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3 白い髪

「………雰囲気違いすぎない?」


―――お疲れ様ー。あのフワフワみたいな感じが、メルティって人の素みたいだね。


「……」


 診察を終えて、メルティさんが一旦退室した。

 私はメルティさんから借りたパーカーの袖を握りながら、ベッドの上で大きく伸びをする。そして、布団をめくって立ち上がった。

 4日ぶりに立ったせいか少しよろめいたものの、気にせずに姿見の前まで歩いた。


「髪が……それに耳も尖ってる………」


 姿見に映っていたのは、妖精らしい尖った耳に淡い金髪と一房の白い髪の私の姿だった。


―――髪が一部白くなったのは僕の魔法を使っているからだろうね。


「どういうこと……?」


―――……代償の一部だと思っておけばいいよ。


(はぐらかされた……)


 私はしばらく自分の姿を眺めた後、髪を自分の右側で結んだ。


―――なにそれ?


「三つ編みだよ。えっと……ヘアゴムは………」


 部屋を見回していると、目の前にヘアゴムを持ったレイさんがいた。


「はい」

「あっ………レイ、さん。ありがとうございます」

「三つ編みにしたんだね」

「そうなんです!この髪を見てたら、なんだか三つ編みだと似合うかなって」


 そう言うと、彼はフフッと笑った。


「な、なんで笑うんですか……」


 思ったよりも拗ねたような声が出てしまった。そのせいか、彼は少し慌てたように言った。


「あぁ、いや別に面白かったんじゃなくて………なんというか強いなって」

「強い?」

「うん。本当は混乱しているはずなのに、そうやって前向きに考えられることが、ね」

「そう、かもしれませんね」


 眠ってから4日経っているということは、私の寿命は4日分削られたということだ。これからも、どんどん短くなっていくだろう。


(でも……だからこそ…………)


 お母さんが私に言った言葉を思い出す。


「私が私らしく笑える幸せな場所。それを見つけたいんです。だから、下ばかり向いていたらダメでしょう」


 そう言って、私はレイさんに笑みを向けた。


「そっか、そうだね」


 彼も穏やかに微笑み返した。


(……そういえば、お母さんは今どこにいるんだろう?)


「あの………」

「ん?」

「お母さんって今、どうなってますか?」

「……地下の部屋に寝かせてあるんだけど、見に行ってみる?……………これ、後でメルティに怒られるやつ……?ま、まあ大丈夫でしょ」











 そこだけ色がなかった。


 部屋の壁の模様も床の色もあるのに、ベッドの上にいるお母さんだけ、髪も肌も全て色が抜け落ちている。それは、時間が止まっているものの特徴だ。しかし、いつもと決定的に違う点が一つあった。


(橙色の、蝶?)


 お母さんの周りを戯れるように、光っている蝶が数匹飛んでいた。その蝶がお母さんを照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 私はその光景に釘付けになり、部屋に一歩踏み出した。ゆっくりと、その光に歩み寄る。蝶の中の一匹が私に気付いたのか、近づいてきた。私も指を伸ばしてその光に触れる――直前。

 レイさんに腕を掴まれていた。同時にあの声が響く。


―――それ、触んないほうがいいよ。君とその人を繋げているものだから。


(繋げている、もの……?)


 レイさんが「いきなり掴んでごめんね」と言って、手を離す。さっきまで触れそうだった蝶は、何事もなかったように飛んで行った。


―――時間が動いているものと、止まっているもの。この2つが交差することはできない。


(でも、それなら時間魔法は?)


―――……時間魔法は実際は止まっていない。物体の動きを極限まで遅くしたのがあの魔法だ………たぶん。


(たぶんって……)


―――自分でもよくわかっていないんだ。きっとこの魔法を創った人なら分かると思うけど………。



「…おーい、大丈夫?」


 ふと見ると、レイさんが私の顔をのぞき込んでいた。全く反応がなかったので心配になったんだろう。


「はい、大丈夫です。でも、一旦戻っていいですか?目の前のことを整理したくて………」

「あぁ、もちろん」


 私は帰り際、もう一度お母さんを見た。時間が止まっていても痛々しい傷は残っている。


(あの傷は、私が…………)


 奥歯がギリッと鳴った。血の味が口の中に広がっていく。私は目を閉じて顔を背けてから、彼の後を追った。


(待ってて、お母さん。絶対に助けるから)


 瞼の裏には夕日のような橙色の光がまだチラついている。私はその光を振り払うように、白い髪に触れた。

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