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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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36話 誤爆の真実と生乾きの誘惑

誤爆の真実と生乾きの誘惑


 ソファーに腰掛け、何度も同じ動画をループさせていたカズヤの耳に、軽い足音が届いた。


「お待たせしました、相沢くん」


 風呂から上がってきたレナは、カズヤの色違いとなるお揃いのTシャツとハーフパンツ姿だった。

 急いで出てきたのか、潤いを帯びた琥珀色の髪は生乾きで、首筋に張り付いた一房の髪が、いつもより大人びた色香を漂わせている。先ほど画面の中で、寝ている自分に唇を寄せた張本人が今、目の前にいる。その事実に、カズヤの心臓は再び大きな音を立て始めた。


 レナはカズヤの隣にちょこんと腰を下ろすと、期待に満ちた瞳で覗き込んできた。


「動画、どうでしたか? 可愛く撮れていましたよね。わたし、毎日見返しているくらいお気に入りなんですよ♪ どの相沢くんが一番良かったですか……ふぇっ、あーっ!? も、もう……あわわぁ……それ、違うんです! うぅ……っ」


 カズヤのスマホに映し出されていたのは、まさにあの「おやすみのキス」の瞬間だった。

 レナの顔は一瞬で耳の先まで真っ赤に染まり、視線は泳ぎ、手足がどこにあるかも分からなくなったかのように激しく動揺し始めた。


(あぁ……やっぱり。これは送る気のなかった、自分だけの秘密の動画だったんだな……)


 カズヤは彼女のあまりの狼狽ぶりに、自分まで恥ずかしさが限界を突破しそうだった。


「えっと、その……おやすみの挨拶、かなって……」


「ち、違います……いえ、違わないのですけれど! 違うんです! ああぁ……もう、相沢くんのバカですぅ……!」


 レナはクッションに顔を埋め、足をバタバタとさせて悶え始めた。その無防備で愛らしい拒絶に、カズヤは気まずさと愛おしさが混ざり合った、どうしようもない気持ちで立ち尽くすしかなかった。



琥珀の願いと、初めての名前


「え、あぁ……。この動画は、お休みのキスをしてくれてた動画だろ。レナの表情も可愛かったし、声の感じも優しくて好きだな。……名前で呼んでいたからドキッとしたけど、良いもんだな」


 カズヤは努めて平静を装い、それがまるで特別なことではないかのように、けれど心からの称賛を込めて言葉を紡いだ。彼女の羞恥心を少しでも和らげたいという、彼なりの不器用な優しさだった。


「恥ずかしい……うぅぅ……。そ、そうですよね。お休みのキスをするほど……仲良しになりましたよね。……か、かずや……くん。うーっ……ひゃぁ……! やっぱり、恥ずかしいですぅ……!」


 レナはさらに赤くなり、逃げ場を求めるようにカズヤの腕に真っ赤な顔を押し付けた。ぎゅっとしがみつく彼女の体温と、柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。


「か、カズヤくんも……『レナ』と呼んでください。わたしだけ呼ぶのは……不公平、です……」


「え、いや……。女の子を下の名前で呼んだことなんてないし、俺みたいなやつが呼ぶと、普通は嫌がられるんだけど……」


「わたしは嬉しいですよ! ……なので、お願い……します。うーっ」


 レナは腕に顔を埋めたまま、上目遣いでカズヤを見つめた。カズヤの腕には、彼女の柔らかな頬の感触がぷにぷにと伝わり、その甘い感触に彼自身の顔も沸騰したように熱くなっていく。



家族の定義と癒やしの時間


「わ、分かったよ……れ、レナ……」


「……あわわぁ……ひゃぁ……! う、嬉しいです……。ちゃ、ちゃんとこれからも呼んでくださいね、えへへ」


 レナは蕩けるような笑みを浮かべ、カズヤの腕にすり寄った。その瞳には、今まで以上の親愛の情が溢れている。


「……お休みのキス……後で……しますから。仲良しですし……当然の儀式、です……」


(はぁ……わざわざ宣言することないだろ。こっそり自分の家のベッドに逃げ込もうと思ってたのに……。今さら、恥ずかしいから止めてくれなんて言える空気じゃないしな……)


 カズヤは爆発しそうな鼓動をなだめるように、努めて冷静に言葉を返した。


「……そうだな。一緒に住んでいるし、何から何まで面倒を見てもらってる。俺たちは、もう……家族のようなものだよな」


「んふふ、ですよね。家族なら、お休みの挨拶は大切ですから♪ さあ、映画を見ましょう!」


 レナはすっかり上機嫌になり、カズヤの腕を離すとリモコンを手に取った。先ほどの動揺はどこへやら、今は一緒に過ごす時間を心から楽しもうとしている。


「どれを見る?」


「んー、わたし、これが見てみたいです」


 レナが選んだのは、動物たちが繰り広げる、穏やかで可愛らしいアニメーション映画だった。

 照明を少し落としたリビング。大画面から流れる優しい音楽と、隣に座るレナの生乾きの髪から漂う甘い香りが、カズヤの心をゆっくりと解きほぐしていく。


 並んでソファーに座り、肩が触れ合う距離で物語を追いかける。

 それは、これまで孤独な夜を過ごしてきたカズヤにとって、映画の内容以上に「癒やし」に満ちた、贅沢なひとときだった。


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