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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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40話 美女と野獣、そして揺るぎない絆

触れた指先と、白のドレス


 家に戻ると、二人は並んでキッチンに立ち、買ってきたばかりの食材を冷蔵庫へと移し始めた。


「これは冷蔵庫のここ……あ、カズヤくん、そのお肉はチルド室が良いですよ」


「ああ、分かった。……あ」


 狭いキッチンのなか、一つの棚に手を伸ばした瞬間、カズヤの手の上にレナの柔らかな手が重なった。

 吸い付くような肌の感触と、指先から伝わる彼女の体温。至近距離で見つめ合う形になり、レナの琥珀色の瞳が揺れた。


「あ……ごめん」


「い、いえ……こちらこそ。……んふふ」


 カズヤが慌てて手を引くと、レナは顔を林檎のように真っ赤に染めながら、照れ隠しのように小さく笑った。沈黙の中に二人の高鳴る鼓動だけが響き、室内の温度が一段階上がったような錯覚に陥る。


 気まずさと愛おしさを振り払うように、二人はそれぞれの部屋で着替えを済ませた。


 リビングに戻ってきたレナの姿を見て、カズヤは思わず息を呑んだ。

 清潔感あふれる純白のワンピース。袖と襟にあしらわれた繊細なレースの隙間から、彼女の透き通るような白い肌が覗き、清楚ななかにも、どこか毒のような色香を漂わせている。


「……まさに、お嬢様って感じだな」


「本当ですか? カズヤくんにそう言っていただけると、勇気を出して着た甲斐があります」


 カズヤの何気ないTシャツとジーンズ姿とは対照的な、圧倒的なオーラ。

 けれど、レナはそんな格差など気にする様子もなく、嬉しそうにカズヤへ駆け寄ると、その袖を指先でちょんと摘んだ。


「さ、行きましょ」


 レナがニコッと微笑み、さらに距離を詰めてくる。

 玄関の鍵を閉め、外へ出ると、彼女は当然のようにカズヤの腕に体を寄せた。夏の午後の日差しを浴びながら、白いドレスを風にたなびかせるレナと、その横を歩くカズヤ。二人の影はアスファルトの上でぴったりと重なり、公園へと続く道をゆっくりと進んでいった。



恋人のふり、僕の自信


「俺と一緒に歩いて……恥ずかしいんじゃないのか?」


 並んで歩く自分の影の大きさと、隣を歩く可憐な白いワンピースの対比に耐えきれず、カズヤは俯き加減に問いかけた。レナは少しだけ意外そうに目を瞬かせると、頬を微かに染めて答えた。


「ちょっと恥ずかしいですね……。周りの方に、恋人同士って見られちゃいますかね? えへへ……」


 レナの「ちょっと恥ずかしいですね……」という言葉を聞き、カズヤの心臓は一瞬止まりかけた。


「いや、俺が言いたいのは……。こんな、デブな俺と一緒に並んで歩いて、周りの目が気にならないのかってことだよ」


 自虐的な響きを含んだカズヤの言葉を、レナは歩みを止めることで遮った。

 彼女はカズヤの正面に回り込み、琥珀色の瞳に強い光を宿して彼を真っ直ぐに見つめた。


「カズヤくんの良いところが分からない人は、放っておけばいいじゃないですか。好みは人それぞれですし、個人の自由です」


「レナ……」


「それに、わたしが一緒にいたいと思うのは、他でもないカズヤくんなのですから」


 レナは再びニコニコと柔らかな笑みを浮かべると、カズヤの背後に回り込み、彼のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。そのまま、彼を盾にするような、あるいは彼に寄り添うような足取りでトコトコと後をついてくる。


「さあ、カズヤくん。公園まで、わたしをエスコートしてくださいね♪」


 後ろから伝わってくる服を引く感触と、彼女の屈託のない信頼。カズヤは自分を卑下していた心が、少しだけ軽くなるのを感じた。



美女と野獣、そして揺るぎない絆


 公園に足を踏み入れると、周囲の視線が一斉に二人へと注がれた。

 190センチ近い巨軀きょくに肉を蓄えたカズヤと、165センチのしなやかな肢体に幼さの残る可憐な顔立ちのレナ。その圧倒的な体格差と容姿のコントラストは、まさに現代に現れた「美女と野獣」そのものだった。


 カズヤは、どうしても他人の目が刺さるように感じてしまい、無意識にレナから少し距離を置こうと肩をすぼめる。


 並んで公園のベンチに腰を下ろした際も、カズヤは彼女に窮屈な思いをさせないよう、自然と端の方へと座り直した。


「天気が良くて気持ちが良いですね。お外に出るのは久しぶりなのでは? ずっと入院をされていましたし」


 レナは、カズヤが開けた隙間など全く気にする様子もなく、滑るように距離を詰めて隣に座り直した。


「そういえば……まともに外を歩くのは退院した日くらいかな。って、レナはずっと一緒にいたんだから、俺より知ってるだろ」


 カズヤは思わず吹き出してしまった。

 病院で目覚めたあの日から、レナは文字通り片時も離れず隣にいてくれた。

 初めての入浴時、慣れない体で動くのを躊躇ためらい、周囲を気にして拒むカズヤを、彼女は「患者さんなのですから」と毅然とした態度で無視し、かいがいしく世話をしてくれたのだ。


「ふふ、そうでしたね。あの時のカズヤくん、とっても顔が真っ赤で面白かったですよ」


「……言うなよ。俺にとっては一生の不覚なんだから」


「不覚だなんて。わたしにとっては、カズヤくんとの大切な思い出の始まりです」


 レナは屈託のない笑顔でそう言い切ると、ベンチの上でカズヤの手の甲に自分の指先を重ねた。

 その温もりは、病院の冷たいベッドの上で感じたものと同じ、嘘のない優しさに満ちていた。

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