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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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15話 琥珀の誓いと桃色の嘘

陽だまりの旋律


 カズヤは自分の放った『大切にする』という言葉が、これほどまでに彼女を激しく動揺させるとは思いもしなかった。


 彼にとって、それは深い暗闇の底に差し込んだ、生まれて初めての温かな光のようなものだった。けれど、レナにとってもまた、自分の何気ない走り書きを宝物のように扱ってくれるカズヤの存在は、これまでにない特別な響きを持って届いたのかもしれない。


「……相沢くんの、いじわる……です。そう言って、わざとわたしを……からかっているんですよね……」


 蚊の鳴くような、今にも消えてしまいそうな小声で、けれどどこか心地よさそうに呟きながら、レナは膝の上で指をモジモジと動かしたり、サイドでゆるくまとめた琥珀色のサラサラとした髪を指先でくるくると弄ったりと、落ち着きなく身体を揺らしていた。


 気恥ずかしい沈黙が、静かな病室をゆっくりと満たしていく。しかし、それは決して不快な拒絶ではなく、春の陽だまりの中にいるような、柔らかで優しい熱を孕んだ穏やかな時間だった。


 カズヤは、真っ赤になったまま俯く彼女の頭頂部を見つめながら、不器用な自分なりに彼女をどうにか元気づけられないかと、言葉を探した。


「……からかってなんか、ないよ。本当に、嬉しかったんだ」


 その真っ直ぐな追撃に、レナはさらに身を縮める。けれど、その指先の動きは少しずつ落ち着きを取り戻し、代わりにかすかな喜びの色が、彼女の纏う空気から滲み出していた。


 窓の外から聞こえる木々のざわめきさえも、二人の甘酸っぱい空気を邪魔しないよう、遠慮がちに響いている。孤独だったはずの病室が、今は二人だけの特別な、温かな聖域へと変わりつつあった。



琥珀の誓いと桃色の嘘


「あれ? そういえば……面会時間って、確か午後からだったよね?」


 カズヤのふとした疑問に、レナは少し背筋を伸ばし、どこか誇らしげに薄い胸を張ってみせた。


「はい。ですが、術後の詳しい説明があると昨日、看護師の方に言われましたので……。わたし、彼女ですから。えへへ、相沢くんの身内扱いなのですよ」


 その言葉に、カズヤの胸の奥がチクリと痛んだ。彼女という「嘘」を吐いてまで、天涯孤独になった自分を必死に支えようとしてくれている。そのあまりにも眩しすぎる献身が、今の自分には分不相応に思えてならなかった。


「わたしが、身元保証人にもなっていますし……と言いたかったのですが、わたしはまだ未成年なので。実は、保証人はお父様なのと、手続きはうちの弁護士が……」


「そうだったんだ……。ありがとな。こういう時に一人だと、本当に困るんだな。入院の手続きも、手術の同意も……。何から何まで迷惑を掛けて、本当にすまない」


 カズヤがベッドの上で深々と頭を下げると、レナは「そんな!」と慌てて両手を左右に振った。


「へ? いえ、そういう義務的なことを言いたかったのではなくて。その、えっと……『彼女なのですから、当たり前ですよ』と……。そう、言いたかった訳ですよ……っ」


 言い切ると同時に、レナの視線が泳ぎ始めた。透き通るような白い肌に、じわりと林檎のような桃色が差していく。自分の吐いた方便に、自分自身が照れてしまったのだろうか。潤んだ琥珀色の瞳が、所在なげに宙を彷徨う。


「……あはは、ありがと。綾瀬さん」


 動揺して顔を赤らめるレナの姿が、あまりにも微笑ましくて、カズヤの口元からは自然と柔らかな笑みが零れた。


 絶望の淵で、ただ静かに朽ち果てることだけを考えていた日々。けれど今、目の前には、不格好な自分のために顔を赤らめ、必死に言葉を紡いでくれる少女がいる。その事実だけで、砕け散って瓦礫のようだったはずの心に、新しい温かな光が灯るような気がした。


(……俺なんかのために、こんなに一生懸命になってくれる。この人を、悲しませるようなことだけはしたくないな)


 カズヤの決意を肯定するように、窓から差し込む光が、二人の影を病室の床に優しく並べていた。


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