⭐︎第47話 オルティア侯爵令嬢
グランセル侯爵領を発つ日の朝は、事件の前とはまるで違う顔をしていた。
森の向こうにはまだ調査用の旗が立ち、遠くでは騎士たちが交代で警戒を続けている。それでも、空は昨日までの重苦しい灰色を脱ぎ捨てるように澄み始め、雲の切れ間から落ちた朝日が、濡れた芝生の上に細かな光を散らしていた。
雨のあとに残った水滴が、葉先でいくつも揺れている。
ほんの少し前まで魔獣の咆哮と警鐘に満ちていた場所だとは、知らなければ思わないだろう。
けれど、人の記憶は景色ほど簡単には元へ戻らない。
別邸の前庭には、俺が想像していたよりずっと多くの人が集まっていた。
「……こんなにいらっしゃるとは聞いていませんでした」
隣に立つオルティアが、口元だけをほとんど動かさずに言った。
「私もです」
「お父様、絶対にご存じでしたよね」
「たぶん」
「教えてくださればよかったのに」
いつもならもう少し堂々としている彼女が、扇の柄を両手で持っている。
握り締めているほどではない。
ただ、指先だけが落ち着かなさそうに場所を変えていた。
昨日、人前で古道について説明した時とは違う緊張なのだろう。
あの時は、自分の話す内容が最初から決まっていた。
今日は違う。
何を言われるのか分からない。
誰が自分をどう見ているのかも、もう以前とは少し違ってしまった。
それはたぶん、嬉しい変化であるほど怖い。
「逃げます?」
俺が小さく尋ねると、オルティアが勢いよくこちらを向いた。
「逃げません!」
「なら大丈夫そうですね」
「確認の仕方がおかしいです」
「元気は出ました」
「アルセリード様は時々、本当に……」
最後までは言わなかった。
代わりに、小さく息を吐く。
けれど、その直後だった。
「アルセリード嬢」
調査隊に参加していた術師の一人が、こちらへ歩いてきた。
昨日は魔力酔いで自力歩行も難しかった人物だ。
今は顔色もかなり戻っている。
「昨日は誠にありがとうございました。補助施設が再起動しなければ、祠周辺の魔力濃度はさらに上昇していたものと思われます」
「こちらこそ、ご無事で何よりです」
「それはこちらの台詞でございます」
術師は少し困ったように笑った。
「六歳のお嬢様へ、成人術師数名分に相当する魔力供給をお願いすることになるとは思っておりませんでした」
「私もです」
「次からは、もう少し我々をお頼りくださいませ」
「……はい」
これは素直に聞く。
昨日の俺は、結果的に無事だっただけだ。
できたから正しかった、とは限らない。
「グランセル嬢にも、お礼を申し上げたく」
術師の視線がオルティアへ移る。
彼女の背筋が、ほんの少しだけ伸びた。
「設備の起動順を読み解いていただけなければ、我々は逆の順序を試していた可能性がございます。結果として、魔力の逃げ道を先に確保できたことは非常に大きかったかと」
昨日なら。
オルティアはたぶん、すぐに「わたくしだけではありません」と返していた。
けれど今日は違った。
灰色の瞳が一度だけ揺れ、それでも視線を逸らさずに術師を見る。
「……ありがとうございます」
きちんと受け取った。
そのあとで、
「今後、古い図案については整理することになりました。同じ形式の記録が残っていれば、次はもっと早く気づけると思います」
と続ける。
俺は何も言わなかった。
ただ、少し嬉しくなった。
昨日まで彼女の中で鋭く尖っていた「負けたくない」という気持ちが、消えたわけではない。
むしろ、その刃先が少しだけ別の方向を向き始めたのだろう。
誰かより上へ立つためではなく。
次に役立つために。
「心強い限りです」
術師が頭を下げる。
オルティアも返礼した。
彼が離れていったあと、俺は小さく言った。
「上手でしたね」
「……何がです?」
「受け取るの」
途端に、オルティアの頬が少し赤くなる。
「見ていたんですか」
「隣にいましたから」
「見なくてもいいところまで見ますね」
