しまらー賢者
今日は、所用でいつもと違う路線バスに乗った。
40分ほどの道のり――よし、寝よう。
ロングシートタイプの座席の端っこで、ウトウトといい気分で眠っていたら、停車の勢いで、横の手すりバーに思いっ切り頭をぶつけた。
目を開けると、黒いサコッシュの骸骨が目に飛び込んできた。
続いて、黒のパンツにジャラっとついた太い金鎖が私の目を引く。
そっと目を上げて行くと、青いクマ柄の黒いシャツ――ゴシックぽいテイストだ。(やみクマと言うらしい)
豹柄のショルダートートもファッションに合っている。
惜しむらくは、髪型だ。
長さはよいとして、手入れ不足の感が否めない。落ち武者の一歩手前くらいの感じである。
髪色は白髪混じりのグレー。
これは……
いや待て。最近は、若い人でも真白にしてたりするからな。
ジロジロ見ないように視界の端でとらえてみれば、その人はおじさんだった。
おじいちゃんに片足を突っ込んでいるかもしれない。
ワンチャン、孫のお下がりという線も頭をよぎったが、オレンジ色の靴紐がついた厚底スニーカーが全力で否定してくる。
私は、人のファッションを批判するタイプではない。
誰もが自由に、自分が好きな服を着ればいいと思う。
ただし、創作家の性として、気になってしまう。
この人はどこに行くんだろう? 地下アイドルのライブとか?(この田舎町に地下アイドルのライブ会場はない)
おやじバンドのメンバーかな? ギターケースはないから、ドラマーかも。
スナックのマスター。
ある日、おじいちゃんと中身が入れ替わった孫。
その場合、孫の姿をしたおじいちゃんは学校へ行っているんだろう。いじめっ子をやっつけてくれてたりして。
あるいは、異世界から転生してきた賢者かもしれない。この世界の衣服を手に入れるために、ショッピングモールへ行ったらこうなった。
たぶん、買い物先は『しま○ら』だろう。
――そんなふざけた物語を考えていると、私の向かい側に座っている男子高校生がソワソワしているのに気づいた。
彼はチラリと地雷系おじさんを見てから、うつ向いて一心不乱にスマホを見続けた。
分かるよ。
席を譲ろうかどうか迷ったんだね。
下手に『どうぞ』と譲ったら、気を悪くしそうだものね。
やはり、賢者転生にしようか。
バスの席を譲られる場面から始まる冒険譚もいいかも知れない。




