簪の音 十二話:会話
「本当に今回のお祭りは大きいわねぇー!こんな大きなお祭りの準備しておいて一日だけだなんて勿体無いわ。何日かやればいいのに!」
会場に着いたリリが思わず言った。
前回のお祭りの規模より大きいと聞いてはいたが、予想をはるかに超えた。
「三日間やるぞい」
おじいちゃんが飄々と答えた。
「え?じゃああのお祭り執着巫女があと二日間も騒ぐってこと?」
「そうじゃい。最初から三日間なんて言ったらうるさいじゃろ?黙っとったんじゃ、ワシ天才。気が利く、出来る男」
「かわいそうなんですけどね〜、こればっかりはね?今日帰ってから、お祭りが好評だから開催期間が伸びましたって話そうと思ってるのよ」
「暴走しないと良いけど」
・・・———
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「キキ、お茶を淹れました。一緒に飲みませんか?」
「頂くわー。なんたってやる事ないんですもん!」
ソファでだらけているキキ。手にはうちわを持っており、見た目だけお祭りだ。
小さいお盆に稲荷がお茶を乗せて来た。
テーブルにコトリとグラスを置く。
「異世界者同士、たまにはみんながいないところでしか出来ない話でもしましょうよ」
「・・・そうね。でも、あなたはちゃんと喋ってくれるのかしら?」
「何をでしょう?」
稲荷もキキの向かいに座る。
キキが項垂れていた体を真っ直ぐに座り直した。
「多分、私が気づかないで稲荷だけが気づいている事があるんだと思う。逆に、稲荷が気づかないで私だけが気づいている事もあるかもしれない。情報交換できるかしら?」
神妙な顔つきになったキキ。これを聞いた稲荷は、キキに敵視されているのかどうか改めてわからなくなった。
「・・・言えないこともありますが・・・?それではダメでしょうか?」
困ったように稲荷が笑う。その顔をジトーっとしばらく見てから、キキは息を吐いた。
「それで良いわ。私も確証がない事がいくつもあるの。それを聞かれたり誘導尋問されたら困るのよ!お互い、まだ言わない方が良いって思うことを無理に詮索するのは辞めましょうって事で良い?それなら私も喋るから」
「安心しました。黙ってることあるだろう、吐けって言われるのかと思いました」
「聞きたい気持ちは山ほどあるけど、それはそっちも同じでしょう?まぁ、協定を結ぶようなものよね!」
ちょっと刺々しかった雰囲気が、元に戻った。
「協定・・・まぁ、この世界の事まではどうにも出来ませんが、イッセイたちに迷惑がかからないようにと言う協定でしたら喜んで結びましょう」
今日はこの後も家にいると言う事で、魔法をかけておらずにキキに見えているキツネの耳。
その耳が、ぴょこぴょこと嬉しそうに動いた。
「ねぇ、その協定にリリちゃんは入っているの?」
「そんなにイジメないであげて下さい」
「冗談よ」
「っげ!やっぱり異世界を管理している人たちがいるって噂・・・そっちの世界でも言われてるの?!」
「はい、私の世界でもそう聞いております。数人の物凄い力を持っている人たちに管理・守られていると」
「あの噂が本当だったとは・・・いや、まだ噂よね。誰も見てはいないんだもの」
水出しの緑茶と餡蜜を食べながら、キキと稲荷が話を進める。
———【無狐】の世界———
イッセイのいる世界を指す。
無狐と書く通り、イッセイの世界には『狐』という言葉が無い。狐という生き物が存在しない。
だからこそ、イッセイが二年前に出会った異世界の少女の『カナン』の言葉は、イッセイとおじいちゃんにはこの言葉がわからなかった。
『狐の嫁入り』
狐を知らないのだ。何が嫁入りしたのか?と思うばかりだった。カナンと同じ世界からきたイッセイの『おばあちゃん』と後にこの世界にやってきたキキが説明をした。
そして、ここ無狐の世界にある【核】と呼ばれる存在。
その核は、『星が生まれた時の一番良い状態でずっと環境を維持できる』と言われている。
