簪の音 十五話:砂煙
セイタが車で待たせていたのは同僚の警察官ではなく、例の呪術士だった。
稲荷が盾になり、セイタには今、イッセイとキキと呪術士が見えない。
このまま稲荷に視界を塞いでもらっている間になんとかしないと、セイタに色々とバレてしまう。
「ちょっ!なにしてんの?!なんで見えなくするのさ?!」
「まぁ、良いじゃないですか。特に何が起こってるわけでもないんですから」
「嘘つけ!!じゃぁ隠す必要がないじゃないか!!」
隠された事に抗議するセイタ。稲荷が服を捕まれた。こんな子供みたい対応ではいけないと考えた稲荷はすぐに行動に移す。
「おや?どうしたのですか?そんなに眠そうな顔なさって。お疲れなんじゃないですか?もう今にも寝てしまいそうじゃないですか?」
「は?何言ってんの?俺は別に・・・あれ?・・・なんで———」
稲荷がセイタの肩に手を乗せ、顔を覗き込むようにした。セイタは、稲荷の綺麗な顔が目の前に迫り一瞬驚いた。そして、全然眠くもないのに眠そうだと言われて反論しようとしたのだが。
本当に急に眠気に襲われ、そのまま寝てしまった。
「すみません、見せられるものではないので少々眠っていてくださいね」
そう言い、片腕はお皿を持っているので、もう一本の腕だけでセイタを抱えた。
「イッセイ!!キキ!眠って頂きましたので大丈夫ですよ!」
「助かるっ!」
「いくわよぉぉおおおー!!!まずは出てきなさい!!」
キキが魔法でパトカーを囲う。そして、光ったと思ったら車中から空中へと呪術士を出した。
「ッチ!珍しい生き物を見つけたから付いてきてみればそう言う事か!!!」
呪術士が捨て吐いた。
「何わけわかんないこと言ってんのよ!!あ!あんたの世界には『警察官』が居ないのね!ただ助けてくれる親切な人だと思ったんでしょー!残念でした!この世界の警察官というのは私たち異世界人からしたら敵なんですー!」
「五月蝿いぞ、魔女巫女!!」
「ネーミングセンス無し!!」
空中に放り出した呪術士は地上へと落ちない。キキは呪術士にもう魔法を掛けていない。自身の術で浮いていると言うことだ。
「またあの頭痛を喰らえ!!」
呪術士が以前もキキと稲荷に効果があった術を出そうとした。
「来るとわかってりゃ最初から防御魔法するわよ!!舐めてんの?!」
そう言ってキキが手を前に翳した。
「キキ!それは誘導です!別の術を発動するつもりです!」
「はぇ?」
「勘が良いなぁ!!狐神はっ!!」
そう言った呪術士は地面に手をついた。
そこから黒い鞭のような影が高速で広がって行く。
「地面から距離をとって下さい!」
稲荷はセイタを抱えたまま宙に浮く。キキも魔法で飛び上がった。
「しまった!イッセイ!!」
イッセイは魔法が使えない為飛べない。気付いてイッセイも宙に浮かそうとした稲荷だが、イッセイが見当たらない。
「イッセイどこに?!」
稲荷が見回すと、イッセイはパトカーの上にいた。そして電磁砲を両手に構える。
「この間はソレでよくも撃ってくれたなぁ?!」
「今日も撃ちます」
そう言って、狙いを定めて引き金を引いた。
「二度も同じ手を喰らうかぁああ!!」
「同じ手は使いません」
電磁砲から光が放射された。
銃口の先にいた呪術士はニヤリと笑った。
「バカだな!軌道を変えられない一直線のものなど俺にはもう通用しない!」
そう言って素早く避けた。しかし、その瞬間からキキが攻撃魔法を開始した。
「じゃぁ魔法はどうかしらぁー?!」
宙に浮いたままいくつもの魔法を繰り出す。
風圧での攻撃、電気攻撃、他にも魔法で押さえつけにかかる。
「高性能な魔法だが、”呪力”と相性の悪い”組み方の魔法”だな!!」
そう言って、呪術士は一つずつ対抗してキキの魔法が打ち消された。
手には以前も持っていた黒い物体・・・呪物だ。
「呪術とか呪力とか知らないのよ!!ムカつくわねぇーーー!!」
「知らないものには対抗する手段が思いつかないだろう!ザマアミロ!!おい巫女魔女!!お前のその首から下がってる道具を寄越せ!それで今回は手を引いてやる!」
呪術士がキキが首から下げている『刻印石』の話をした。
