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破滅したくない元男の悪役令嬢ですが、なぜか男女問わず好かれていきます ~攻略対象は男友達のつもりなのに、同性の令嬢との距離まで近すぎるようです~  作者: 0JOY
第1部 第三章 古き道を辿る者たち

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第74話 地下で繋がる道



 王城へ向かって伸びている青白い線を見つめたまま、三人はしばらくその場を動かなかった。


 石獣が崩れ落ちたあとの広間には、先ほどまでの激しい音が嘘のような静けさが戻っている。床や柱を走る古い魔力の流れも、門番へ力を送り込んでいた時とは違い、今はただ決められた経路を淡々と巡っているように見えた。


 その中でも、盤面の中央へ向かう太い一本だけは妙に目につく。


 山を越え、川の近くを通り、いくつもの細い経路を束ねながら王都へ入り、その先でも途切れることなく中心部へ伸びている。


 王城の地下まで。


 ヴェルシアナはもう一度その位置を確かめたが、見れば見るほど間違いには思えなかった。


「……先へは?」


 隣に立つディルヴァンへ尋ねると、彼はすぐには答えず、盤面の先と、広間の奥に残された通路を順番に見た。


 さっきまでなら、何があるのか確かめたいという好奇心の方が先に出てもおかしくない。


 それでも彼は、短剣についた石の粉を親指で軽く払ってから鞘へ戻した。


「行きたいけど、今はやめた方がいいと思う」


「同感です」


 ヴェルシアナはそう返しながら、今度はオルティアの左肩へ目を向ける。


 まだ服の下にある《織環》の紋までは見えない。それでも、先ほどから彼女が無意識にそのあたりへ力を入れていることくらいは分かった。


 オルティアも視線の意味に気づいたらしい。


「見なくても分かっています。もう使いません」


「それなら安心しました」


「先ほど散々止められましたから」


 言い方に少しだけ不満が混じっていたものの、本気で反発しているわけではない。


 ディルヴァンも左腕を何度かゆっくり曲げ伸ばししている。


 動かせてはいるが、普段より明らかに動きが慎重だった。


「ディルヴァン様も、その腕で先へ進む気はありませんね?」


「今のところは」


「今のところ、ではなく」


「分かってるよ」


 返事は軽いが、再び短剣へ手を伸ばす様子はない。


 三人とも、先へ行けないわけではなかった。


 むしろ、道そのものはある。


 けれど、進むための条件が整っていない。


 オルティアは《織環》を使ったばかりで、その負担すら分かっていない。ディルヴァンは左腕を痛め、ヴェルシアナ自身も、四本目の流れを外した時から指先にまだ鈍い重さが残っている。


