39話 はじめての買い出しデート
はじめての買い出しデート
「コンビニは禁止です。……代わりに、スーパーへ行きましょう。今夜の献立を一緒に決めて、お買い物をするんです!」
レナの強い希望に押される形で、二人は近所のスーパーへと足を運ぶことになった。
カズヤにとっては見慣れた風景だが、隣にレナがいるだけで、色褪せた日常が鮮やかなスクリーンの中の出来事のように感じられた。
「わぁ……新鮮なお野菜がいっぱいですね。カズヤくん、これなんてどうですか? 煮物にしたら美味しそうです!」
レナはカズヤと腕を組み、密着したままカートを押していく。時折、珍しい食材を見つけては目を輝かせ、カズヤの顔を覗き込んできた。
「煮物か……いいな。レナの作る料理なら、なんでも楽しみだよ」
「んふふ、そう言っていただけると作り甲斐があります♪ ……あ、カズヤくん。あちらにカツオの叩きがありますよ。今夜はさっぱりと、高知風の献立にしましょうか?」
お嬢様育ちの彼女が、真剣な目つきでパックの裏の産地を確認したり、大根の重さを吟味したりする姿は、どこか微笑ましく、そしてひどく家庭的だった。
(……なんだこれ。まるで、新婚さんみたいじゃないか……)
カズヤは周囲の買い物客から向けられる「あんな美少女が、どうしてあんな太った男と……」という好奇の視線に気づき、少しだけ身を縮めた。けれど、レナはそんな視線など全く気にする様子もなく、さらにぎゅっとカズヤの腕を抱きしめた。
「カズヤくん、今日はデザートに桃も買いませんか? わたしが剥いてあげますから。あーん、って」
「……ああ。お願いします……」
カズヤは顔を真っ赤にしながら頷くしかなかった。
カゴの中に増えていく食材は、かつての孤独なレトルト食品とは違い、二人で囲む食卓の温もりを予感させていた。
分け合いたい重さ
スーパーを出ると、夏の陽光がアスファルトを熱く照らしていた。カズヤの両手には、食材が詰め込まれた重たいレジ袋が二つ提げられている。
「カズヤくん、重そうです……。一つ貸してください。わたしも持ちます」
レナが心配そうに顔を覗き込み、袋の持ち手に手を伸ばしてきた。
「いや、大丈夫だって。これくらい、男の俺が持つのが普通だろ。レナは日傘でも差しててよ」
カズヤは軽く肩をすくめて歩き出そうとしたが、レナは食い下がった。彼女はカズヤの前に回り込むと、少しだけ唇を尖らせて彼を見上げた。
「ダメです。二人のためのご飯の材料なんですから、二人で運ぶべきですよ。それに、カズヤくんだけに苦労をかけるのは……わたし、嫌なんです」
「苦労なんて大げさだよ。ほら、指に食い込むし、結構痛いんだぞ?」
「だったら、半分こにしましょう。ほら、こうすれば……♪」
レナはカズヤの右手に持っていた袋の持ち手、その片方を自分の手で握った。一つの袋を二人で持つ形になり、二人の距離は必然的にゼロになる。
「これなら、重さも半分ですし、カズヤくんとずっとくっついて歩けます。名案だと思いませんか?」
「……ああ。そうだな。名案だな」
カズヤは降参するように苦笑した。隣から伝わってくる彼女の柔らかな熱量と、時折触れ合う肩の感触。
確かに腕にかかる重さは半分になったはずなのに、胸の奥に込み上げてくる幸福感で、心の方はパンパンに膨らんでいた。
帰り道二人で寄り添いながら荷物を持ち歩いていた。カズヤは思い切ってレナを誘ってみた。
「帰ったら、時間もあるし……公園にでも行ってみないか……? 少し、外の空気も吸いたいし」
カズヤは自分から人を誘ったことが無くて、視線を逸らして緊張で手が震えていた。突然のカズヤからの誘いにレナは嬉しそうに目を輝かせてカズヤを見上げた。
「わぁっ、良いですね。カズヤくんと……公園ですかぁ……行きます。行きたいですっ!」
カズヤは想定外のレナの喜びように戸惑いと嬉しさが込み上げてきた。レナは嬉しそうに何度もカズヤの顔を見上げては嬉しそうに微笑みを向けてきた。