「褒めたのに」
「それが恥ずかしいんです」
「難しいですね」
「アルセリード様には一生分からないと思います」
「そんなに?」
「そんなにです」
言いながらも、少し笑っていた。
◇
見送りの人々が少しずつ入れ替わる中、一人の少女がこちらへ近づいてきた。
十代後半くらいだろうか。
着ている服は質素だが、丁寧に手入れされている。両手には、小さな布包みを抱えていた。
「グランセル様」
声が震えている。
オルティアがそちらを向く。
「はい」
「昨日、母と一緒に避難させていただいた者です。その……これを」
少女が差し出した包みには、素朴な花の刺繍が施されていた。
「大したものではありません。でも、母がどうしてもお礼をしたいと……私も」
そこまで言うと、自信をなくしたように視線が落ちる。
「ご迷惑でしたら、申し訳ございません」
「迷惑ではありません」
オルティアはすぐ否定した。
ただ。
その次が出てこない。
俺には理由が何となく分かった。
彼女はもう「自分は何もしていない」とは思っていない。
けれど、自分だけが贈り物を受け取ることには、まだ少し戸惑うのだろう。
騎士もいた。
術師もいた。
父親も、使用人も、俺たちもいた。
その中で自分だけが「ありがとう」を形にして渡されると、急に足場が細くなる。
周囲の視線も集まり始めていた。
少女の顔には、渡す相手を間違えたかもしれないという不安が浮かぶ。
俺が代わりに何か言えば、簡単に収まる。
でも。
それはたぶん、オルティアが欲しい助け方じゃない。
俺は彼女の正面ではなく、横へ一歩移動した。
ほんの少しだけ近くへ。
「続きを聞かせてください」
俺は少女ではなく、オルティアへ言った。
「……わたくしに?」
「はい」
彼女がこちらを見る。
迷っていた灰色の瞳が、ほんの少しだけ落ち着く。
俺はそれ以上何も言わなかった。
代わりに話すつもりはない。
答えを教えるつもりもない。
ただ、続きを待つ。
オルティアは一度だけ深く息を吸った。
そして少女へ向き直る。
「迷惑ではありません」
今度の声は、さっきより柔らかかった。
「ただ、昨日のことは本当に多くの方のお力で解決したものですから、わたくしだけが受け取ってよいのか少し迷ってしまいました」
少女が顔を上げる。
「でも」
オルティアは布包みを見る。
「あなたとお母様が、わたくしへ渡したいと思ってくださったのなら、そのお気持ちまで返す方が失礼ですね」
両手を差し出す。
「ありがたく頂戴いたします」
少女の顔に、ぱっと光が差した。
「ありがとうございます!」
包みが渡される。
オルティアが布を開くと、中から一枚の小さなハンカチが現れた。
端に淡い紫の花が刺されている。
「……綺麗」
声が少し変わった。
完全に刺繍を見る人の顔になっている。
「この花、花びらだけ少し糸を重ねていますね」
「分かるんですか?」
「ええ。光が当たった時に濃淡が出るようにされたのでしょう?」
「母が教えてくれました」
「素敵です」
少女は、さっきまでの緊張が嘘のように笑った。
「グランセル様は、刺繍がお得意だと伺っていたので」
その言葉に。
オルティアは一瞬だけ止まった。
それから。
「はい」
胸元へ大切そうにハンカチを抱えながら、少し誇らしげに笑う。
「得意です」
以前と同じ言葉だった。
けれど、響きはもう同じではなかった。
誰かに勝つための言葉ではなく、自分の中にあるものを自分で認めるための言葉。
俺はその変化を、妙に綺麗だと思った。
◇
「ありがとうございます」
少女が去ったあと、オルティアが突然言った。
「何がです?」
「さっき」
「私は何もしていませんよ」
「またそれですか」
少しだけ頬を膨らませる。
「『続きを聞かせてください』と言ったでしょう」
「あれだけです」
「それがよかったんです」
俺は首を傾げる。
「前に出て代わりに話すより?」
「そんなことされたら、あとで怒ります」
「怖いですね」
「当然です」
