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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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8話 琥珀の誓い

琥珀の再会


 担当医による幾つかの定型的な問いかけに答え、診察が一段落した頃だった。


 静かに開いた重い扉の向こうから、一人の少女が滑り込むように病室へ入ってきた。窓から差し込む午後の柔らかな光を透かし、淡い琥珀色のセミロングがさらりと繊細な音を立てて肩で揺れる。陶器のように滑らかで白い肌に、潤みを帯びた大きな瞳。その透き通るような琥珀色の双眸がカズヤの姿を捉えた瞬間、彼女の張り詰めていた表情に、ぱっと陽が差すような安堵の光が広がった。


「わぁ……良かったです。……やっと、目を覚まされたのですね」


 少女はカズヤの枕元まで音もなく歩み寄ると、その華奢な体を折って、深く、長く頭を下げた。


「わたしを助けていただき、本当に……本当にありがとうございました」


(あぁ……あの時の女の子か……。無事に逃げれたんだな……よかった。知り合いというか関係者といえば、あの時の女の子くらいだよな……)


 殺風景で白い病室の壁に、彼女のあまりにも浮世離れした、絵画のような美しさが鮮烈に際立つ。カズヤは、自らの包帯に覆われた無様な姿とその美しさの対比に、堪え難い気恥ずかしさを覚えた。激しく動揺する心を誤魔化すように、泳ぐ視線を宙に漂わせながら、掠れた声を絞り出した。


「……あの状況なら、誰だって助けるのが普通だろ。気にすることなんて、ないって」


 ぶっきらぼうに投げ出した言葉とは裏腹に、カズヤの指先は毛布の下で微かに震えていた。かつて、自分を嘲笑った世界とは断絶された、眩しすぎるほどの純粋な感謝の眼差し。その光を真っ向から受け止める術を、今の彼はまだ知らなかった。



琥珀の誓い


「いえ……。わたしはあの日、必死に『助けて!』と声を上げました。けれど……通り過ぎる方々は、誰一人として目も合わせてはくれませんでした。ですから、あなたのしてくださったことは、決して『普通』などではありません」


 少女は顔を上げ、真剣な眼差しでカズヤの瞳を真っ直ぐに見つめた。その静かな言葉には、冷たい都会の夜、暗闇の中で独り置き去りにされた絶望と、そこから強引に救い上げられたことへの、深く、震えるような感謝が込められていた。


「そう……だったのか。でも、結果的に無事に俺も助かったわけだし、もう気にすることはないよ。困ったときは、お互い様だろ。看護師さんから聞いたけど、お見舞いも毎日来てくれてたみたいだね。……でも、今日を最後にしてくれていいよ。君の貴重な時間を奪っちゃって、逆に迷惑を掛けて悪かった」


 これ以上、こんなにも眩しく綺麗な存在を、自分の泥に塗れた醜い現実に繋ぎ止めておいてはいけない。そんな、心の奥底に根を張った自虐的な思考が、無意識に拒絶の言葉を選ばせていた。自分のような人間に関われば、彼女の白さが汚れてしまう。そう感じて、カズヤはわずかに視線を逸らす。


 しかし、少女は決然と首を横に振った。


「え、いえ……そんな訳には参りません。あなたはわたしの命の恩人ですから。……わたしに出来ることがあれば、どんな些細なことでも言って頂けると嬉しいです」


 彼女は面会者用の丸椅子をベッドの脇に寄せると、そこへちょこんと行儀よく腰を下ろした。膝の上で揃えられた細く、白い指先。そして、向けられるのは曇りひとつない、春の陽だまりに花が綻ぶような、ニコニコとした柔らかな笑顔だった。


(……参ったな。こんな可愛い美少女に、至近距離で見つめられても……緊張して困るんだけどな……)


 これまでの人生で、嘲笑や蔑みの冷たい視線しか浴びてこなかったカズヤにとって、その純粋な好意に満ちた眼差しは、どんな鋭利な刃物よりも鋭く、けれど泣きたくなるほど温かく、凍りついた胸の奥を激しく掻き乱した。


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