簪の音 一話:西瓜
世界の”調整”が入るたびに、時間が止まる。
この間は50年止まって
その前は117年止まった
不規則な
この現象は
いつか終わるのだろうか———
・・・ーーー
「あああああーーーーー!!!」
綺麗な長い銀髪を、暑いからと頭の後ろで綺麗にまとめ上げた女性が面白そうな光景を目にして騒いだ。
「うるさいわねっ!静かにしなさいよっ!!」
キキの叫びに答える少女の名前は《リリ》。ツインテールをした13歳の女子中学生だ。
「いいなっ!いいなっ!!私も足!足水に浸しながらスイカ食べたいー!!」
「やれば良いでしょ?!」
リン・・ーーー・・・リリンーーー
チリン・・・ーーーーー
外。
使われていなかった家の屋上。改造して扉を新たに設けて外に出れるようにした。そして、簾で日除けを作り、長椅子を準備して、水桶も置いた。
「幸せねぇー・・・またこんなことが出来るなんて夢にも思ってなかったわぁー・・・」
この家の婦人であるおばあちゃんこと《ハナヨ》は、日陰で足を桶水に浸しながら食べるスイカに感動をしていた。
「おばあちゃんの世界では皆んなこうやってたの?!」
キキが2人と同じ様に足を冷水に浸してスイカを食べる事が出来てご機嫌で聞いた。
「そうよ、昔の事だから今はどうだか知らないけどね?屋上じゃなくて、お庭でしたの。この世界はお庭がないから屋上をおじいさんに作って頂いたんだけど!暑い日は庭で水遊びしたものよ。水風船なんていうのもあってね?まぁゴミが散らばるからあまり良しと思わない人も多かっただろうけど、懐かしいわぁ〜」
「・・・風船に水入れたら重くない?」
リリが片手にスイカを持ったまま、ジェスチャーで胸の前で大きく円を描いた。
「小さいんですよ!片手で持てるくらいですから!それを投げ合いっこするんです」
「おばあちゃん結構お転婆だったのね」
「この世界にはないの?!」
穏やかなおばあちゃんしか知らないリリはスイカを食べながらも意外そうに言う。キキは自分もやりたいとばかりに水風船の所在を聞く。
そうやって話に花を咲かせている。
家の屋上で、夏を満喫している女性が三名。そして、その近くでパラソルの日陰の下、作業をしている発明家の男性が二名いる。
その二名は屋外で画面を見ながら作業を続けるが、一名・・・この家の主人であり、発明家のおじいちゃんは文句が止まらない。
「なぁあああにが最優秀発明家賞じゃ?!大したことしてねぇだんべ!?急速氷製造機ダァ?!そんなもんおじいちゃんはイッセイが生まれる前に作ってるんですぅーーー!!!」
「じゃぁ、そんな前に作ってたんなら特許取っておいたり量産販売すればよかったじゃん・・・」
その発明家のおじいちゃんの孫であり、こちらも発明家である《イッセイ》が呆れながら言う。
「当時の技術だと安くは作れんかったんじゃ!!当時な?!時代が悪いんじゃ!!大体そんなもん作ったくらいでこんな大金とデカデカとしたトロフィーなんぞ貰いおって?!こちとら環境改善に?!そもそも世界救っとるんじゃぞ?!あぁ?!」
「良いんだよ、じいちゃん。俺たちがやった事を他の人が知らなくても。みんな、この変わった世界で楽しそうに毎日暮らしてるじゃん。その顔見るだけで良いと思わない?」
「お前さんワシより年寄りの思想じゃなぁっ?!?!」
5人が集まっているこの家。この5人の事情はそれぞれ大いに異なる。
まず、この家の主人であるおじいちゃんは発明家で、この世界で生まれ育った。
そして、そのおじいちゃんの伴侶であるおばあちゃんの《ハナヨ》は異世界で生まれ育った。何十年も前に異世界転移でこの世界にやってきた。そしておじいちゃんと結婚をしたのである。
そしてその孫である、同じく発明家の《イッセイ》。今年で21歳。大学生である。この3人が家族だ。イッセイの両親と兄弟は海外へ出向いている。
そして、《リリ》。今年13歳の彼女は二年前の11歳の時にこの世界へやってきた。しかし、彼女は”この世界”の生まれである。生まれてすぐに異世界に誘拐され、本人は自身の生まれを知らないまま11年間他の世界で生活をしてきた。
しかも、研究材料として、ほとんど隔離されて生きてきたのである。”箱入り娘”と思わせて本人に気づかせないようにだ。それもお役御免となり、二年前に本人に”熨斗付き”ならぬ爆弾付きでこの世界に返された。
