簪の音 十三話:来客
「私たちだけの時に来客ってありませんからね・・・・どうしましょうか?家主がいないので出ない方がいいですよね?」
「そうね・・・来客って、リリちゃんを迎えにくるお父さんの最上さんか、神風さんしかなかったから・・・リリちゃんは今日お祭りに行くって知ってるから・・・」
「あれじゃないですか?『いつも娘がお世話になってます』というお礼とか?」
「この世界はあまりそう言うのないんじゃないかしら?それに、リリちゃんがいつも自分で持ってくるわ!」
二人は考え。考えて
「では、やはり出るのはやめましょう。もし空き巣や強盗でこのまま入って来たとしても、まず私たちに敵いませんから」
「そうね!放っておきましょう!」
———ドンッ!!ドンドンッ!!
「最近の空き巣はご丁寧に玄関をこんなに叩くのかしら?それともこの世界の常套手段なのかしら」
「・・・気になりますね。ちょっと魔法で相手のお顔を拝見しましょうか?」
「賛成ーー!!」
そう言って、ソファから立ち上がった稲荷が両手を前に翳した———
・・・———
「さぁ!巫女娘も稲荷寿司もおらんから、今回の祭りは始終穏便になる事じゃろ!!」
少し太陽が傾き、夕焼け空となった。
人々が”外”へと出てきている。
「本来は、お囃子の音があるともっと夏っぽいのよね〜!でも、それが良いのは私だけでしょうけど!」
「お祭り用の音楽って事?」
「お祭りの時に聞きたい音色なのよ!」
おじいちゃんお手製の提灯が沢山並んで光っている。まだ外も明るいので本来の存在感は出ていない。しかし、提灯自体が珍しいこの世界。人が赤い提灯を見ては嬉しそうにしている。
会場の至る所に空調機がある。ミストも発生してとても気持ちが良い。
会場に設置した、幾つものスピーカーから流れる音楽は、お囃子ではなくこの世界の流行りの音楽だ。
曲の切れ間には祭りに関してのアナウンスが入る。
そんな時、イッセイの携帯電話が着信を知らせた。震えている。音声通信だ。
「さてさて!タイミングの悪い我が孫も今は研修でどっかに行っているらしいから、三日間は安泰じゃな!!」
「タイミングの悪い孫?」
おじいちゃんの言葉にリリが反応した。
「前、リリさんがこの世界に戻ってきた時にウチに来た警察官ですよ。初めて神風さんと会った時・・・その前にウチに来た警察官がいたでしょう?」
「あぁ!!あの人が私の服を”異世界みたい”とかなんとか言ったから時雨がすっ飛んできて私に尋問を・・・!って、おじいちゃんの孫って事はイッセイの兄だ——」
「従兄弟ですけど。あくまで従兄弟」
なぜか”兄弟”と言い切られる前に被せて訂正をしたイッセイ。画面をタップしてすぐに会話を始めた。
「セイタっていうんだけどね〜?何故かセイタはいつもちょっとだけタイミングが良くなくてね?カナンちゃんの時もセイタが原因で警報器が鳴っちゃって・・・」
「アイツの話はせんでいい!!縁起が悪いわ!!」
「孫を縁起悪いなんて!!ちょっとおばあちゃん聞いた?!」
「縁起は・・・悪くないと思うんですけどねぇ・・・?」
「おばあちゃんまでもっ?!ねぇ!ちょっとイッセイ貴方の」
「キキ?どう言うこと?」
あの優しいおばあちゃんまでもが自分の孫をなぜが疑っている。そのことに驚いたリリがイッセイに確認しようとした。しかしイッセイは電話をしている。そして相手はキキのようだ。
『イッセイー!!警察官がウチに来てるのよ!!玄関のドア叩いてんだけど、こっちの世界の警察官てこれが普通なのかしら?!』
「警察官・・・?!」
キキはこの世界に来て一年が経つ。もちろん街中を歩いていて警察官の制服を見た事がある。その警察官がイッセイの家の玄関を叩いているのだ。警察官というワードを聞いたイッセイは驚いて復唱してしまった。
「警察官じゃと?!?」
「まぁ!まさか!」
「何よ、どうし・・・まさか!!噂のイッセイの従兄弟?!」
・・・———
キキがイッセイに連絡をとっている隣で、稲荷は魔法を使っていた。
両手から淡いピンク色の光が円形状となり、中には玄関扉の外が映し出されている。
