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破滅したくない元男の悪役令嬢ですが、なぜか男女問わず好かれていきます ~攻略対象は男友達のつもりなのに、同性の令嬢との距離まで近すぎるようです~  作者: 0JOY
第1部 第二章 白い蕾は、淡い色を知る

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第59話 侍女は、頁の外側を見る

翌朝になっても、机の上の地図から線は消えていなかった。


 当然のことではある。


 紙に引いた線なのだから、夜が明けたからといって勝手に薄くなるはずもない。


 それでもヴェルシアナは、朝食を終えて小書斎へ入るなり、昨日三人で見つけた北へ伸びる線を確かめてしまった。


 アルセリード領の古い施設。


 グランセル領で見つかった魔力の乱れ。


 ヴァレンティス領の旧境界へ向かう配置。


 それまで一つずつ離れた点として見ていたものが、細い糸で縫い合わせられた途端、別の形を見せ始めている。


 地図というものは不思議だ。


 描かれている山も川も昨日と同じなのに、一本の線が加わっただけで、何百年も黙っていた土地が急にこちらへ何かを語りかけてくる。


「こちらが昨日の写しでございますね」


 隣からミレーヌの声がした。


「ええ。原本はお父様がお持ちですので、こちらを使います」


 机の半分には地図が広げられ、もう半分には朝から書庫より運ばれてきた古い帳簿が積まれていた。


 昨日の発見を受けて、レオルディスは施設そのものの記録だけでなく、アルセリード家に残る古い支出記録や土地管理簿まで調べることを決めた。


 理由は単純だった。


 施設が何百年もの間使われていたのなら、どこかで人が手を入れていたはずだからだ。


 建物を直せば材料が要る。


 人を送れば賃金が発生する。


 道路を使えば補修も必要になる。


 名前が歴史から消えていたとしても、何かを維持していた痕跡まで綺麗に消えるとは限らない。


「それで帳簿ですか」


「はい。ただ……」


 ヴェルシアナは目の前に積まれた三冊目の分厚い帳簿を見た。


「思っていた以上に多いですね」


「百年以上を遡るのでございますから、少ない方が不自然かと」


「正論ですね」


 ミレーヌはすでに一冊目を開いていた。


 古い数字が規則正しく並ぶ紙面を前にしても、嫌そうな顔一つしない。


 むしろ少し楽しそうにさえ見える。


「ミレーヌはこういうもの、本当に好きですよね」


「数字は、書いた方が何を考えていたとしても、ある程度は正直でございますので」


「人より?」


「そこまでは申し上げておりません」


 即答ではなかった。


 ヴェルシアナは少しだけ彼女を見たが、ミレーヌは何もなかったように頁をめくっている。


 以前なら、自分より身分の高い相手と二人きりでこんな返し方はしなかっただろう。


 だからといって、最近強くなったなどとわざわざ言葉へする必要もない。


 こうして普通に返されていること自体が、十分な答えだった。


 ヴェルシアナも一冊を引き寄せる。


「まずは、昨日の線に近い地域から見ましょう」


「承知いたしました」


 ◇


 一刻ほど経つ頃には、ヴェルシアナは帳簿というものが地図以上に人間の忍耐を試す道具なのではないかと思い始めていた。


 古い地名が現在と違う。


 文字の形も少し違う。


 さらに支出項目の名称まで時代ごとに変化しており、同じ石材を買っているはずなのに「補修石」「灰石」「外構石」と別々に記録されている。


 しかも、探している施設の名前そのものは一度も出てこない。


「ないですね」


 ヴェルシアナは頁から顔を上げた。


「ええ」


「ここまで隠す必要があったのでしょうか」


「隠していたとは限りません」


 ミレーヌは帳簿から目を離さず答えた。


「どういうことです?」


