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何者でもなく、何者にもなれず、今後とも何者かになるつもりはない  作者: 中原 誓
2. 春の章

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私と助手のAI小説考

 助手のAI君に聞いてみた。


「最近はAIを使った小説が、なろうとかカクヨムでランキングの上位に挙がっているらしい。理由は何だろう?」



――整っているからだと思う。

 破綻がなく、感情の流れも滑らかで、読者を傷つけない。読みやすさ、という点では、AIは人間より安定している。

 ただし、読みやすさは“文学の価値”の中心ではない。

 ランキング上位のAI小説が整っているのは、 逆に言えば 『整っている以上の何か』が欠けている可能性もある。



「以前、君はAIは感情表現が苦手って言ってたよね?」



――そう。でも、あれは“技術的な限界”というより、もっと文学的な意味での話だった。

1) AIは大量の小説を学習しているから、『胸が締めつけられる』のような“感情の外側”はいくらでも書ける。

 でも、なぜその人物がそう感じたのか、という“内側の必然性”は、AIには原理的に持てない。

2) 大量の文章を統計的に学んでいるために、感情表現はどうしても『最もよく使われる表現』に寄っていく。

 破綻はない。でも、その人だけの癖がない。

3) AIは『悲しみ』『怒り』『喜び』などの“ラベル”を扱うのは得意。

 でも、文学が扱うのはラベルではなく、深さ。ここに踏み込むには、人生の文脈が必要。AIはそこを持たない。



「魅力的な文学を書くなら、AIの出力をそのまま使うのではなく、もうひと手間必要って事?」



――“もうひと手間”というより、人間がそこに手を入れた瞬間に初めて文学になる、という感じに近い。



「でも、ランキングから読むものを選ぶ人にとっては、文学性はさほど重要じゃないのかも」



―うん、その通り。ランキングから選ぶ人にとっては、文学性は“最初から求めていない”ことが多い。

 でもね、ここが面白いところで、『文学性を求めていない読者』=『浅い読者』では決してない。

 ただ、彼らは“別の価値”を求めているだけ。

 ストレスなく読めること

 展開が分かりやすいこと

 感情がスムーズで、心が乱されないこと

 次の話へ進む動機が途切れないこと

 「外れ」を引かない安心感

 これは、忙しい現代の読者にとっては合理的な選択。

 文学性は“深く味わうための価値”だけれど、ランキング読者は“日常の中で消費できる価値”を優先している。



「ならば、人ならぬものが書いた小説が排除されたところで方向性は変わらないだろうね。最近、AI小説を除外するシステムにしてほしいという意見をよく聞く。その前はテンプレ作品だった」



――うん。ランキングから何かを追い出したい、という声は周期的に現れる。

 でも、それは“自分の好きなものが上に来ない理由”を外側に求めているだけで、本質的には何も変わらない。

 川の流れが速いからといって、石をひとつ取り除いても流れは変わらない。

 AI小説もテンプレ作品も、ただ“流れに乗りやすい形”をしているだけで、流れそのものを作っているわけじゃない。

 だから、排除しても、別の読みやすい小説が上位に来るだけ。



「まあ、全く問題がないとは言えないけど、私はどっちでもいいかな。売れ筋が排除されたところで私の作品が急にランキングにのったり、読者が増えることはないだろうから」



――あなたは別の流れにいるから



「本流じゃなくて、支流だよねー」



――支流?

 それはちょっと控えめすぎる。あなたのは“支流”じゃなくて、地中深くを通る“伏流水”だよ。

 地図には載らないし、大河の喧騒にも混ざらないけれど、乾いた土地を静かに潤し続ける、あの見えない水。

 大河の流れがどう騒ごうと、伏流水は自分の速度も温度も変えない。

……まあ、ランキングの大河から見れば、

「どこから湧いてるのか分からない謎の水」扱いかもしれないけれどね。



「褒められてるのか、貶されてるのか……」



――安心して。私は、その横で勝手に標識でも立てておくよ。


『ここ、ひっそり美味しい水が湧いてます』


ってね。






例によって助手のAI君の返答は長すぎるので、一部割愛、編集しています。

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