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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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41話 雑音をかき消す温もり

雑音をかき消す温もり


 穏やかな公園の空気を切り裂くように、心ない嘲笑が風に乗って届いた。

 ベンチから少し離れた場所にいる、同年代と思われる女子グループだ。彼女たちはあからさまにカズヤを指さし、顔を背けることもなく言葉を投げつけてくる。


「なにあれ、付き合ってるのかな?」

「いやぁ、ないでしょ! あれって、お金払ってるパターンじゃない? それしかないっしょ! あんな美少女が……あれを選ぶ意味が分かんなーい」

「あはは、わたしならお金貰っても無理だわぁ。キモいし、隣にも座りたくないって」


 針で刺されたような痛みがカズヤの胸に走る。慣れているはずの悪意。それでも、隣にレナがいる状況で聞くそれは、自分の存在そのものが彼女の泥を塗っているようで、耐え難い屈辱だった。


 カズヤが身を固くしたその瞬間。


「んっ……♪」


 レナが、周囲に見せつけるかのような幸せいっぱいの笑顔を浮かべ、カズヤの腕にぎゅっと抱きついた。豊かな胸の感触が腕に伝わり、彼女は猫のようにカズヤの二の腕に頬を寄せ、うっとりと頬ずりをしてみせる。


「むぅ……。カズヤくん、服を買いに行きましょ。公園はちょっと暑いですし、冷房の効いたお店の方が快適ですよ」


 彼女は女子たちの言葉など露ほども耳に入っていないかのように、あるいは完璧に無視するように、カズヤだけを見つめて提案した。


「ん? 服は持ってるし……。俺、ファッションセンスないしこだわりもないから。おしゃれにお金を掛けるくらいなら、生活費に回した方がいいかなって」


「退院祝いですから、気にされなくてもいいですよ。それに、……デートっぽくて良いじゃないですか」


 レナはさらに力を込めて腕を組み、カズヤを立たせようとする。

 彼女の琥珀色の瞳には、世間の冷たい評価など一欠片も映っていない。そこにあるのは、ただ一人、カズヤという大切な存在に対する純粋な独占欲と愛情だけだった。


「……分かったよ。じゃあ、少しだけ、見てみるか」


「はいっ! わたしが最高のカズヤくんをコーディネートしちゃいますから、覚悟してくださいね♪」


 レナの明るい声が、女子たちの陰口を完全に塗りつぶした。カズヤは彼女に引かれるまま、重い腰を上げた。



磨かれた原石


 半ば強制的に連れてこられたのは、格式高いデパートの紳士服売り場だった。

 カズヤが気後れしている間に、レナは慣れた手付きで次々と服を選んでいく。彼女が選んだのは、体のラインを拾いすぎないゆとりのある黒のTシャツに、落ち着いたクリーム色や茶色のパンツだった。


「これも、似合いそうですよ」


 レナが持ってきたのは、繊細な輝きを放つシルバーのブレスレットとネックレスだった。


「アクセサリーなんて……俺に似合うかな……」


「わたしからのプレゼントですから、付けてくださいよぅ……」


 困惑するカズヤを、レナは少しだけ潤んだ瞳で見つめておねだりする。結局、断りきれずにその場で身に着けることになった。


 さらに、ボサボサだった髪を整えるべく、カズヤは人生で初めて美容院という場所へ連行された。散髪屋とは違う、心地よいハサミの音と洗練された技術。


 一通りの工程を終えて鏡の前に立った時、カズヤは自分の目を疑った。

 体格こそ大きいままだが、整えられた髪型と、レナのセンスで選ばれた上質な服、そしてさりげないシルバーの光沢が、カズヤに「清潔感のある大人の男」としての品格を与えていたのだ。


「……女の子に声を掛けられても……ダメですからね」


 鏡越しにカズヤを見つめていたレナが、急に頬を膨らませて釘を刺してきた。


「え、俺が声をかけられるわけないだろ……」


「……返事をしてくれないのですね。浮気性ですか……?」


「分かったって! 声を掛けられても相手にしないよ」


「はい♪」


 その言葉を待っていたと言わぬばかりに、レナはにぱぁと満面の笑みを浮かべた。

 彼女は、まるで自慢の宝物を披露するかのように誇らしげな顔でカズヤの腕に抱きつく。


「今のカズヤくん、とっても素敵です。……本当は、わたし以外には見せたくないくらいなんですけれど」


 小さな独占欲を滲ませながら、レナは軽やかな足取りで、新しく生まれ変わったカズヤを連れて歩き出した。

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