↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面の軍神は恋を知らない ~三年前に捨てた元部下が、わたしを離してくれない理由~  作者: 春野まゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/80

第15話 元相棒の忠告

 しばらくして。

 ハユ一行は楼の奥にある鳳(ホウ)――もとい、朱楼閣の楼主である阿喬(アキョウ)の私室へ案内された。

 酒と料理が置かれる。

 奏(カナル)は物珍しそうに室内を見回していたが、ホウは先ほどから別のものを見ていた。

 白瑶の後ろ。

 正確には。

 そこに立っている青年を。

 深い青緑の瞳。

 青みを帯びた黒髪。

 青みを帯びた黒髪に、一房だけ混じる、血を垂らしたような深紅。

 ずいぶん面変わりしていて、すぐには気づかなかった。

 けれど、覚えている。

 かつて蘇白瑶の傍らに、いつもいた少年。

 たしか――。

 顧虹(コ・コウ)。

 行き倒れていたところを白瑶に拾われ、最初は側仕えのように身の回りの世話をしていた。

 それがいつしか剣を取り、ともに戦場を駆けるようになった。

 白瑶が消えたあともめきめきと頭角を現し、最後に消息を聞いたときには、彪国軍の上位将軍にまで上り詰めていたはずだ。

「…………」

 アキョウは、改めて青年を上から下まで眺めた。

 昔から妙に隙のない子どもだった。

 愛想がよく、気が利いて、従順で。

 ――だからこそ、どこか胡散臭かった。

 それが今では。

「ずいぶん、いい男になったじゃない」

 にやりと笑う。

 虹もにこやかに笑い返した。

「そちらこそ。しばらくお会いしない間に、ずいぶんお変わりになられましたね」

 言葉遣いは丁寧。

 だが、敬意は微塵も感じられない。

「あら。面白いでしょう?」

 アキョウは艶やかな笑顔で袖を広げてみせた。

「かつての朱国将軍はこんな格好で楼主をやってるし、彪国の仮面将軍は銀髪の美人薬師になってる」

 それから、白瑶をまじまじと見る。

「それにしても、あんた、見れば見るほどあたし好みの美人だわ」

「そうか」

「髪、触っていい?」

「なに?」

「頬もつついてみたい」

 返事を待たず、アキョウの手が伸びる。

 ばしっ。

「痛っ!」

 またしても。

 白瑶へ届く前に、その手を虹が叩き落とした。

「あら」

 アキョウが手の甲をさする。

「なんか、あたし警戒されてる?」

「当然でしょう」

 虹は笑っている。

「女装癖のある朱国第一王子なんていう怪しげな人間に、僕のハユ先輩へ近づいてほしくありません」

「誰が女装癖よ!」

「違うのか」

 白瑶が訊く。

「違うわよ!」

 アキョウが振り返った。

「さっき説明したでしょう!好きな服を着てるだけ!」

「どちらでも結構です」

 虹がさらりと言った。

「重要なのは、ハユ先輩に触らないことです」

「…………」

 アキョウの動きが止まった。

「そういえば、さっき」

「何です?」

「なんて言った?」

「だから、触らないで――」

「その前」

「?」

 アキョウの朱い瞳が、ゆっくり細くなる。

「僕の――何?」

 虹の笑顔が止まった。

「…………」

「僕のハユ先輩?」

「…………」

「へえ」

「何ですか」

「別に?」

 アキョウは、虹を見た。

 昔。

 白い仮面の将軍の後ろをついて歩いていた少年。

 ハユが行けば行く。

 止まれば止まる。

 呼ばれれば、嬉しそうに駆けていった。

 それが。

 今では。

 ハユより背が高い。

 肩も広くなった。

 少年の面影を残しながらも、すっかり一人の男になっている。

 そして。

 他人の手が白瑶へ伸びただけで、当たり前のように間へ割って入る。

「……あんた」

 白瑶を見る。

「いつまで、こんな危険なコドモ飼うつもり?」

「コウのことを言っているのか」

「ほかに誰がいるのよ」

「もう子どもではない」

「見れば分かるわよ」

「危険でもない」

