私とジェミニの攻防戦
野球は、日本ハムファイターズ推しである。
その日は、帰宅途中の車の中で試合開始時間を迎えた。
ラジオから、賑やかな野球中継が流れる。
先発ピッチャーは伊藤大海だ。
今日は『いい大海』だといいんだけど。
彼はエースピッチャーなのは間違いないが、たまに極端に立ち上りの調子が悪い事がある。
今日の対戦相手は西武ライオンズ、現在2位。日ハムは3位。
そうなると他球場の、1位ソフトバンクホークスの事も気になるわけで――ちょっとスマホを見た。
※運転しているのは夫であって、私ではない。
今日の対戦相手は楽天イーグルス……先発ピッチャーは、載ってないな……
『ソフトバンク ピッチャーは?』と、検索すれば、最近、先陣を切って答えたがるグーグルさんちのジェミニちゃんが出てきた。
――本日の試合における両チームの予告先発投手は以下の通りです。
* 福岡ソフトバンクホークス:有原 航平
* 東北楽天ゴールデンイーグルス:早川 隆久
エース級のサウスポーである早川投手と、安定感抜群の有原投手による見応えのある投げ合いが期待されるマッチアップとなっています。
有原か……有原!?
「有原は日ハム」
――有原航平投手は、かつて北海道日本ハムファイターズに在籍していました。
(ここから有原の経歴を並べ)
日本ハム時代の印象が強く残っているファンの方も非常に多い選手です。
待て待て待て、有原は今シーズンから日ハムに戻ってきたんだよ
「今日の先発じゃないけれど有原は日ハム」
――有原航平投手が日本ハム(北海道日本ハムファイターズ)の生え抜きエースであり、球団の歴史を代表するピッチャーの一人であることは間違いありません。
(ここから有原の成績を褒め称え)
かつて日本ハムの背番号「16」を背負って札幌ドームなどで力投していた姿こそが、有原投手の原点です。
これは、聞き方が悪かったのか。
「今日のソフトバンクの先発ピッチャーは?」
――本日の楽天戦における福岡ソフトバンクホークスの先発ピッチャーは、有原 航平投手です。
有原投手は日本ハム時代の印象が非常に強いですが、現在はソフトバンクのエースとして、本日のマウンドに上がっています。
現在、試合は中盤へと差し掛かっています。現在のスコアやランナーの状況、あるいは有原投手のこれまでのイニング成績など、リアルタイムの試合速報をさらにお調べしますか?
まさかの上から目線!
『印象が強いから、あなたが勘違いするのも分かりますよ、フッ』って鼻で笑われたみたいになってる。しかも試合開始から10分で中盤かよ!
仕方がないので検索して日刊スポーツのサイトにたどり着いた。なぜ人間側が調べる。
「ソフトバンクは大津だよ」
――大変失礼いたしました。おっしゃる通り、本日の試合で福岡ソフトバンクホークスの先発マウンドに上がっているのは、大津 亮介投手です。
何度も先発投手を間違えてしまい、大変申し訳ありませんでした。
仕切り直しまして、大津投手の現在のイニング状況や三振・被安打などの登板成績、あるいは現在のリアルタイムの試合スコアなど、どちらの情報を詳しくお調べしましょうか?
仕切り直すんだ……腹が、腹が痛い。
しかし、なぜこんな回答が?
考えられるのは、情報量の多寡だ。
新しい情報というのは、どうしても量が少ない。
情報量が少なければAIは『真実ではない』と判断するのか。新しさと量の多寡はどちらが優先されるのか。
うちの助手AI君が言うには、やはり量が優先されがちなのだとか。
――AIにとって鮮度の高い情報は、まだ“証拠が少ない”ために信用しづらい。だから古い情報の山を見て、『こっちの方が確からしい』と判断してしまうんですよ。
ああ、それは……AIだけではない。
「人間もそういうところあるよ。『みんなが言っているから』『ネットにたくさん書いてるから』 それを判断基準にする人は一定数いる」
“和を以て貴しとなす”日本人は、周囲に合わせるスキルは必須である。
それが悪いとは言わない。良い面もたくさんある。
けれど、それに押しつぶされそうな時は思い出してほしい。
声の大きな人の意見はよく通る。ただし、目立つ意見が多数派だとは限らない。
“みんな”というのは、誰かと名前を挙げてみたら、二、三人しかいないという。
ジェミニちゃん、楽天のピッチャーは合ってたよ!