 何より、今ここで王城まで続くような古代経路へ踏み込む理由がなかった。


 知りたいことと、今やるべきことは同じではない。


「戻る方法を探しましょう」


 ヴェルシアナがそう言って、盤面から少し距離を取った時だった。


 床を流れていた青白い光の一部が、ほんの僅かに揺れた。


 石獣が動き始めた時のような乱れではない。


 一本の経路へ何かが触れ、それを別の場所へ押しやるのではなく、絡んだ糸を順番にほどくように静かに整えている。


 ヴェルシアナは足を止めた。


「どうしました?」


 オルティアが尋ねる。


「少し待ってください」


 魔力の揺れへ意識を向ける。


 一本が整い、その先で二本目が静まる。


 さらに遠くで別の流れが分けられ、今度はこちらへ向かう経路だけが細く開いていく。


 荒々しさがない。


 施設へ力任せに干渉している感じとも違う。


 どう触れれば元の流れを壊さずに道を作れるのかを、最初から分かっている人間の手つきだった。


 ヴェルシアナは息を吐く。


「……先生ですね」


「分かるのですか?」


「たぶん。こういう触り方をする人、他に思いつきません」


 ディルヴァンが床へ視線を落とした。


「ヴィクトル先生?」


「ええ」


「迎えに来たってことかな」


「そうだと思います」


 言い終わる頃には、広間の壁の一部へ細い線が浮かび始めていた。


 先ほどまで何もなかった石壁へ、縦に一本。


 続いて横へ二本。


 それが四角い輪郭を描いたあと、内部の石材が奥へ沈み、低い摩擦音とともにゆっくり横へずれていく。


 開いた向こう側には別の通路があった。


 そして、その先に数人の人影が見える。


 最初に姿を現したのはヴィクトルだった。


 走ってはいない。


 それでも足取りに迷いはなく、開いた通路の境目を一度見ただけで、そのまま広間へ入ってくる。


 後ろには護衛が数名。


 さらに少し遅れて、見覚えのある淡い髪が続いた。


「兄上」


 ルシアンだった。


 ディルヴァンが振り返る。


「ルシアン」


 ルシアンは駆け寄りそうになって、一歩目で止まった。


 兄の頬に残る細い傷と、普段より少し低くなっている左肩を見たからだろう。


 近づいてきても、すぐに何かを言うことはなかった。


 まず腕を見る。


「左、動かしにくい?」


「少しだけ」


 ディルヴァンは何でもないように腕を上げてみせたが、肩より少し高い位置でほんの僅かに動きが鈍る。


 ルシアンの眉が寄った。


「少し、で済ませる顔じゃない」


 ディルヴァンが意外そうに目を瞬いたあと、小さく笑った。


「よく見てるな」


「兄上ほど動かないから、そのくらいは見えます」


 声は静かだったが、兄が立っていることを確認できた安堵までは隠しきれていなかった。


 その横をヴィクトルが通り過ぎる。


 三人の前まで来ると、まず何も言わずに全員を見た。


 ディルヴァンの頬。


 左肩。


 オルティアが無意識に左側を庇っていること。


 最後にヴェルシアナへ視線を移し、呼吸と立ち方を確認する。


 それからようやく口を開いた。


「三人とも立てるな」


「はい」


 ヴェルシアナが答える。


 オルティアとディルヴァンも、それぞれ頷いた。


「ならいい」


 それだけ言うと、ヴィクトルは視線を広間の奥へ移した。


 倒れた巨大な石獣。


 胸部の砕けた外殻。


 核があった場所まで届いている短剣の傷。


 そして床に残る、青白い経路とは明らかに異なる銀紫色の細い光。


 そこで初めて、ヴィクトルの歩みが止まった。


 ほんの一拍だった。


 けれど、その一拍をオルティアは見逃さなかったらしい。


「私が触りました」


 自分からそう言った。


 ヴィクトルはすぐには返さず、床の銀紫色とオルティアの左肩を交互に見る。


「……そうか」


 短い返事のあと、ヴェルシアナへ目を向けた。


「何があった」


 質問自体は簡潔だった。


 だからこそ、ヴェルシアナも最初から全部を説明しようとはしなかった。


「扉を開いたあと、あの石獣が動きました。傷をつけてもすぐ元に戻ったので、最初は本体が再生していると思ったのですが……」


「床や柱から入ってた」


 ディルヴァンが途中で補う。