「当時の方々にとっては、わざわざ正式名称を書く必要がないほど普通のものだった可能性もございます」


 ヴェルシアナは一瞬考えた。


「例えば?」


「毎月お使いになる井戸の修理費を記録する際、毎回『アルセリード本邸東庭第一生活用井戸』とは書かれないでしょう?」


「……確かに」


「『東井戸補修』で十分です」


 ミレーヌは頁をめくる。


「大切なものほど、後世から見て分かりやすい名前で残るとは限りません。使っていた人にとって当たり前なら、むしろ短く書かれると思います」


 なるほど。


 ヴェルシアナは地図を見る時、どうしても目立つ印や特別な記号を探していた。


 けれど、日常の中へ溶け込んでいたものを探すなら、目立つ場所ばかり見ていても見つからない。


 宝物を探しているつもりで床板を剥がしていたら、実際には毎日使っていた扉そのものが答えだった、ということもあり得るのだ。


「では、施設らしい名前を探すより、同じ地域へ継続して支出されているものを見た方がよいですか?」


「わたしなら、そういたします」


 ミレーヌが顔を上げた。


「場所が消えても、お金の流れまでは急には変わりませんから」


 その言葉に、ヴェルシアナは少し笑った。


「昨日から流れの話ばかりですね」


「魔力もお金も、止めればどこかに影響が出るという意味では似ているのかもしれません」


「お父様が聞いたら喜びそうです」


「では、お嬢様からお伝えください」


「自分では言わないのですね」


「わたしが申し上げますと、帳簿が好きすぎる者の意見に聞こえますので」


 自覚はあるらしい。


 二人は見る項目を変えた。


 施設名ではなく、地域。


 単発ではなく、繰り返し。


 金額そのものより、支出が止まった時期。


 すると、それまで砂粒のように散らばっていた数字の中に、少しずつ癖が見え始めた。


 ある地域では十二年ごとに石材の購入量が増えている。


 別の地域では、春と秋だけ決まった人数の人夫が雇われている。


 どちらも、単体で見れば珍しいものではない。


 橋の修理かもしれないし、水路の整備かもしれない。


 だが昨日見つけた線の近くばかりで、それが繰り返されているとなれば話は変わる。


「こちらもです」


 ヴェルシアナが地図へ印を付けた。


「『北西水路見回り』。場所は……このあたりですね」


「昨日の線から、それほど離れておりません」


「水路なら川沿いでも不思議ではありませんけれど」


「問題はこちらです」


 ミレーヌが隣の行を指す。


 同じ年。


 同じ月。


『水路見回り 四名』


 その下。


『地下灯油 十二壺』


 ヴェルシアナの指が止まった。


「……地下?」


「水路の点検で地下へ入ること自体はあり得ます」


「ですが十二壺」


「かなり多いですね」


 さらにその翌年には『鉄具交換』『灰石搬入』。


 翌々年には『南坑口封鎖材』。


 一つずつなら、どこにでもある工事記録に見える。


 けれど同じ地域の支出を縦に追うと、地面の下にある何かを定期的に維持していた形が浮かんできた。


「これ……」


 ヴェルシアナは地図へ目を移した。


 昨日ルシアンが記憶から再現した分岐記号。


 ディルヴァンが訓練装置で見た印。


 そして、黒点を結んだ線。


 帳簿上の『北西水路』は、その線のすぐ近くを通っている。


「施設の名前を変えて記録していた?」


「あるいは、本当に水路としても使われていたのかもしれません」


 ミレーヌは慎重だった。


「施設が魔力だけを流していたと決まったわけではございませんので」


「確かに」


 決めつけてはいけない。


 温室でルシアンの言葉を信用した時もそうだった。


 信用することと、確認を省くことは別である。


「お父様へ報告しましょう」


「もう少しだけお待ちいただけますか?」


 立ち上がろうとしたヴェルシアナは、ミレーヌを見る。


「何か?」


「少し気になることがございます」


