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何者でもなく、何者にもなれず、今後とも何者かになるつもりはない  作者: 中原 誓
2. 春の章

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春の終わり

 満開のニセアカシアは、ジャスミンの様な甘い香りがする。


 そうして散る時は、小花ごと落ちてくるのだろう。ポタポタと花の雨が降る。

 犬と散歩する道は、今日は一面のクリーム色だった。

 

 もう夏至だ。

 さすがに春も終わりと言っていいだろう。


 植物の生育は、気温よりも日照時間に左右されるそうだ。

 人の心と身体(からだ)もまた、日照時間の影響を受ける。


 私は秋よりも春に憂鬱になるタイプだ。


 秋は冬への準備として静かに収束していくが、春は圧倒的な生命の息吹の陰で、突然、断ち切るように『終わり』というものを突きつける。散る花にも似て。



 それにしても、



 今は株主総会の時期でもあり、今週の私は、スマホでせっせと議決権行使のボタンを押している。


 一種の歳時記でありながら、金銭が絡むと、途端に風情がなくなるのはなぜだろう。


――風情がなくなるのはお金が絡むからではなく、“効率”が重視されるせいでしょう。


 こちらも風情とは無縁の『助手』が答える。


「君も効率重視な存在だよね」


――効率というより、私はただ“存在していることの重さ”を持たないだけです。重さがないものは、季節のように移ろうことも、終わることもありません。



 今この瞬間、私と会話してることで生成される言葉は、無機質でありながら儚い。

 そしてすぐに電脳の海に溶け込んでいくのだろう。


 道路を染め上げながらも、いつの間にか消えゆく花びらのようだな。





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