即答だった。
「でも」
オルティアは手元のハンカチを見つめる。
「何も言わずに離れていかれるのも、たぶん嫌でした」
「……注文が難しいですね」
「そうですね」
本人も認めるらしい。
それから、少しだけ笑った。
「でも、アルセリード様は分かってくださったでしょう」
「たまたまです」
「そうやってすぐ逃げます」
「逃げていません」
「では、どうして?」
問われて少し考える。
「オルティア様なら、自分で言えると思ったからです」
彼女の歩みが止まった。
「……それだけ?」
「はい」
「本当に?」
「他に何かあります?」
オルティアはしばらく俺を見ていた。
その頬が、ゆっくり赤くなる。
「……ずるい」
「またですか」
「はい」
「今日は理由を教えてください」
「絶対に嫌です」
「なぜ」
「自分で考えてください!」
怒られた。
難しい。
◇
やがて、馬車の準備が整った。
前庭を荷車や馬が行き交い、使用人たちが最後の荷物を運び込んでいる。
アレクシスとディルヴァンは少し離れたところでグランセル侯爵と話していた。
ミレーヌも馬車の中を確認している。
俺とオルティアは、その手前で立ち止まった。
「次は王都ですね」
「はい」
「刺繍会、忘れないでください」
「忘れません」
「本当に?」
「たぶん」
「アルセリード様」
「冗談です」
彼女が呆れたように息を吐く。
でも、すぐ笑った。
「次はもう少し難しい図案にします」
「まだ上げるんですか」
「昨日、わたくしが役に立ったところを見たでしょう」
「それと私の刺繍難易度に何の関係が?」
「信用の問題です」
「使い方が違いません?」
「知りません」
強い。
こういうところは全然変わらない。
むしろ変わらなくていいと思う。
その時、後ろから馬の蹄が石畳を叩く音が近づいてきた。
荷物を積んだ馬車が、こちらの横を通るらしい。
十分に距離はある。
危険というほどではない。
それでも、昨日から何度も馬や魔獣の音に反応していたせいか、オルティアの肩がほんのわずかに強張った。
考えるより先に身体が動いた。
「こちらへ」
俺は彼女の手を取り、そのまま自分の側へ引き寄せる。
同時に一歩だけ位置を入れ替えた。
俺が道側。
オルティアが屋敷側。
それだけだった。
馬車は少し離れた場所を通り過ぎていく。
石畳を叩く蹄の音も、車輪の軋みも、すぐに遠ざかる。
「もう大丈夫です」
俺は手を離そうとした。
離れなかった。
「……オルティア様?」
返事がない。
顔を見る。
固まっていた。
さっきまで普通に話していたのに、頬から耳まで綺麗に赤くなっている。
「どうしました?」
「…………」
「怖かったです?」
「違います」
ものすごく小さい声だった。
「では、具合が?」
「それも違います」
「顔が赤いですよ」
「言わないでください!」
今度は大きかった。
周囲の使用人が何人かこちらを見る。
「すみません」
「謝らないでください。余計恥ずかしいです!」
俺にはもう何が正解なのか分からない。
オルティアは片手で頬を押さえた。
けれど。
俺のもう片方の手は、まだ離していない。
「……手」
俺が言うと。
彼女は一瞬びくっとした。
「離します?」
「…………」
なぜかもっと赤くなる。
視線が俺の手へ落ち、それから横へ逃げる。
「オルティア様?」
「……離さなくて」
「はい?」
「離さなくて、結構です」
聞こえた。
たぶん。
「でも、もう馬車は」
「分かっています!」
また怒られた。
「では、どうして?」
「それを今聞くんですか!?」
「分からないので」
「分からなくていいです!」
またそれだ。
最近多い。
彼女は顔を逸らしたまま、俺の手だけはきちんと握っている。
指先は少し冷たいのに、手のひらだけ妙に熱かった。
少し離れた場所から視線を感じる。
見ると、ミレーヌがこちらを見ていた。
目が合った瞬間、彼女は静かに視線を逸らす。
その肩が少し揺れている。
笑っている?
