20話 平和に乾杯
2024/10/10(明日)『無才王女、魔王城に嫁入りする。 ~未来視の力が開花したので魔族領をお助けします!~』カドカワBOOKS様より発売になります!
よろしくお願いいたします。
手を取られたカトリーヌが顔を上げる。
王子はカトリーヌを見つめていた。
無表情だけれど、怖くはない。
真剣に何かを伝えようとしてくれているのが、王子の目から分かった。
「同じ技術でも、戦争が終われば平和に使うことが出来る。これからどんどんと変わっていく。貴女が僕との婚姻を了承してくれたおかげだ」
「あ……」
「これから共に、変化を見ていきたい。改めて敬意を表させてほしい」
そう言って王子はカトリーヌの手をとって、手の甲に敬意の口づけを落とそうとする。
(こ、この挨拶って、そんなに何度もするものでは無い気がするんですけど……)
若干の疑問を覚えるけれど、黙ってされるがままにした。
今度は落ち着いた態度で、王子のキスを手の甲に受けることが出来た。
顔は熱くなったが。
そこに、チェリーが前菜を運んできた。
ひときわ派手な音を立てて、アンダープレートの上に前菜の皿が置かれる。
四人の目の前に前菜の皿がそろった。
配膳の間も話し続けるチェリーたちの声と、ガチャガチャという音が耳に残る。
びっくりしてカトリーヌは、ぽかんと口をあけた。
「はは、いやはや、チェリーたちが賑やかですまないな。しかしその賑やかさに救われることもある」
気を取り直したミノス王が、陽気に語りかけてくる。
「そうですわね。これからは、一緒に平和な未来を作っていきましょう。平和に乾杯よ! 私もう我慢の限界よ!」
王妃がグラスを掲げて高らかに宣言した。
「フルコース、というものを用意させてみた。僕たちとは食事の作法が違うようで、口に合うか分からないのですが」
「ゴーシュが随分と頭を悩ませていたわ。ああ、ゴーシュにはお会いになって? 料理長なのよ」
王子の言葉にカーラ王妃が続けて言った。
「は、はい! すごく優しそうで真面目そうな方でした」
「でもねえ、なんだかフェリクスがずっとゴーシュの料理に注文を出していたみたいでねえ」
「いつの間にか細かい男になってしまったな」
魔王と王妃に言われ放題のフェリクス。
カトリーヌがそっと様子をうかがうと、素知らぬ顔で前菜に手をつけようとしていた。
「なにか料理長を困らせたのですか?」
カトリーヌが小声でたずねてみても、王子の反応はない。
ただ、ほんの僅かに、頬に赤みがさしているように見えた。
(何か照れるようなことがあったかしら。あ! もしかして、お酒に弱いのかしら?)
カトリーヌはのんきにそんなことを思った。
前菜の皿を前に、フェリクス王子は固まっていた。
そこに、カトリーヌが王子に体を近づけて言った。
「ナイフとフォークは、外側から使うのですわ」
「む、そうでしたか」
「分かりにくいですよね。食器を洗うのにも手間が増えて大変ですわ……と聞いていますわ」
「ふふ、そうだな」
自然と二人が距離も縮まった。
「ふむ。やはりヒト族式の食事作法には、慣れるまでに時間がかかりそうですね」
フェリクス王子は感心したようにつぶやいた。
「私に合わせていただかなくても良いんですよ、ですわ」
「そうはいきません。ゼウトスにおいて食事は、夫婦にとって一番大事な時間ですから」
「ふぐ、ふ、夫婦!」
カトリーヌは動揺のあまり舌を噛んだ。
「おかしいことを言ったでしょうか? 僕と貴女は夫婦になる。こうして婚姻のための晩餐を囲んでいるのですから」
フェリクス王子がわずかに眉根を寄せる。不安そうに。
無表情と言われているけれど、カトリーヌの目には、とても分かりやすく思える。
「いえいえいえ! 夫婦という言葉に、緊張してしまっただけです。ごめんなさい、おかしくなんてありませんわ、ですわ!」
「緊張、するんですね。僕もしています」
「ふふ、同じですね」
カトリーヌが微笑むと、王子の頬の赤みは耳にまで広がった。