服の下にある為、見ることはできない筈である。
「それも呪術だかなんだかで判るって訳?!全く呪術っていうのは・・・もしかして”見える”んじゃなくて服の中を透視してるって事?!ちょっ!バカあんたちょっと信じられないんだけど?!ギャァアアアアーーー変態ーーー!!!」
キキが魔法で連続爆発を放つ。
「キキ!落ち着いて下さい!あなたの刻印石は特殊魔法みたいなものですから、逆にわかりやすいんです!!」
「稲荷どういう意味よーーー!!」
「それより稲荷!まだ地面に降りない方がいいのか?!」
「まだです!」
「じゃぁ、俺を浮かせてくれ!!」
「!?———分かりました!!」
「ちょっと、私の質問に答えなさいよー!!」
外はまだ完全には道路整備が行き届いていない。
砂利や土、砂ばかりの場所もまだある。この場がそうだ。
キキのたくさんの爆発は、砂煙を巻き起こす。視界がどんどん悪くなる。
「馬鹿な巫女魔女だ!!視界が悪くちゃいくら魔法が使えても俺を捕らえ切れないだろう!!」
「しまっ・・・!!今風で全部吹き飛ばしてやるわ!!」
「遅いっ!!!貴様の刻印石を頂く!!」
キキが風の魔法を繰り出した。砂埃はまだ全然残っている。しかし、風の流れを読んだ呪術士がキキの居場所を特定して一目散に飛んで行く。
「キキ!刻印石を取られます!」
「大丈夫よ!私以外が触ったら——」
「呪力で覆われたら触った事にはなりません!奪われます!自分を含めて防御魔法を・・・!!」
「遅い!!!」
視界がクリアになった。
キキの眼前には漆黒の服を纏った呪術士の右手があった。
「キキ!!伏せろっ!!」
イッセイの声にキキが反射的に顔を伏せた。
———ズギャァアアアアンッッ!!!!!
いつの間にか宙に浮いているイッセイが電磁砲を放った。その威力は先ほどとは比べ物にならない光の量と威力だ。
隕石が落ちて燃え尽きる時のように、周囲が白昼のような明るさに包まれた。夕方だった現在、よりその明るさが際立つ。
「おまっ・・・えっ・・・ぇ・・」
呪術士が地面に崩れ落ちた。そして、かろうじて文句は言えるが、体は動かない。電磁砲が直撃したのだ。
しかし、近くにいたキキはなんともない。
「え・・・?絶対今の私も射程範囲内に入ってたでしょ?!私なんともない・・・わよね・・・?」
伏せてた顔を上げて、自分の手指をワキワキと動かす。目の前の呪術士が無惨な姿になっている。自分も電磁砲の対象物なのになんともない事に安堵しながらも恐怖心が拭い切れない。
「大丈夫です、イッセイはキキに顔を伏せさせることでギリギリ射程圏内から外したんです」
近寄ってきた稲荷が呪術士を魔法で持ち上げた。
稲荷がいた方をみれば、セイタと料理の皿も浮いている。
「間に合って良かった」
「いきなりパトカーの上から飛び跳ねるんです。びっくりしましたよ」
「だから”浮かせてくれ”って言ったじゃないか」
そう言って上手くいった事で安堵したのか楽しそうに笑っている。
「大変だったんですよ?イッセイの言う”浮かせてくれ”は、飛び跳ねた時の加速を止めて浮かせれば良いのか、加速そのままに浮かせ続ければ良いのかわからなかったんですよ?イッセイの計算と私の受け取り方が違えば、キキまで電磁砲で撃たれてしまいますからね?」
「上手くいって良かったね」
「まぁ、イッセイの腕がいいんでしょう」
そう喋りながらも、宙に浮きながら倒れている呪術士を診る稲荷。
「きつ・・ね・・神・・・!貴・・様、も・・・・——!!」
「呪術はしばらく使えそうにありませんね。もう地上に降りても大丈夫でしょう。この一体の地面にとんでもない術を仕掛けていたようですが、それももう発動していないようですし」
そう言って、まず自身を一番に地上に降ろした。それからイッセイを着地させた。
セイタは魔法を解く時に稲荷が受け止め、お皿はキキが受け止めた。
「・・・あぁ!!漬物のタッパーがなくなってるわ!!」
「あーあ、どこいったんだろうね」
「取り込まれちゃいましたか、仕方ありませんね」
いまだ眠っている、おばあちゃんの漬物を楽しみにしていたセイタの寝顔を三人で笑いながら見た。




