表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/14

1 止まらない時間

「………んぅ…」


 見たことがない天井。でも、朝日は変わらず眩しい。

……いや、眩しすぎるくらいだ。


「……え!?ここどこ!?」


 知らない部屋に驚いて、私は一気に目が覚めた。ベッドは部屋の窓際にあったので、眩しく感じたみたいだ。窓の外には太陽が高い位置にあった。


「……もう、昼だ………そっか……私……」


 あの時のことが雪崩のように流れ込んでくる。








 あの後、私達はレイという青年が言う『家』に移動した。レイが地面に魔法陣を展開すると、次の瞬間にはどこかの地下室にいたのだ。きっと高度な移動魔法だろう。


 そして、お母さんを抱えた彼に着いていくと、医務室らしき所に来た。そこには白銀の髪の女性がいた。彼女はお母さんと私を見て驚いたような顔になった後、淡い赤色の瞳が冷徹なものに変わった。


「そこに寝かせて。すぐに準備する………あなたは出ていって」


 私は手をギュッと握って、血塗れのお母さんを見た。


「………はい……」


(私ができることは………ない、よね)






 部屋の前の壁に寄りかかって、ドアを見つめる。いつまでそうしていただろうか。ふと、ドアが開いてレイが出てきた。その表情は暗く、嫌な想像が頭の中に浮かんでくる。


「あの……お母さんは……?」


 不安を振り払ってそう言うと、彼は申し訳なさそうに目を伏せた。


「……まだ生きてはいるが、もう長くないだろう……すまない。……とりあえず、中に入って」


 部屋の中には先程の彼女が寝かせられたお母さんに両手を翳していた。その手からは魔法陣が展開されている。血が止まっているように見えるものの、傷の周りが黒く変色していた。


「お母さんは……」

「今は回復魔法を使っている。弾かれているけど、まだ少しなら持つと思うよ」

「え…………つまり……もう、助からないんですか?なんで!?大丈夫だって言っていたのに!……他にまだできることがあるんじゃ―――」

「ごめんなさい」


 彼女の冷静な声が私の声を遮った。


「最善は尽くしたわ。でも、ダメだった………本当にごめんなさい」

「最善って………」


(なんでこの人は今、人が死にそうになってるのにこんなに冷めたいの!?)


 私がそう思っていると、彼女はお母さんに目を向けたまま、静かに言った。


「血は止められても、呪いのようなものが体を侵食している。これのせいで傷口が塞がらないの。超回復ポーションも効かない。回復魔法も効かない。……現在の私達ができることはもうないわ。せめて、少しは命が長引くようにするだけなの。あなたは、最後まで横にいてあげて」

「……そんな…………」


 私は手を強く握った。爪が食い込み、痛みが走ったが私は気にならなかった。

 私が映っていたあの優しい目がもう開くことがない。私を抱きしめてくれた身体の胸に黒い傷を負っているだけだ。私はなぜかそんなお母さんを見ていられなくて俯いた。


「「…………」」


 部屋が重苦しい沈黙で満たされる。魔法陣がこんな中でも神秘的に輝いていた。



(もう……無理、なのかな………)



 そんな沈黙を破るように、隣で呟きが部屋の中に響いた。


「………時間魔法…………」

「え?」


 声がした方を向くと、レイが先程とは違う雰囲気で私を見つめていた。満月のような彼の瞳は私のさらに先にいる存在すらも見通してしまいそうだ。


「君、時間を操る固有スキルを持ってるよね。それもかなり上位の魔法だ」

「あなた、そんな魔法を持ってるの!?」

「それは………」


 黙り込む私に、レイはさらに言葉を続ける。


「それを使えば死ぬことはない。そして、止めている間に治療法を探せばいい」


(私にそんな力があるのかな………?)



―――君にはないよ、時間を止める力。




「……あ………」


 心の中にあの声が響いた。その瞬間、部屋一面が灰色に変わっていく。しかし、お母さんの傷だけが全ての光を吸い込むような黒色だった。


「あの時と同じだ。もしかして、時間がまた止まっているの………?」


(図ったようなタイミングでいつも時間が止まる。まるで私の弱みに付け込むように)


 私が発した問いかけは心の中からではなく、後ろから聞こえた。


「そうだよ」

「え……?………誰?」

「誰って………あれ!?現実世界に行けてる!?」


 そこには、どこか異様な雰囲気を纏った美しい青年がいた。純白の髪に漆黒の翼を持つ青年だけは、この灰色の世界の中で肌の色があった。年齢は20代くらいに見える。

 彼は驚いたように自分の身体を見回しながら呟いた。


「うーん、実態はないみたいだね。よくわかんないけど、まあいいや」


(この声……心の中で会話した人?)


 そう思っていると、彼が私の隣を見つめていた。彼は呆然とした様子で、止まっている灰色のレイを見ていた。


「なんで………」

「え?」


 だが、その表情は一瞬で消え、次は私の後ろ側にいるお母さんの方を向いた。


「……で?次はこの人を助けたいの?」


 彼はそう言うと、お母さんに近づいていった。


「そう、あなたが言った通り、私は時間魔法を使えないの。だから、力を貸して」

「ふーん」


 私は逸る気持ちを抑え、強気な態度でそう言った。この人に弱みを見せてはいけない、そう感じたからだ。

 彼はしばらく傷口を眺めてから、フッと笑って振り向いた。


「この傷って君が攻撃したやつじゃん。わざわざ治すの?」

「それは………私が暴走した時に………」

「でも、君がやったことには変わりないよね。まあ、いいけどさ。それで?僕に何して欲しいの?」


 私は震える声で彼の問いに答えた。


「お母さんの時間を巻き戻して」

「無理だね」


 彼は私の言葉に対して即答する。考える素振りさえ見せなかった。そんな彼に私は焦って大きな声を出す。


「無理って………そんな簡単に言わないでよ!!」

「そんな事言われてもさぁ、不可能なことはできないんだよ。そもそも、時間魔法って扱うの難しいし、魔力も大量に食うんだよ。気軽に時間を巻き戻して、とか言ってるけど、時間を止めることさえも難しいんだから。……簡単に言ってるのは君の方じゃない?」

「………」


 彼は呆れたように肩を竦めた。その瞳に「一体どうするつもりだ?」と言われた気がした。


(それじゃあ、もう治すことはできないの……?どうすれば………。時間魔法……時間…………)


「そうだよ!!」

「なにが?」

「時間を止めれば良いんだ!!」

「はぁ?」

「だから、お母さんの時間を止めれば良いんだよ!!時間は止めれるんだよね?」


 彼は面倒くさそうに「はぁ」と息を吐いた。


「あのさぁ、さっきの話聞いてた?」

「時間は戻せなくても、止めることはできるんだよね?」


 私がそう言うと、彼は観念したように、投げやりに言った。


「はいはい、時間は止めれるよ。でも、無償でやって貰えると思わないでよね。君には代償を払ってもらおうか」

「代償?」


 彼は、私の心臓を指しながら試すような口振りで言った。


「時間魔法の代償は……君の寿命だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