 ミレーヌは先ほどから見ていた帳簿を、数頁戻した。


 指先が一つの数字で止まる。


「この支出だけ、金額が合いません」


「合わない?」


「はい。人夫四名、地下灯油十二壺、補修用石材。これらを合計しても、記載された総支出額よりかなり少ないです」


「書き間違いでは?」


「最初はそう思いました」


 ミレーヌは別の年の帳簿を開く。


「ですが、こちらも同じです」


 さらに別の年。


「こちらも」


 三冊の帳簿に、同じ種類のずれがある。


 記載されている品目を合計した金額より、実際に支払われた総額の方が多い。


 それも、僅かな差ではない。


「何か一つ、書かれていない支出がある?」


「そう考える方が自然です」


 ヴェルシアナは眉を寄せた。


「隠し支出でしょうか」


「それも断定できません」


 ミレーヌは紙を指先で軽く押さえた。


「ただ、こちらをご覧ください」


 総支出額の横。


 古い字体で、小さな印が一つ付いている。


「文字?」


「数字ではないと思います」


「昨日の記号とは違いますね」


「はい。ただ……」


 ミレーヌは別の帳簿から、同じ印を探し出した。


 そこにもある。


 さらにもう一冊。


 三度。


 どれも同じように、帳尻の合わない支出の横へ付けられている。


 ヴェルシアナの背中に、細い冷気が走った。


 地図には線がある。


 古文書には施設の記号がある。


 そして帳簿には、数字の合わない場所へだけ残された別の印。


 まるで同じ巨大なものを、違う角度から見た影が、何百年もの紙の上へ別々に落ちているようだった。


「ミレーヌ」


「はい」


「これ、よく気づきましたね」


「最初の帳簿だけでしたら、見落としていたと思います」


 ミレーヌは三冊を順番に見た。


「同じずれが三度ございましたので」


 ヴェルシアナは自分の資料を見る。


 昨日から、ずっと線を追っていた。


 古代魔術。


 魔力の流れ。


 施設同士の接続。


 そこばかりへ意識を向けていた自分なら、この数字の不一致を見ても、単なる古い帳簿の誤差として流していたかもしれない。


 ミレーヌは違った。


 彼女は頁の中心に書かれた大きな文字ではなく、端へ寄せられた数字を見る。


 誰かが「重要だ」と記した場所ではなく、重要ではないふりをして残った違和感を拾う。


 それは昨日ルシアンが古い記号の配置を覚えていたこととも、ディルヴァンが訓練装置を分解した時の裏側を覚えていたこととも違う。


 同じ場所を見ても、人によって拾うものは違うのだ。


「お嬢様?」


 少し黙りすぎたらしい。


「いえ」


 ヴェルシアナは微笑んだ。


「ミレーヌにお願いしてよかったと思っていました」


 彼女が僅かに目を丸くする。


「帳簿を、ですか?」


「それもですが」


 ヴェルシアナは三冊の帳簿を見た。


「私なら、この印まで辿り着かなかったと思います」


「お嬢様は地図を見ていらしたので、当然かと」


「それでもです」


 誰でもできることなら、誰に任せても同じになる。


 けれど実際にはそうではない。


 オルティアにしかできなかったことがある。


 ルシアンにしか気づかなかったものがある。


 ミレーヌが見つけたものも、同じだった。


「ありがとうございます」


 素直に言う。


 ミレーヌは一瞬だけ視線を下げたあと、すぐに帳簿へ戻した。


「では、次から古い帳簿は先にわたしへお渡しください」


 返ってきたのは、遠慮でも謙遜でもなかった。


 自分が役に立てる場所を理解した人間の、静かな自信だった。


「頼もしいですね」


「数字でしたら」


「限定するのです?」


「お嬢様の魔法を止める役まで増やされますと困りますので」


「それはヴィクトル先生のお仕事です」


「では安心いたしました」


 言いながら、ミレーヌの口元も少しだけ緩んでいる。


 ◇


「この印か」