最後5人目は、《キキ》。22歳。異世界の巫女姫である。昨年、この世界の劣悪な自然環境を生み出している『核』を探し求めて異世界からやってきた。『核』を持たないと帰れない使命を負っている。そのため、この家に住んでいる。
とにかく、何とも数奇な人生や、体験をしている5人が集まっているのだ。
「あ!イッセイ!忘れてたわ!あなたのお母様の生まれの神社に行きましょうよ!」
「そういえば行けてなかったですね」
リリが思い出した様にイッセイに言った。
昨年、キキがこの世界に来た時に騒動が起きた。その時、イッセイがみんなにお守りを渡したのである。イッセイの母の生まれの神社のものだ。騒動が落ち着いて、リリが『お礼参りに行きたい』と言っていたのだが、結局なかなか行けずじまいだった。
「そうですね、今週末にでも行きましょうか。それ以上先延ばしにするとまた暑くなりそうですし」
「そうね、空気汚染はひとまず解消されたけど、気温が下がるのはまだ先かもしれないものね。暑くなったら困るもの。ねぇあなたまた何とかして『核』に接触して次は気候をどうにかして頂戴」
「気温下がったらまた空気汚染が復活しちゃうかもよ?」
「・・・じゃあ暑いの我慢するわ」
「世界の自然環境を小娘たちの気分で変えられちゃたまったもんじゃないわいっ!!」
2年前までこの世界の環境は悪かった。空気汚染は酷く、専用マスクを着用しなければ外には出れなかったのである。そして、温暖化は進み、陸地はどんどん海水に飲み込まれていく一途であった。その原因がキキが探している『核』である。
イッセイの世界には『核』があるだけで本来の美しい環境が悪となる。しかし、イッセイの世界以外ではこの『核』がないと十分な配慮をしないと世界の環境が悪化する。つまり、イッセイの世界からすると悪の根源の『核』だが、他の異世界からすると喉から手が出るほど『核』が欲しいのである。
その核に、昨年自身の魔力の暴走により刺激を与えてしまったキキ。核の設定が変わってしまい、この世界の空気汚染がなくなったのである。
「でも、空気汚染は無くなったけど、他に何か影響出てたりするのかな」
イッセイがボソッと呟いた。
「そうよ!代わりに他の何かが悪くなってたりするんじゃないの?!どうなのよ?!」
リリがキキに言った。
「そうだとしても私わからなーい!」
「無責任!」
「はーい責任とって早く探して持って帰りますー!」
娘たちの軽い口喧嘩が始まった。いつもの光景である。
「あら、キキちゃん帰っちゃったら寂しいわね〜?」
おばあちゃんがのほほんと言った。
「・・・!!じゃあまだここに居る!しばらく探しに行かないから〜!」
「あんたそんな事言ってもう一年も経ってるのよ?!」
・・・———
「あら、素敵な神社じゃない?」
イッセイとリリ、そしてキキも一緒に神社へときた。
「あなたも異世界だけど神社の生まれでしょ?他の神社に来ていいの?」
「異世界だから大丈夫でしょ!!」
あっけらかんとキキは言った。この能天気娘がと年下のリリが思う。
「イッセイ!私ちゃんと勉強してきたのよ!神社に来たら、真ん中を歩かない!お清めをする!二礼、二拍手、一礼!どう?!」
「リリさん、流石ですね」
「学校の勉強の他にもちゃんとやってるんだから!」
そう言って、室内だが屋外のように作られている神社の通路の端を歩くリリ。
「屋内の神社って初めて。何か・・・変」
「空気汚染がなければ、多分外の木々に囲まれた場所に作られたんだろうけどね」
キキが屋内の神社という見慣れない光景に違和感を露わにした。それをイッセイなりに汲み取って言葉を返す。
「ほら!あなたたちも!ちゃんとお礼参りしなさい!あれだけ大変なことがあったのに、高々時雨の骨折だけで事が丸く収まったんだから!」
昨年の騒動で一人だけ足を骨折するという大怪我を負った。しかし、緊急事態にこそ活動する隊員の一人ということ、知り合いということ、現在は完治して元気にしていることもあり、リリの中では丸く収まったと認識している。
「あなたね!人が大怪我したのに丸く収まっただなんて・・・!」
「ほらほら、キキ。ここで喧嘩は無しだ。まずはリリさんのいう通りにちゃんとお礼参りしよう」
「神社の鳥居を出たら覚えてなさいよっ!」
お礼参り、三人がそれぞれ当時持っていたお守りの勾玉を手に掛けてお参りをした。
「勾玉が神社に来れて喜んでる気がするわ!」
「風で揺れてるだけじゃない?」
「屋内だし空調効いてないから揺れるはずは・・・ん?なんかおかしくないか?」
その時、三つの勾玉が盛大に光り出した。




