19話 魔王様に逆らっちゃった、つい……
カトリーヌは、王子の手を握ったまま、ミノス王へと顔を向けた。
「ミノス王陛下! 王子は、私を心配してわざわざお迎えに来て下さいました。私の手を丁寧にとって下さいました」
「うむ? いやはや、しかし」
「怖い顔などと、おっしゃらないでください。その言葉で王子が悲しんでいることを、ちゃんと見て下さい。じーーーっと見てみて下さい」
ミノス王に伝えたい、という気持ちが走るまま、一息に言い切った。
「カトリーヌ嬢……」
王子が目を丸くしてカトリーヌを見つめる。
「うぬぬぬぬぬ」
ミノス王が、うなり声を上げる。
(や、やっちゃった。よりによって魔王様に逆らうなんて。でも、これ以上王子が怖い怖いって言われるのも、見ていられないし……)
こうなったら大人しく頭からバリバリ食べられよう、そう肩を落としたときだった。
バン!
という大きな音をたて、ミノス王がテーブルを叩いた。
「カトリーヌ殿の言う通りだ! いやはや、ちゃんと表情に出していたのだな、フェリクス。どうもヒト族に近い顔の表情は分かりにくくてな、気付いてやれなかった」
「父上……」
「これからは、じーーーーっと、見させてもらうぞフェリクスよ。カトリーヌ殿、教えてくれてありがとう」
ぎょろり、と単眼の大きな目を向けながら、ミノス王が言う。
さっきまでのカトリーヌなら、それだけで気絶してしまいそうな恐ろしい目力だ。
でも、今のカトリーヌには怖くない。
ミノス王が、自分の言葉を聞いてくれたのが分かったから。
それに顔の造りが違ったことで、今まで王と王子の間に誤解があったのも本当だろう。
カトリーヌ自身も思い込みを外してみれば、ミノス王の目の奥にとってもお茶目で優しい人柄が見えた。
「ありがとう、カトリーヌ嬢。僕は君に……」
フェリクス王子がそう言いかけたときだ。
カーラ王妃が陽気な声を上げた。
「さて! カトリーヌちゃんのおかげで、親子の縁が深まったところで……」、
パチン!
と音をたてて扇子を閉じる。
「晩餐会の始まりよ! チェリーたち! お料理を運んでいらっしゃい!」
王妃の宣言に、ワッ、と大広間じゅうから歓声が上がった。
(フェリクス様、何か言いかけたようだったけれど……?)
カトリーヌが首を傾げて王子を見ると、王子は黙ってうつむいてしまった。
料理は、自走式ワゴンに乗って運ばれてきた。
その後ろには沢山のチェリーたちが着いてきている。
ガチャン!
バタン!
ドスン!
ポポポポポ!
あらゆる音をたてながら、カトリーヌの目の前でチェリーが働き、走り回る。
「チェリーたちとは仲良くなれそう?」
チェリーたちを見つめるカトリーヌに、王妃がたずねた。
「とても優しい子たちで、大好きです。あの子たちは、みんな合わせて『チェリー』なんだと着替えのときに聞きました」
「そうよ、どの子もチェリー。ちょっと抜けてるところもあるけど、花の精みたいなものだから、許してあげてね。私の分身なのよ」
「分身! カーラ様って、すごい力をお持ちなんですね!」
カトリーヌが驚きの声を上げる。
と、チェリーの腕が横から伸びてきて、派手な音を立ててグラスを置いた。
グラスの中には薄桃色の飲み物が入っている。
「ショクゼンシュおまちー」
「ショクゼンシュってなにー?」
「カトリーヌさま知ってるー?」
カトリーヌの周りに、どんどんとチェリーが集まってくる。
「ちょっとーアタシの髪の毛引っ張らないでー」
「掴まってるだけだよー」
「なんかワゴンきたー」
食事を運んできた自走式のワゴンが、チェリーたちの後ろからぐいぐいと押している。
早く仕事をしろとワゴンが急かしているようで、思わずカトリーヌは吹き出してしまう。
「ふふっ、ワゴンは仕事熱心なのね。まるで生きているようですわ」
「自走術をかけてあるの」
王妃が、チェリーとワゴンの騒動を温かい目で見つめて言った。
「そうなんですね、初めて見ました、ですわ! 私の知っている自走術式のものというと……あ」
言いかけて、しまった、と口をつぐむ。
カトリーヌの知っている自走術式のものといえば、戦場をで使われた魔導具だった。
もちろんそれは魔族との戦争で使われたものであり、婚姻の食事の席にはふさわしくない話題だ。
(口が滑ったわ。こういう場に慣れてないから……)
黙り込むカトリーヌに、王妃とミノス王も、「あ〜」「ええと」と言葉を探す。
それがさらに申し訳なくて、カトリーヌはうつむいてしまった。
少しの気まずい沈黙があった。
すると、カトリーヌが膝に置いていた手に、王子の手が重ねられた。
「気にすることは無い」
王子が言った。