 ヴェルシアナは頷いた。


「はい。石獣の中だけで完結していたわけではありません。施設側から魔力が補われていて、傷を作っても別の道から繋ぎ直されました」


 ヴィクトルの視線が倒れた石獣の肩口へ動く。


 そこには、ディルヴァンが最初に切った細い継ぎ目と、そのあとさらに深く入れた傷が残っていた。


「道を切っても別へ移るので、それを追うだけでは間に合いませんでした」


「それで、私が切るのをやめました」


 今度はオルティアが続ける。


 ヴィクトルが彼女を見る。


「やめた?」


「繋ぎ直しました」


 その言葉の意味を確かめるように、ヴィクトルはもう一度床へ目を落とした。


 銀紫色の一筋は、青白い経路を断ち切っているのではない。


 ヴェルシアナが横へ外した流れを別の道へ渡し、その位置へ留めている。


「これで?」


 ヴィクトルの視線がオルティアの手元へ落ちる。


 オルティアは一度だけ迷うように左肩へ手を添えた。


「それと……もう一つあります」


 服の肩口を少しずらす。


 そこに浮かんだ銀紫色の紋を見た瞬間、ルシアンが目を細めた。


 ヴィクトルの表情は変わらない。


 それでも、いつもより少し長く見た。


「痛むか」


 能力でも、名前でもなかった。


 最初に聞いたのはそれだった。


「先ほどよりは下がっています」


「痛いかと聞いた」


 オルティアの視線が一瞬だけヴェルシアナへ向いた。


 隠しても同じことを言われると思ったのだろう。


「……まだ少し痛みます」


「今日はもう出すな」


「はい」


 反論はしなかった。


 ヴィクトルは紋へ触れることもなく、少し離れた位置から魔力の状態だけを見る。


「名称は」


 ヴェルシアナは一度だけ迷った。


「《織環の針》という名前に覚えがあります」


 ヴィクトルの目がこちらへ向く。


「覚えがある、か」


「詳しい使い方までは分かりません。ただ、古い仕掛けに関わるものだったはずです」


「それ以上は?」


「今のところは」


 ヴィクトルは追及しなかった。


 代わりに、床の銀紫色へ視線を戻す。


「これを作った時、お前は何をした」


 今度はヴェルシアナへの質問だった。


「流れている魔力の端へ触れて、少し横へ外しました」


「止めたのではなく?」


「止めたら負けると思いましたので」


 言ったあとで、少しだけ昔の訓練を思い出す。


 力をぶつけるのではなく、すでに存在している流れを読む。


 ヴィクトルはしばらく床を見たままだったが、やがて視線だけをこちらへ戻した。


「……そう判断したなら、それでいい」


 褒められたわけではない。


 それでも、否定もされなかった。


 そのくらいの言葉の方が、ヴェルシアナにはむしろ重かった。


「帰ったら見せろ」


「これを、ですか?」


「今度は壊れない床でな」


 ヴェルシアナは返事をする前に、ほんの少しだけ嫌な予感を覚えた。


 たぶん訓練が増える。


 いや、間違いなく増える。


「……承知しました」


 隣でディルヴァンが僅かに笑った気配がしたので、そちらを見ようとしたところで、ヴィクトルが今度は石獣へ歩いていった。


 胸部へ近づき、外殻の割れ方を見る。


 二度。


 ほとんど同じ一点へ刃が入っている。


 最初の傷を足場にし、二撃目で外殻を割り、その奥へさらに刃を通した痕跡まで残っていた。


 ヴィクトルはその傷を見たあと、ディルヴァンの腰にある短剣へ目を向ける。


「その刃で?」


「他になかったので」


 ディルヴァンが短剣の柄へ手を置いた。


 まるで、特別なことをしたつもりなどないような返しだった。


 ヴィクトルは何も言わない。


 傷跡と短剣をもう一度見比べたあと、そのままディルヴァンの左腕へ視線を移した。


「腕を見せろ」


「動きます」


「聞いていない」


「……はい」


 さすがに素直に差し出す。


 ヴィクトルが肘から肩まで状態を確認している間、護衛の一人も石獣の胸へ近づいた。


 傷口を覗き込み、一度だけ眉を寄せる。


 何か言うわけではない。


 ただ、別の護衛と視線を交わしたあと、もう一度短剣へ目を向けた。


 それだけで十分だった。


 分かる人間には分かる。