 報告を受けたレオルディスは、ミレーヌが見つけた三冊の帳簿を一つずつ確認した。


 机の反対側にはヴェルシアナとミレーヌが並んでいる。


「はい」


 答えたのはミレーヌだった。


「同じ地域への支出で、明細と総額が一致しない場合にだけ付いております。少なくとも、確認できた三件はすべて同じ形でございました」


「他地域には?」


「現在確認した範囲ではございません」


 レオルディスは何も言わず、もう一度数字を追った。


 急かさない。


 ただ、その沈黙が長いほど、ヴェルシアナにもこの発見を軽く扱っていないことが伝わった。


「よく見つけた」


 やがて父は顔を上げた。


 言葉は短かった。


 けれど、ミレーヌの背筋が僅かに伸びる。


「ありがとうございます」


「この帳簿については他年代も確認させる。印の意味を知る資料がないか、会計記録側からも探そう」


「かしこまりました」


 レオルディスは次に地図を見る。


「場所は?」


 ヴェルシアナが昨日引いた線の近くへ指を置いた。


「このあたりです。『北西水路』という名称ですが、地下灯油や坑口の補修記録もございます」


「現在は?」


「地図上では、目立った施設はございません」


 父の指が、現在の地図を北へ滑る。


「旧道が一本ある」


「旧道?」


「今はほとんど使われていない。北方の物流路が東へ移る前の道だ」


 ヴェルシアナが覗き込む。


 確かに、細い線が山沿いへ続いている。


「どこまで?」


「旧ヴァレンティス境界監視所の近くまでだ」


 空気が変わった。


 ヴェルシアナは昨日の古地図を思い出す。


 黒点を結んだ線の先。


 ヴァレンティス領の旧境界。


「繋がりますね」


「可能性はある」


 レオルディスは断定しなかった。


 ただ、目はすでに次の手順を考えている。


「ヴァレンティス公へ連絡する。旧監視所周辺の土地記録を照合したい」


「現地へ行くのですか?」


 ヴェルシアナが尋ねると、父の視線がこちらへ向いた。


 ほんの一瞬で嫌な予感がした。


「大人が先に確認する」


「……やはり」


「何だ」


「いいえ。非常にお父様らしいと思いまして」


「六歳の娘を、用途不明の地下施設があるかもしれない場所へ先に送る父親にはなるつもりはない」


「何も申し上げておりません」


「顔に書いてある」


 ヴェルシアナは反論しかけてやめた。


 最近、父の方がこちらの考えを読むのが上手くなっている気がする。


「必要があれば、確認後に見せる」


 レオルディスは資料を閉じながら付け加えた。


「お前たちが見つけたものだ。結果まで隠すつもりはない」


 その言葉だけで、十分だった。


「分かりました」


 今回は素直に頷いた。


 自分が行かなくても調査は進む。


 むしろ自分が行かない方が適切な場面もある。


 それを頭で理解するだけではなく、少しずつ実際の選択として受け入れられるようになってきたことに、ヴェルシアナ自身は気づかなかった。


 けれど隣のミレーヌは、何も言わずに見ていた。


 ◇


 小書斎へ戻る途中。


「そういえば」


 廊下を歩いていたミレーヌが、不意に口を開いた。


「何でしょう」


「昨日のルシアン様のお召し物、とてもお似合いでしたね」


 ヴェルシアナは足を止めかけた。


 急にそこへ戻るとは思わなかった。


「ええ。可愛らしかったですね」


「お嬢様は、随分お気に召したようでした」


「お気に召したというほどでは」


 言いかけて、昨日の自分を思い返す。


 入室した瞬間に見つめた。


 可愛いと言った。


 木箱が通った時には反射的に手首を引いた。


 刺繍を見るためにかなり近づいた。


 さらに、女性らしい服装でも嫌ではないどころか、似合えばよいとまで言った。


 ……客観的に並べると、結構やっているな。


「似合っていたのですから、仕方がないでしょう」


