簪の音 十四話:漬物
———バンッ!!
居間へ続く扉が乱暴に開いた。
その瞬間、稲荷の耳に魔法が掛かった。獣の耳が見えなくなった。
「電気点いてるってことはいるんじゃーん!!じいちゃん!ばあちゃん!今日祭りが・・・」
部屋に入ってきたセイタ。
目の前には自分の祖父母や従兄弟ではない人間がいる。一瞬止まったものの、すぐに行動起こした。
「・・・え?!不法侵入者?!何処のどいつだ?!俺は警察官だぞ?!網膜スキャンで調べてやるこの不届きものー!!!」
制服の上についているホルスターから拳銃と似たような形を取り出した。
そして、それをキキと稲荷に向けようとした。
「あの!私たちイッセイ一家の知り合いで!今日は留守番頼まれてるの!」
「そうです、初めまして!」
網膜スキャンを発動しても、キキも稲荷も偽のデータが既に警察のサーバーに入っている。警報が鳴ることはないのだが、銃口を向けられると咄嗟に反応して説明を始めたキキと稲荷。
「留守番〜?怪しいなぁ。留守番が必要なら留守番ロボットくらいイッセイもじいちゃんも簡単に作れるぞ!!」
((確かに・・・!))
「大体、留守番を頼む必要なんてないじゃん!なんの為に?!」
「「(異世界からきた呪術士と遭遇しないように家にいろって言われたなんて言えない・・・)」」
「ほら!!答えられないんだろ?!」
網膜スキャンを向けていたが、片手を離して警棒を持った。そして稲荷へと近寄る。
「泥棒め!!そうとしか考えられない!!ここでとっ捕まえてやる!!」
「あ!ちょっと!!」
セイタに警棒を振り回された稲荷。咄嗟に後ろに跳びはねた。
「こら!!大人しくぶたれて手錠に収まれ!!」
「いや、さすがに痛そうなので・・・!」
「じゃぁこっち!!」
セイタの目線がキキへと移った。そして、セイタがキキへ警棒を振り上げた。
「ちょっ?!えっと・・?!アレ使っちゃダメなんでしょ?!どどどうしよう?!この棒って硬いのよね?!」
「はい!アレはダメですよ!あと多分あれは警棒で硬いです!」
アレとはもちろん魔法の事だ。
「なんだ?!飛び道具でも持ってるのか?!この!使わせてたまるかぁああー!!」
「あぁあああ!!私にそんなもの向けて!何があっても知らないんだからぁあ!!」
そういうと、警棒を振り上げて下ろしたセイタの腕を、キキが掴んだ。掴みながらもセイタの振り下ろした力をそのまま利用して、腕の下がる方向を変える。
勢いよく腕を振り下げたのに、腕を取られて体勢を崩されたセイタ。
そのまま回転させられた。キキに背を向ける体勢だ。そのまま上からのし掛かられて動きを封じられた。
「え?!なんで?!俺警察官なのに?!訓練受けたのに?!あー!さては武道をやってるヤツだな?!そもそも警察官にこんなことして公務執行妨害だからな?!もう言い逃れできないからなっ?!ちょっ!どけって!!」
「だって・・・退いたら捕まえるでしょう〜・・・?」
「当たり前だ!」
「でしたら、イッセイが家にくるまでこのままですね」
稲荷がセイタの視界に入って言った。
「イッセイもじいちゃんもばあちゃんも何時に帰ってくるかわからないんだ!」
「イッセイは今向かってくれてるわ。おじいちゃんが貴方に電話してくれてたのに電源が入ってないとかで繋がらないって言ってたわよ」
「なんだと?!・・・お昼にゲームやりすぎて充電するの忘れてたなぁ?って、本当にイッセイとかじいちゃんと知り合いなのか?!」
「だからそう言ってるでしょ!!」
キキの声が部屋に響き渡った。
・・・———
・・・———
「セイタさ、なんで来たの?」
「イッセイ本当に俺に冷たいよね?!なんで?!」
「研修かなんかでしばらくいないって聞いてたんだけど」
「予定より早く切り上がったんだよねー!」
家のリビングでイッセイとセイタが話している。
イッセイとセイタはあまり顔が似ていない。そして、イッセイが普段しない表情をしていることに、キキも稲荷も新鮮さを感じていた。
「子供みたいな顔してるわね」