 アキョウは小さく息を吐いた。

 ――軍神の異名をもつ蘇白瑶ともあろう人間が、昔から、その点についてだけは見誤っている。

 こいつの、どこが、「危険じゃない」なんて言えるのか。

 根拠はない。

 しかし、直感が警鐘を鳴らすのだ。

 ホウの声が、ほんの少しだけ変わった。

「あんたが消えたあとの、このコを少しだけ知ってるけど」

 白瑶の視線が動く。

「何だ」

「ひどかったわよ」

「何が」

「何がって……」

 アキョウは白瑶を見る。

「ほとんど、気も狂わんばかりだった」

 白瑶が首を傾げた。

「なぜだ」

「…………」

 本当に。

 分かっていない。

「コウには、生きる術は教えた」

 白瑶は淡々と言った。

「剣も。弓も。馬も。野営もできる。薬草もある程度見分けられる」

「…………」

「才能もある。頭もいい。大抵のことは一人でこなせる」

 そこで少し考え、

「料理の腕も最高だ」

「そこ?」

「重要だろう」

「まあ、重要だけど」

「だから、私がいなくても一人で生きていける」

「…………」

 アキョウの眉間に深い皺が寄った。

「……ばかね」

「何がだ」

「そういうことじゃないのよ」

「では、どういうことだ」

「だから――」

 言いかける。

 そして。

 やめた。

 アキョウは虹を見る。

 虹は黙っていた。

 いつものように笑っている。

 けれど。

 その視線は。

 白瑶から、ほとんど離れない。

 三年前より。

 ずっと静かで。

 ずっと深い。

 そして。

 ずっと危うい。

「……なるほどね」

「何だ」

「なんでもない」

 アキョウは笑った。

「ただ、一つだけ忠告しておくわ」

「何だ」

「あんた、今度は黙って消えない方がいいわよ」

「なぜだ」

「次に消えたら」

 アキョウが虹を見る。

「このコ、今度こそ本当にあんたを檻へ入れるわよ」

「コウが私を?」

「ええ」

「なぜ?」

「…………」

 アキョウは額を押さえた。

「そこからなのよ、あんたは!」

 奏が堪えきれず、吹き出した。

「ふふっ……!」

 白瑶だけが。

 最後まで、不思議そうな顔をしていた。

「人を檻に入れる趣味はありませんよ」

 虹が穏やかに口を挟んだ。

「今のところは、でしょ」

 アキョウが返す。

「それに」

 虹の笑みが少しだけ深くなる。

「ハユ先輩が失踪したあと、おかしくなったのは僕だけじゃないでしょう?」

「……何よ」

「久しぶりに朱国に来てみれば、朱雀軍の将軍は代替わり。第一王子も行方不明」

「…………」

「そのうえ」

 虹はアキョウを上から下まで眺めた。

「装いまで完全に変わって、高級楼閣の女楼主になっているとは」

「好きでやってんのよ」

「王位を捨てて?」

「あたしには超絶優秀な弟がいるから、別に問題ないわよ」

「朱国の慕容王家の嫡男が、なにをどうとち狂ったらそんなことになるんだか」

 にっこり。

「ハユ先輩が消えたあと、 どこの誰が一番おかしくなったのか、僕には判断がつきませんね?」

「……あんた」

 アキョウのこめかみがひくりと動く。

「昔より可愛げなくなったわね」

「大人になったので」

「嫌な大人になったわ」

「お互いさまでしょう」

「何ですって?」

「二人とも」

 奏が割って入った。

「喧嘩はあと!」

「喧嘩じゃないわよ」

「喧嘩ではありません」

 声が重なった。

 奏はため息をついた。

「わたし、商談に来たんだから!」

「…………」

 その一言で。

 ようやく。

 本来の目的を思い出した。


お読みいただきありがとうございます!

三年ぶりに再会した元相棒・ホウ。

姿は変わっても、ハユへの距離感は昔のまま。

そしてコウへの警戒心も、どうやら昔から変わっていないようです。

「今度は黙って消えない方がいいわよ」

……もっとも、本人たちはまだ全然分かっていません。

そしてようやく、本来の目的――商談へ。

次話もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。