 結局そう答えた。


「はい」


 ミレーヌは否定しなかった。


 ただ、その声には何か含まれている。


「何です?」


「何も申し上げておりません」


「何か思っていますよね?」


「昨日申し上げました通り、お二人で並ばれると絵になると思っております」


「それは色合いの話では?」


「それだけとは申し上げておりません」


 ヴェルシアナはミレーヌを見る。


 彼女は前を向いたまま歩いている。


「……ずいぶん言うようになりましたね」


「帳簿だけを見ていても、分からないことはございますので」


「先ほど数字は正直だと仰っていませんでした?」


「人も、見ていれば分かることがございます」


 どうやら、この話では勝てそうにない。


 ヴェルシアナは小さく息を吐き、再び歩き出した。


 昨日のルシアンを思い出す。


 可愛かった。


 それは否定しない。


 正直、あそこまで少女のように見えるとは思っていなかったし、そのせいで前世の俺の妙な反射まで引きずり出された。


 ただ、だからといって攻略対象である事実が消えるわけではない。


 ――いや。


 そう考えている時点で、少し前とは違うのかもしれない。


 以前なら、そこで思考を止めていた。


 攻略対象だから近づかない。


 それで終わらせようとしていた。


 けれど、ルシアンが何を見て、何を覚え、何を選ぶ人間なのかを知ってしまえば、ゲームの中で付けられていた肩書きだけでは目の前の本人を覆いきれなくなる。


 近づけば、遠くからは見えなかったものが見える。


 昨日ルシアンの袖口に隠れていた、小さな花のように。


「お嬢様」


「はい?」


「また考え込んでいらっしゃいます」


 ミレーヌに呼ばれ、ヴェルシアナは顔を上げた。


「今日は反応しましたね」


「成長しました」


「それは何よりでございます」


 二人は並んで廊下を進む。


 その途中、使用人が一通の封書を持ってこちらへ歩いてきた。


「お嬢様。ヴァレンティス辺境公爵家より、お手紙が届いております」


 ヴェルシアナとミレーヌが同時に足を止める。


「ヴァレンティス家から?」


「はい」


 受け取った封筒には、辺境公爵夫人の印が押されていた。


 父が先ほど連絡すると言ったにしては早すぎる。


 つまり調査の件ではない。


 ヴェルシアナが封筒を見つめている横で、ミレーヌがほんの僅かに目を細めた。


「何でしょうね」


「開けてみないと分かりません」


「そうでございますね」


 その返事のわりに、なぜか少し楽しそうだった。


「ミレーヌ?」


「何も申し上げておりません」


 今日二度目だった。


 ヴェルシアナは少し警戒しながら封を切る。


 中に入っていたのは、ヴァレンティス辺境公爵夫人からの茶会の誘いだった。


 旧境界の記録について両家で確認したいことがあり、その間、子供たちも一緒に過ごしてはどうかという内容である。


 そこまでは普通だった。


 問題は、その最後だった。


『ルシアンが最近、装いを選ぶことを楽しむようになりました。もしよろしければ、ヴェルシアナ様にも一度見ていただければ、あの子も喜ぶと思います』


 ヴェルシアナは、しばらくその一文を見つめた。


 隣からミレーヌが覗き込むことはしない。


 ただ、こちらが読み終わるのを静かに待っている。


「……ミレーヌ」


「はい」


「なぜ笑っているのです?」


「笑っておりません」


 そう言いながら、口元は確かに緩んでいた。


 ヴェルシアナは手紙をもう一度見る。


 ルシアンが次に何を選ぶのか。


 昨日の時点で、少し気になっていたことは否定できない。


 袖口に隠れていた花は、近づかなければ見えなかった。


 けれど次に彼が選ぶものは。


 もう少し遠くからでも、見つけられるものなのかもしれなかった。

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