじゃありませんか!はい、どうぞ!水羊羹ですよ」
「わー!おばあちゃんの手作りでしょ?!美味しいのよー!二年ぶりだわ!」
「何よ?!おばあちゃんマウント取って?!」
リリとキキのこの喧嘩腰の会話は最早標準である。
「冷たい緑茶と冷や飴はどちらにしますか?」
「私緑茶!!」
「私冷や飴!!」
「貴女、羊羹に冷や飴なんて甘いものばっかり食べたら太るわよ!!」
「良いのよ!この後おばあちゃんとお出かけするから体力使うし!おばあちゃんと買い物行って一緒にご飯作るのよー、ここに住んでいる者の特権だわぁ〜!!」
この家の居候であるキキが上から言う。
「もうすぐ夏休みだわっ!!そしたら私もここに泊まるわ!!」
「ええい!うるさい小娘どもめっ!ワシは許可せんからなぁっ?!」
「賑やかなご家庭ですね」
「そうなの!毎日楽しくてね」
涼しい顔をした稲荷とおばあちゃん。おばあちゃんが稲荷に緑茶を差し出した。
「頂きます」
そう言い、器を持ち一口含んだ。
「如何かしら?」
「これは!とても美味しいです!私の世界のお茶と似てます。しかし、渋みがなくむしろ甘いような」
「水出しなのよ!温かいお湯で煮出すのが一般的だけど、これはお水でじっくりお茶のエキスを出しているのよ!そうすると渋みや苦味が出ないでスッキリするのよ〜!」
「それは良いことを聞きました!」
「是非、試してちょうだいな!」
「なんで2人だけほのぼのしてるのよ」
「小娘たちも、ちったーアレくらい大人しくせいっ!!」
「なっ?!私は巫女姫ですもの大人しいわっ?!」
「何処がじゃい?!」