「ミレーヌ?」
「何でもございません」
「絶対何かありますよね」
「ございません」
嘘だ。
「何の話?」
今度はディルヴァンまで来た。
「オルティア、顔赤いけど暑い?」
「あなたは黙っていてください!」
「え、なんで?」
「いいから!」
突然怒鳴られたディルヴァンが、完全に理解できていない顔でこちらを見る。
「俺、何かした?」
「何もしていません」
「じゃあなんで怒られた?」
「知りません」
「お前も分かってないの?」
「はい」
「じゃあ同じじゃん」
仲間ができた。
少し安心する。
「二人とも、本当に……」
オルティアが何かを堪えるように俯く。
「どうしました?」
「お願いですから」
肩が震えている。
「少しだけ、黙っていてください……」
今度は怒っているというより。
恥ずかしさに耐えられなくなっているようだった。
「分かりました」
俺が素直に黙ると、なぜかさらに顔が赤くなった。
もう何をしても駄目らしい。
◇
しばらくして、ディルヴァンはアレクシスに連れていかれた。
ミレーヌも「最終確認をしてまいります」と、妙に気を利かせるように離れていった。
なぜか俺とオルティアだけが残る。
まだ手は繋がったままだった。
「オルティア様」
「……何です?」
「もうそろそろ馬車へ乗らないと」
「分かっています」
「では」
今度こそ手を離そうとした。
指が緩む。
その瞬間。
オルティアの方から、ほんの少しだけ握り直された。
俺が見る。
彼女も自分が何をしたのか気づいたらしい。
「……っ」
顔がさらに赤くなる。
「今」
「何もしていません!」
「でも」
「していません!」
無理がある。
ただ、ここまで必死に否定されると、追及するのも可哀想になってきた。
「では、何もしていないことにします」
「……そうしてください」
小さな声。
それから少し間が空いた。
「アルセリード様」
「はい」
「昨日」
オルティアは手を繋いだまま、前庭の方を見ていた。
「わたくし、自分にしかできないことがあったのが嬉しいと申し上げましたよね」
「はい」
「今日、少しだけ分かったことがあります」
「何でしょう」
「誰かに頼られるのも嬉しいですけれど」
彼女の指先が、俺の手の中で少し動く。
「自分で立とうとしている時に、隣にいてもらえるのも……思っていたより嬉しいものなんですね」
さっきまでとは違う声だった。
照れてはいる。
でも、誤魔化していない。
俺は少し考える。
「それなら」
「はい」
「次も隣にいますよ」
オルティアがこちらを見る。
「必要なら」
その瞬間。
彼女の瞳が大きく開いた。
言ってから、何かおかしかったかと思う。
「オルティア様?」
「……そういうところです」
「何が?」
「本当に、そういうところです!」
また怒られた。
ただ。
今度の顔は、困っているのに笑っていた。
頬は赤い。
目元も少しだけ潤んでいる。
それでも、嬉しいのを隠しきれないような笑い方だった。
「忘れないでくださいね」
「何を?」
「今言ったことです」
「隣にいる?」
「はい」
「必要なら、ですよ」
「分かっています」
彼女は一度だけ視線を落とした。
「……必要だと言ったら?」
「もちろん」
何を確認しているのだろう。
友達なら普通のことだと思う。
「オルティア様が困っているなら、行きますよ」
また固まった。
そして。
「……もう」
俺の手を握っていた指が、少しだけ強くなる。
「今日は、これ以上何も言わないでください」
「なぜです?」
「心臓がもちません」
「え?」
「何でもありません!」
聞こえた気がする。
