アルコールと擬態
下戸である。
体質的にアルコールが合わないのか、ビールを二口も飲めば胃の中のものを全て吐いてしまう。
社会人になりたての頃は、まだノンアル飲料など世の中になく、今ならアルハラと言われるであろうやたらビールを注ぎたがるオジサンが職場の飲み会に標準装備されていた。
しかし同時に、職場には頼もしいお兄さん達もいた。
彼らは私が飲めないと知ると、乾杯のビールをサッと胃袋に片付けてくれた。
代わりに私に渡されるのは、氷を入れたウーロン茶とか、水で薄めたオレンジジュースのジョッキだ。すごい。チューハイに見える。
ビールを注ぎたがるオジサンには、『こっちを飲んでるんで』とニッコリ笑うだけでいい。
他に伝授された技は、『楽しむこと』だった。
「どうせ周りは酔っ払ってる。お前がはしゃいで騒いだところでたいして覚えてない」
なるほど。
ならば本気で遊ぼうではないか。
グラスが空になるごとに、周りの人の声が大きくなるごとに、私も肩の力を抜いてテンションを上げていく。
どこかライブ会場にも似ていて、楽しくなってくる。
笑い、歌い、踊り、また笑う――そこまでくると、それは演技ではなく擬態だ。
そして数年後には、私は“酔っ払いより酔っ払ってる女”と言われるまでになった。
いまだに飲み会に参加すると、後から『あれっ? 飲んでなかったの?』と驚かれる。
飲むピッチが速いので、酒豪だと思われた事もある。
擬態も重ね続けると、外見もそれっぽくなるのだろうか。
コロナ禍の折、集団予防接種に行った時の事である。
担当医だった年配の先生は、問診をした後に急に小声になった。
「あのね」
何だろうと、私も身を乗り出す。
「今夜、8時を過ぎたら飲んでもいいから」
ウインクをしてサムズアップ――そんな幻が見えるような、いい笑顔だった。




