夏と怪談
怖い話が苦手な人はスルーで。
世の中で一番怖いものは、人間だという。
バールを持って家に押し入って来るような奴、商業施設で包丁を振り回す奴、ミサイル飛ばす奴――確かに。
出会う確率は『危ない人』のほうが高いのだろうが、ヒグマもかなり怖い。なにせ出会ったら問答無用である。戦っても勝てる気がしない。
それとは全く違う次元で、私は幽霊の類が怖い。
想像力があるというのは、創作する分には賜物に近いものではあるが、実生活では時々厄介なものになる。
つまり……霊感など全くないのに、想像だけで怖くなるのだ。
『シャンプー中に自分のじゃない手に手が当たる』とか『目をつぶってシャワーで頭を洗ってたら視線を感じる』とか『薄暗い洗面所で、ふっと目を上げると鏡に映った自分の背後に誰かいる』とか。
極めつけは、夜にゴミを捨てに行って箱型のごみステーションの蓋を開けたら中に老婆が座っている、というものだ。
よって、私は絶対に収集日の朝にしかゴミを出せない。(それが正しい行動だから、それでいいのだけれど)
因みに、ごみステーションの老婆の想像を夫に話したら、『よせ! 俺でも怖くなるわ』と怒られた。
これだけ怖がりのくせに、夏になるとコンビニに並ぶ心霊ものの文庫本を買い、テレビの心霊番組も観てしまう。
その時はいいのだ。
むしろワクワクする。
本当の恐怖は、その後にやって来る。
ふと、思い出した時に――
夜の闇。微かな気配。
扉を開けたら“何か”が立っているかもしれなくて。
誰もいないはずの部屋の中で、名前を呼ばれたらどうしよう。それは不気味な声より、どこかで聞いたような普通の声の方がなお怖い。
怖い怖い怖い。
そんな想像が、現実になった時があった。
キャンプ中の事だ。
真夜中に、眠る私の頬をふわっと風が撫でた。妙に誰かの視線を感じる。
何だろうと思いながら目を開けると、私の顔をのぞき込むものと目が合った。
こういう時、人は悲鳴を上げられないものだと知った。
ただただ、漫画のように『ヒイッ』と息を呑むだけである。
じっとこちらを見る目。それは――
夜の闇に溶け込んだ、うちの黒いワンコの目だった。
一緒に寝ているのが嬉しくて、見ていたものと思われる。