温暖化、環境汚染、時が経つごとに生まれる”異常”を全て無効化すると言うのだ。
異世界・惑星によっては、文明の進化によって住まう環境が劣悪になってしまった星が幾つも存在している。
だから、その悪環境を戻すために、なかったことにするために、まだ見ぬ【核】を探しに、キキも稲荷も無狐の世界へと次元を超えて来ている。
———
「自分の世界に【核】を持って行ってしまったとしても、この無狐の世界に問題がない・・・むしろその方が無狐の世界にとって良いこと!って言うのが罪悪感がなくて良いわよね!」
「そうですね、もし【核】を持って行ってしまったらこの世界の環境が荒れてしまう・・・でしたらちょっと気が引けますもんね」
「そうそう!それそれ!まぁまだ持って帰ってないけど、ちょっと設定変えちゃったけどね!」
「でも、そのおかげでこの世界の人たちは外へ出れるようになったのですから良いんじゃないですか?何より、お外でお祭りができるのを、おばあちゃんが楽しそうにしてるんですから」
「まぁね!!他に影響が出てないかどうか訳わからないからちょっと怖いんだけどね・・・」
昨年、自身の魔法の暴走により、この世界のどこかにある核の設定を変えてしまったキキ。
明後日の方向を見て少しだけ気まずそうにしている。
「それは考え方じゃないですか?影響の先が”水位が減った”という事だったとしても、そもそも、昨年まではずっと温暖化によって推移が上がり続けていたそうじゃないですか?ほら、見て下さい」
ソファから立ち上がって、稲荷がはめ殺しの大きな窓まできた。
窓の下半分だけが、少しだけ色が違う。それは、今まで水に浸かっていたからだ。境目が十分に見えると言う事は、昨年から水位が下がったと言うこと。
「水位が減ったのではなく、惑星として適正に戻りつつあるんです。水位が高い方が好きな人からしたら由々しき事態ですが、多分そう思っている人は少ないでしょう。外で活動できる範囲が増えているんですからね。
と言っても、まだまだ家の下は水に浸かってます。影響は出てますが、悪影響ではないですよ。水不足もないですし、植物・食物の不作もないと聞いてます」
「じゃぁ・・・よかったわ。これから、もっと陸地が増えていくのよね」
「単に、核の持っている無狐への影響の設定が『軽くなった』と言う具合でしょう。全部、キキのお陰です」
「私のお陰っていうか、異世界の奴の攻撃が原因ですからね。雨降って地固まると言いますか・・・大事な精従が一人犠牲になっちゃったけどね」
「随分、賢い方だったと聞いてます」
「賢すぎて、”自己犠牲”も備えてた一級品ですからね!!あの馬鹿ココッ!!」
「あぁ!泣かないでください!別に思い出させるために言ったのでは・・・!」
「わかってるし泣いてなんかないわよ!!」
溢れてはいないが、目にいっぱい涙を浮かべてキキは叫んだ。
「あ、目といえばですが!イッセイの右目は」
「あぁ、あまり見えないんですって。だから基本は左目が利き目よ。見た目にわからないわよね」
「・・・そうでしたか」
少し間を空けて返事をした稲荷。
そう返事をして、稲荷は涙を拭く用にキキに触り心地の良い、柔らかい懐紙を差し出した。
・・・———
「ま!ウジウジしてても仕方ないわよね!それに、色々核の事考えてなんか思いついちゃったら行動したくなっちゃうから今日は本当にただのお休みにしましょう!
稲荷だって毎日家のこと手伝ってるんだから今日はお休みよー!」
ココの件を思い出して涙ぐんだキキ。時間が経っていつも通りになった。
「そうですね、外に出る以外は好きにして良いって言われてますし。屋上に行ってお祭りでも眺めますか?」
「それはだめ。そのまま会場まで飛んでいきそうな気がする。私が」
「ははは!そうですか!では大人しくテレビを見てましょう」
そう言って、この後もゆっくりとする事が二人の中で決まった時だった。
———ピンポーン・・・
「「え?」」
来客を知らせるインターホンが鳴った。