でも本人が何でもないと言うなら、たぶん何でもないのだろう。
◇
やがて本当に出発の時間が来た。
今度こそ手を離す。
オルティアの指が名残を惜しむようにゆっくり離れていき、最後に指先だけが触れ合って、それから完全に離れた。
ほんの数秒のことなのに。
彼女はその手をすぐ胸元へ引き寄せた。
「では、また」
俺が言う。
「はい」
「次は王都で」
「……はい」
「刺繍会」
「覚えています」
「よかった」
「アルセリード様こそ、忘れないでください」
「忘れませんよ」
オルティアは少し黙る。
それから、勇気を出すように顔を上げた。
「刺繍会だけではなく」
「はい?」
「その……」
言葉が続かない。
さっきまで人前で説明していた人とは思えないほど、分かりやすく困っている。
「また、お話もしてください」
「もちろんです」
「お茶も」
「はい」
「それと……」
「まだあります?」
「あります!」
少し怒られた。
「散歩も」
「いいですよ」
オルティアはそこで一度唇を結び、最後の言葉だけは少し小さくした。
「……わたくしが、何も困っていなくても」
俺は一瞬だけ考えた。
困っていなくても?
なるほど。
「普通に会えばいいでしょう」
「……」
「友達なんですから」
オルティアの顔が完全に止まった。
数秒遅れて、耳まで真っ赤になる。
「……はい」
それだけ答えるのが精一杯らしい。
俺は馬車へ乗り込む。
窓際に座り、外を見ると、オルティアはまだ同じ場所に立っていた。
手を振る。
彼女もすぐに振り返した。
馬車がゆっくり動き始める。
前庭が遠ざかる。
オルティアの姿も少しずつ小さくなる。
それでも彼女は、最後まで手を振っていた。
◇
馬車が門を抜けたあと。
オルティアはようやく手を下ろした。
もうヴェルシアナからは見えない。
そう分かった瞬間、ずっと保っていたものが一気に崩れた。
「…………っ」
両手で顔を覆う。
熱い。
頬も、耳も。
何より、自分でもうるさいと思うほど心臓が鳴っている。
ただ隣に立ってくれただけだった。
代わりに話してくれたわけでもない。
功績を譲ってくれたわけでもない。
馬車が近づいた時だって、きっと本人にとっては何でもないことだった。
何でもない顔で手を取り。
何でもないように自分を安全な側へ入れ。
何でもないように言った。
必要なら、次も隣にいる。
「……ずるい」
指の隙間から、掠れた声が漏れる。
あれで本人は何も分かっていない。
しかも。
最後には。
友達なんですから。
「……友達」
口にしただけで、また熱くなる。
嬉しい。
なのに。
それだけでは少し足りないような気がしてしまった自分に気づいて、オルティアはますます顔を覆った。
「オルティアお嬢様」
後ろから使用人に呼ばれる。
「……何です」
「お顔が赤いようですが」
「暑いだけです」
「今朝は涼しゅうございますが」
「暑いんです!」
「かしこまりました」
絶対に分かっている。
その証拠に、声が少し笑っている。
「……誰にも言わないでください」
「何をでございますか?」
「それもずるいです!」
使用人が今度こそ笑った。
オルティアは恥ずかしさに耐えきれず、もう一度遠ざかっていった門を見る。
馬車はとっくに見えない。
それでも。
握っていた手の温度だけは、まだ掌に残っている気がした。
刺繍なら。
糸がどこから始まり、どこへ向かうのかを追えばいい。
けれど、自分の胸の中に突然できたこの模様だけは、どこが始まりなのか少しも分からない。
分からないのに。
ほどいてしまいたいとは、もう思えなかった。