「わかります。こう、むくれているというか。珍しいですね?」
「私もこんなイッセイ見たことない。割といつも飄々としてるから」
「この二人はうちの大事なお客さんなんだ。しばらく家に住んでもらってる。わかった?わかったら早く帰った、帰った」
「じいちゃん家に住んでるんだろ?!だったら俺にもちゃんと紹介してくれよ!!」
「必要ない。ほら、一人か?誰か待たせてるんじゃないのか?」
「待たせてはいるけど〜!ちょっと話すくらいいいじゃんか?!」
「お前そう言って俺が来るまでの間ずっとキキにねじ伏せられてたんだろ?相手が心配して家に来たりでもしたら」
「はいはい!わかったよ!ばあちゃんの漬物とかもらってさっさと戻りますぅ〜!」
やっとの事でセイタが戻る気になった。それも、おばあちゃんの料理を持って帰るという交換条件のようなものを突き出してだ。
「じゃぁ、私取ってくるわね!いい感じの漬物とかあったから!」
「私も一緒に持っていきます」
「沢山頂戴ね?!」
「セイタ黙って」
・・・———
「いやー!まさかこんなに貰えるとは!嬉しいー!」
「お車ですよね・・・?お皿のままでも良いんですか?」
「良いの!大丈夫!」
「皿はもう要らないから。返しに来なくて良いからな」
「なんでそんな酷いこと言うの?!」
タッパーに詰めた漬物。それに、お皿のままの煮物や炒め物のおかず。それらをキキと稲荷が持ってあげて外の車まで一緒に行く。
「車で待ってる奴もお腹空いてるって言ってたから早速食べよーっと!」
呑気な事を言っているセイタ。一方イッセイは何か腑に落ちない顔をしていた。
「イッセイ、どうしました?やはり私たちは家の中で待ってましょうか?」
「・・・」
返事がない。何か考え始めた。
「イッセイがこの顔したらしばらく放っておくと良いわ。頭の中がスーパーコンピュータ並みに稼働中よ。私たちに割くCPUはないわ」
「そうですか」
セイタに続いていたイッセイの歩く速度が遅くなる。キキと稲荷に抜かされた。
「なぁ、セイタ。なんでパトカーで外走ってんだ?地下通路の方が舗装されてて良いだろう?」
「ん?あー、なんでもね、今一緒に車乗ってる奴が地下は嫌なんだって!」
「恐怖症?警察官は診察受けて、高所、暗所、閉所の恐怖症はないんだろう?」
外を走るパトカーがいないわけではないが。
「ついたついた!後部座席に置いて〜!」
「はい、かしこまりました」
「そう言えば、貴方手ぶらよね。なんで私が漬物持ってるのかしら」
角を曲がったところでパトカーが停車していた。
「そうそう!一緒に乗ってるって、相棒の警察官じゃないから!
なんかね、変な奴拾ったんだけど、地下は行きたくない、スキャンしようとすると腕折るぞ!って言うから放っておこうと思ったんだけどお腹空いたからなんか寄越せとか言うからさ!」
「お前!!まさかその変な奴ってーーー!!」
「真っ黒いなんか見たこともない全身タイツみたいな服着てんの!!見たこともないし、コスプレにしても何か変だから声掛け」
キキと稲荷か身構えた。
そしてイッセイが駆け出し一番後ろからセイタを抜いてパトカーの窓にたどり着いた。
「イッセイ!!迂闊に近づかないで!!呪物がどんなのかよくわからないんだから!!」
「え?!なになに?!なんの話しっ?!」
イッセイが車の窓を覗くと、そこには呪術士がいた。
イッセイと呪術士の目が窓ガラス越しに合った。
「キキ!稲荷!ヤツだ!!」
「———っ!!」
呪術士も、イッセイが先日自分に銃口を向けた男だと気づいた。
懐から電磁砲を取り出すイッセイ。その仕草に気づいて呪術士も車の中で構えを取った。
「何?!なになに?!知り合い?!」
セイタがまだ騒ぐ。
セイタの声に反応したのは稲荷だった。この世界は異世界人の存在を知らないと言っていた。稲荷はセイタの方を向き、自分の体でイッセイのいる方向を見えないように塞いだ。
「稲荷ナイスっ!!そのままよろしく!!」
そう言ってキキは漬物を地面に置いて駆け出した。




