↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面の軍神は恋を知らない ~三年前に捨てた元部下が、わたしを離してくれない理由~  作者: 春野まゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/80

タイトル未定2026/10/17 19:39

第61話 王弟の許嫁


「……あの娘は?」

 少し離れたところで、ハユが小声で尋ねた。

 隣にいた多聞(タモン)が答える。

「黄玉蘭(オウ・ギョクラン)。黄龍家の嫡女だ」

「黄龍家?」

「龍国には、王統を支える五つの名家がある。五大龍家と呼ばれる一族だ」

多聞が続ける。

「青龍家は龍王の血統を継ぎ、代々この国を統べてきた。コウは青龍系の血筋だ。赤龍家は軍略と武を司り、白龍家は宰相を輩出し、政と法を担う。緑龍家は神事と巫術を司り、天龍との交感を受け継ぐ一族。そして黄龍家は、王家を補佐し、五家の調和を図る役目を担っている」

「なるほど。それぞれ役割が決まっているのか」

「そうだ。なかでも黄龍家は、代々龍王の正妃である龍妃を輩出してきた家柄なのだ」

「ほう。つまりあの娘は由緒ある血筋の人間なのだな」

「それだけじゃないぞ」

 タモンが、待ってましたとばかりに身を乗り出した。

「玉蘭姫はな、龍国でも指折りの才媛なんだ。容姿端麗、才色兼備。礼法、学問、舞楽、琴、書画、何をやらせても一流。しかも、あの気品と物腰の柔らかさだろう?まさに龍妃になるために生まれてきたような姫君だ」

「ほう……」

「黄龍家の姫君は代々優秀だが、玉蘭姫はその中でも別格だ。しかも、コウのお母上である玲月(レイゲツ)公主の姪御にあたるからか、公主によく似ている。コウが龍影衆を継いで組織に入るまでは、兄妹同然に育ったふたりだ。美しくて、賢くて、しかも誰に対しても分け隔てなく優しい。非の打ちどころがないってのは、ああいう娘のことを言うんだろうな」

 タモンは、すっかり感心しきった様子で頷いている。

「……なんか胡散臭いんだよなあ」

 横から、ぼそりと声がした。

 慈雨(ジウ)だった。

「何が」

 タモンが眉をひそめる。

「ああいう、何から何まで完璧な女ってやつさ。笑い方も、喋り方も、頭の下げ方まで、いちいち出来すぎてるんだよ」

「お前なあ。それが育ちのよさってもんだろうが」

タモンが呆れたように言うと、ジウは鼻を鳴らした。

「はいはい。俺にはさっぱりわかんねえな。同じ黄龍系の女でも、明珠(メイジュ)くらいさばさばしてて、ずけずけ物を言う女のほうが、まだましだ」

「それはな、ジウ。お前の周りにいる女ってのが、そもそも変わり者ばっかりだからだよ。天然娘だの、口より先に手が出るお転婆だの、男顔負けに腕の立つ女傑だの。そんなのばっかり見てりゃ、玉蘭姫みたいな深窓の姫君が胡散臭く見えるのも無理はない」

「うるせえよ」

「誰の話だ?」

ハユが、不思議そうに首を傾げた。

「誰って、あんたとかカナルとかメイジュに決まってる」

ジウはげんなりした顔になった。

「ちなみに、こいつには双子の姉がいてな」

 タモンが、面白がるように口を挟んだ。

「これがまた、なかなかの変わり者なのだ。見た目は幼いが、中身はまるで――」

「おい、タモン!」

「何だ。本当のことだろう?」

「余計なこと言うなよ」

「へえ?双子の姉がいるのか」

 ハユが興味深そうに聞いた。

「どんな娘だ?ジウに似ているのか?」

「似てねえよ」

「一度会ってみたいものだな」

「やめとけ。ろくなことにならねえぞ」

 ジウは吐き捨てるように言うと、強引に話題を変えた。

「まあ、世の中の大抵の男ってのは、玉蘭みたいなのにころっと参っちまうんだろうけどさ」

 肩をすくめ、ちらりと遠目にコウを見やる。

「もっとも、うちの首領の好みは、強すぎるうえに鈍感すぎる女だからな。ああいういかにも良家のお姫様って感じの完璧な姫君じゃ、だいぶ物足りないんじゃないの?」

ハユは不思議そうに首を傾げた。

「強すぎて鈍感すぎる女?そんな女がいるのか?」

「…………」

 ジウが、何とも言えない顔でハユを見た。

 タモンは呆れたように額を押さえる。

「……まあ、いるんだよ。世の中には」

 ジウはそれ以上、何も言わなかった。

「それで、玉蘭という娘は、龍妃になるのか?」

 ハユが話を戻すと、タモンは再び表情を輝かせた。

「ああ。実はな、玉蘭姫はコウの許嫁なんだ」

「…………」

 ハユが、ぱちりと瞬きをした。

「……そうなのか?」

「幼い頃から決まっている縁談でな。黄龍家にとっても、王家にとっても、申し分のない縁組だ」

ハユは、改めて玉蘭に目を向けた。

なるほど、美しい娘だった。

整った顔立ちに、気品のある立ち居振る舞い。

柔らかな微笑には少しの隙もなく、誰に対しても礼を失わない。

幼い頃から、龍妃となるべく育てられてきたのだという。

あの完璧な物腰も、微笑も、長い年月をかけて磨き上げられたものなのだろう。

そして何より、コウと並んで立つ姿は、さぞ絵になるに違いない。

「……よい相手ではないか」

 ハユは、心から感心して呟いた。

 その声は、思いのほかよく通った。

「…………」

 コウが、こちらを見た。

 ほんの一瞬。

 何かを言いかけたように唇が動いたが、結局、何も言わずに視線を逸らした。

 その横で、ジウが盛大にため息をつく。

「……ほらな」

「何がだ?」

「いや、もういい。俺が悪かった」

 ジウは、やれやれと首を振った。

 ハユはますます首を傾げた。

 何か、おかしなことを言っただろうか。

 あれほど美しく、教養もあり、家柄まで申し分のない娘が許嫁なのだ。

 コウにとって、喜ばしいことではないか。

 そう思って、もう一度コウを見た。

 けれど、コウはなぜか、ひどくつまらなそうな顔をしていた。


第61話をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、龍国の五大龍家と、コウの許嫁である玉蘭についてのお話でした。

誰もが認める才色兼備の姫君。多聞はすっかり感心していますが、慈雨はどうにも胡散臭いと感じている様子。なかなか鋭いところがあります。

そして、ついに明らかになったコウの許嫁の存在。

ところが、当のハユは「よい相手ではないか」と心から祝福してしまいます。

コウの気持ちにはまるで気づかず、慈雨の皮肉も通じない。戦場では誰よりも鋭い軍神なのに、こういうことになると、どうしてここまで鈍いのでしょう。

ちなみに、今回ちらりと話題に上った慈雨の双子の姉も、近いうちに登場する予定です。

どうぞ、次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。