警察官の制服を着た男性が扉を叩いている。
「ねぇ!私たち見つかったらまずいのかしら?!このまま家に入ってくるかしら?!どうしたらいい?一瞬めっちゃくちゃ遠い他の国にでも行ってた方がいい?!」
『待って、キキ落ち着いて。じいちゃん!セイタに電話して帰るように言って!』
『ガッテンじゃあの孫ぉぉおおー!!!』
電話の向こうでイッセイとおじいちゃんのやりとりを聞いたキキ。知り合いなのだとわかった。
「稲荷!とりあえずイッセイたちの知り合いみたい!帰るように連絡してくれるって!」
「そうですか、それはよかったです。このまま扉を壊されたらなんて思ってしまい・・・———おやおや」
魔法を止めようとした稲荷の目に映ったのは、制服のポケットからこの家の鍵らしきものを取り出した男性だ。
「キキ、まずいですよ。男性は鍵を取り出しました」
「っげ!!やばいじゃん!不法侵入とか言われたらどうしよう?!」
『キキ、とりあえず家から出なくていいから!なんとか帰らせる!じいちゃん!電話はまだ?!』
『アイツ!!電源入っとらんって言うとる!!このタイミング悪孫ぉおお!!』
———ガチャッ
「俺だよ!セイター!ねぇ、近くでお祭りやってるから知らせに来たよー!」
三人揃ってもうその祭りに行っている。キキと稲荷は『だからもう帰って!』と願うが続けて声が掛かる。
「ちょっとじいちゃんばあちゃんいないのー?!イッセイはー?!・・・———ッハもしかしてあの三人もうお祭りに行ってるんじゃ・・・?!」
そうだ。だからすぐに出て行け。
「イッセイ・・・ただの従兄弟でしょ?説明すれば良くない?ただの知り合いだって。まぁ家主がいないのに私たちが家にいるのも変な話だけど・・・」
『やめた方がいい!!警察官全員が異世界人を認知しているわけじゃない!最上さんの部隊だけが特別なんだ!セイタになんて話たら』
「イッセイの従兄弟ってどう言う人なのよ」
「キキ!彼が家に上がり込みました・・・!イッセイに指示を!」
「イッセイー!!もう家の中に入って来ちゃってるってー!!!」
・・・———
電話口でイッセイは考える。
近くではおじいちゃんとおばあちゃがセイタに電話をかけているが、電源が切れているんだ。意味はない。
「魔法でなんとかできないわけ?ドアを壊れてるって事にして開かなくしちゃうとか?」
「ダメですね、建物や機械に関して俺たちがそのままにしておくってことはあり得ないです。だから、”わざとその状態にしている”とセイタは思うんですよ。すると、俺やじいちゃんが何か新しい事をやり始めたんだってセイタは勘繰って楽しくなって絶対に何かしでかします」
イッセイが両目の閉じた。喋りながら考えるも少し焦ってしまい、いい案が浮かばない。
「タイミングが悪いだけでしょ?こうやって、キキと稲荷しかいない時に上がり込んできちゃう・・・それくらいでしょ?キキたちにも二階に上がって貰えば良くないかしら?魔法で浮いたままか移動魔法とかで二階に上がれば物音も立たないでしょ?」
「リリさん・・・セイタのタイミングの悪さは並大抵じゃないんです・・・」
「だからどうなってんのよ貴方の従兄弟!!」
『キキ、稲荷には耳を隠してもらって普通に対応してもらってもいいかい?多分、何かしようとしても全部裏目に出る。もうセイタが来た時点で割とこちら側が詰んでる』
「・・・よくわからないけど普通に接するわ!あれでしょ?!ただの知り合いで、今日は留守を頼まれたとかでいいかしら?!」
『うん、それでいいよ。俺、すぐに家に帰るから』
「移動魔法で迎えに行っても良くてよ!!」
「大丈夫、キキは家にいて」
そう言い、通話を終わらせたイッセイ。
その言葉を聞いていたおじいちゃんとおばあちゃんは、イッセイの目を見た。
「頼んだ!イッセイ!!」
「今日に限ってですものねぇ〜・・・お願いね?イッセイ?」
「落ち着いて時間があったらまた戻ってきて頂戴ね」
「はぁ・・・行ってきます」
ポケットに電話を仕舞い、人の間を縫うように走り出した。