 あの短い刃で、しかも成長途中の身体で、同じ一点へ二度正確に重ねて核まで届かせたことが、どれほど異常なのか。


「骨は大丈夫そうだ」


 ヴィクトルが腕を離す。


「今日は剣を振るな」


「……分かりました」


 今度は少し残念そうだった。


「兄上」


 そこでルシアンの声がした。


 少し離れた場所から聞こえたので、全員がそちらを見る。


 ルシアンは盤面の前に立っていた。


 王城へ向かう太い線ではなく、その途中に並んでいる小さな記号を見ている。


「これ、同じ形が続いてる」


 ディルヴァンが先に歩み寄った。


「どれ?」


「ここ」


 ルシアンが指先を盤面へ近づける。


 触れはしない。


 太い経路の脇に、小さな楕円と横線を重ねたような印が一定間隔で刻まれていた。


 一つだけなら装飾にも見える。


 けれど、追っていくと同じ形が何度も現れる。


 距離もほぼ揃っていた。


「本当ですね」


 オルティアも近づく。


「糸の継ぎ目……には見えません。少なくとも、私が先ほど見た経路の重なりとは違います」


「位置が揃いすぎていますね」


 ヴェルシアナも目で追う。


 山の手前。


 川を越える前。


 古い街道らしき線の近く。


 どれも経路が大きく曲がる少し前に置かれている。


 ヴィクトルが最後に来た。


 しばらく記号を見たあと、低く言う。


「目印か、切り替え点か」


 ルシアンが顔を上げる。


「何の?」


「まだ分からん」


 即答だった。


 けれど、分からないと言い切る声に迷いはない。


 見えていることと、推測できることを分けている。


 ヴェルシアナはその横顔を見ながら、改めて盤面へ目を落とした。


 オルティアは線の前後を読む。


 自分は魔力がどちらへ流れているかを見る。


 ディルヴァンなら、おそらくそこをどう通れるかを先に考える。


 そしてルシアンは、今まで誰も気に留めなかった同じ形の繰り返しへ目を止めた。


 同じものを見ているのに、拾うものが違う。


 だから一人では見えなかったものが増えていく。


「先生」


 ヴェルシアナは王都へ向かう太い線を示した。


「こちらも確認していただけますか」


 ヴィクトルが位置を追う。


 地形。


 川。


 街道。


 そして中心部。


 王城の位置で視線が止まった。


「先生も、そう見えますか」


「位置が正しければな」


 簡単には断定しない。


 ただし、否定もしなかった。


 そこからさらに数秒、盤面全体を見たあと、ヴィクトルは手を伸ばしかけたディルヴァンより先に言った。


「ここでは触らない」


 ディルヴァンが手を止める。


「まだ何もしてないよ」


「だから今言った」


「……分かりました」


 ヴィクトルは盤面の周囲を一周し、どこにも別の仕掛けが起動する気配がないことを確かめる。


「記録だけ取る。構造へ手は入れない」


 護衛の一人が頷き、持っていた紙と筆記具を出した。


 ヴェルシアナも異論はなかった。


 王城まで続く可能性があるものなら、ここで子供が何かを試す話ではない。


 しばらく簡単な写しを取り、オルティアも記憶している経路の重なりを補足する。


 ルシアンが見つけた記号についても位置だけ記録し、意味は決めつけない。


 作業が終わる頃には、広間へ入った時よりもずっと時間が経っていた。


「戻るぞ」


 ヴィクトルがそう言う。


 今度は誰も反対しなかった。


 来た時にはなかった通路を戻りながら、ヴェルシアナは何度か後ろを振り返った。


 巨大な盤面は、遠ざかってもまだ淡く光っている。


 その中の一本が、王都の方向へ消えていく。


 地図の上ではただの線に見える。


 けれど、あれが本当に地下を走っているのなら、王城へ向かう道は今もどこかで生きているということになる。


     ◇


 地上へ戻った時、空気の匂いが違った。


 地下の石と古い魔力に慣れていたせいか、土と草の匂いが妙に濃く感じられる。


 外ではすでに数人の大人が待っていた。


 その中から、レオルディスがこちらへ歩いてくる。


 急いでいるようには見えない。


 それでもヴェルシアナの前まで来ると、最初に顔を見て、そのあと手元、足元へ視線を落とした。


「立てるな」


「はい」


「なら、話は後だ」


 それだけ言う。


 けれど、ヴェルシアナには十分だった。


 肩へ触れるでも、抱きしめるでもない。


 無事だと確認してから、今は休ませる。


 父らしい判断だった。


 少し離れたところでは、グランセル侯爵がオルティアの前に立っている。


 娘が左肩を庇っていることへすぐ気づいたらしく、服越しにそこを一度見た。


「それは何だ」


「後で説明します」


「痛むか」


「少しだけ」


 侯爵は娘の顔を見た。


 たぶん、その“少し”をそのまま信じてはいない。


 それでも今ここで問い詰めることはせず、


「分かった」


 とだけ返した。


 ヴァレンティス公爵の方も同じだった。


 ディルヴァンの頬と左腕を確認し、ヴィクトルから簡単な説明を受けたあとで、息子へ何か長く言うことはない。


「剣は?」


「今日は振るなって」


「なら従え」


「はい」


 あまりにも早く話が終わり、ディルヴァンが少しだけ口を尖らせる。


 ルシアンはその横で何も言わなかったが、ほんの僅かに口元が緩んでいた。


 その日はまず簡単な治療と休息が優先された。


 正式な報告が始まったのは、それから少し時間を置いてからだった。


 大きな机の上へ紙が広げられる。


 地下で写した盤面の簡略図。


 王都へ伸びる経路。


 ルシアンが見つけた反復する記号。


 そして、ミレーヌが以前見つけた古い支出記録の写し。


 レオルディスはそれらを一枚ずつ見たあと、最後に数字が途切れた年代へ指を置いた。


「九十一年前」


 誰もすぐには答えなかった。


 ヴェルシアナも、そこへ意味を足しすぎないよう言葉を選ぶ。


「一致しているとは限りません」


「ああ」


 レオルディスは指を離さない。


「だが、偶然として捨てるにも近い」


 グランセル侯爵が別の紙を見る。


「維持費として名前が残っていた期間と、地下経路が閉じられた時期が同じだと決まったわけではありませんな」


「まだな」


 レオルディスが答える。


「だから王都側の記録も見る」


 ヴィクトルは机の端に立ち、地下の簡略図を見ていた。


「王城の地下へ伸びているように見える経路が、実際に現在の王城直下まで続いているかは確認が必要です。地図自体が古い可能性もあります」


「それでも、王家へ黙って調べる場所ではないな」


 ヴァレンティス公爵が低く言う。


 その言葉に、レオルディスも頷いた。


「陛下へ報告する」


 部屋の空気が僅かに変わった。


 地下施設の調査で終わっていた話が、その一言で王城へ繋がる。


 ヴェルシアナは机の上の線を見た。


 王都。


 王城。


 そして、その場所にいる一人の顔が自然に浮かぶ。


 アレクシス。


 以前なら、攻略対象と王城という二つの言葉が重なっただけで、まず距離を取る方法を考えていたかもしれない。


 けれど今は、それより先に、次に会った時には何を話すことになるのだろうという考えが浮かんだ。そもそも、アレクシス自身が王城の地下にこんな機構が残っていることを知っているのかさえ分からないのだから、今の段階で彼がどんな立場からこの話を見るのかを決めつけることはできない。


 もし初めて知ることになるのなら、彼は何を思うのだろう。王城の地下に、自分たちの知らない古い道が今も残っていたことを、どんな顔で受け止めるのだろうか。


 これまで互いの進む道や立場について話した時のように、またアレクシス自身の考えを聞くことになるのかもしれない。


 そこまではまだ分からない。


 ただ、会うことそのものを避けたいとは思わなかった。


「ヴェルシアナ」


 父に呼ばれ、顔を上げる。


「はい」


「お前も来てもらう」


 少しだけ目を瞬いた。


「私も、ですか?」


「見た本人がいた方が早い」


 レオルディスはそれ以上説明せず、机の上の報告書をまとめ始める。


 ヴェルシアナも、そこで何か言い返す理由はなかった。


「承知しました」


 答えながら、もう一度地図を見る。


 地下で見つけた古い道は、王城の下まで伸びていた。


 そしてどうやら、その先を確かめるために王城へ向かうのは、今度は地図の線ではない。


 ヴェルシアナ自身らしかった。

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