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身代わりのあなたに花束を  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!


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8.見えてきたもの、見えざるもの


「はめられたのだと思うわ。チェルシーが策略したか、二人の共謀なのか、第三者の介入があったのか」


 伯母がそこまで言って、私は自分の血の気が引いていくのが分かった。


「まさか、モニカ様が……?」

「それは分からないわ。もしそうだとしても証拠が無いからどうしようもできないけれど」


 だから伯母はモニカ様が来れないここに来る事を選んだの……?

 伯母の話を全て鵜呑みにするわけではないが、そう考えるとしっくりくる。


「どうして……? お母様たちは何故……」


 身代わりに嫁いだけれど、二人は徐々に愛し合うようになったのだと思っていた。

 だがそうではなく、最初から……伯母と婚約していた時から愛し合っていたのだとしたら、二人は不貞を隠して真実の愛にすり替えただけなのだと理解する。

 それだけではない。

 何の瑕疵も無い伯母を共謀して排除した。

 誘拐させ、娼館に売るという暴挙をもって。


 両親を信じたい。だが、散々聞かされた愛の物語の裏側を知り、おぞましい生き物に思えてくる。


「私が邪魔なら、言ってくれたら潔く身を引いたわ。婚約解消も喜んでした。チェルシーに譲ってよかったのに。……それがこれよ。本当、いやになるわ」


 先程までの笑顔は消え、自嘲するような笑みに変わる。

 伯母が今までされてきた事を考えれば、両親を恨んでも不思議ではない。


「父や母が……すみません。私も……知らなくて」


 恥ずかしくなって消えたい衝動にかられる。

 自分の両親が誰かを陥れて、自分たちは被害者と言わんばかりに周りに言い触らし、いない人だからと本当に被害を受けた人を悪しざまに言っていたなどと思いたくなかった。


「顔を上げなさい」


 伯母の言葉に弾かれたように顔を上げる。

 真顔のような、それでいて慈愛がこもったような、そんな表情だった。


「あなたが悪いわけではないわ。それに、私が嘘を言っているとは思わないの?」

「……! 嘘……なのですか?」

「嘘ではないわ。私から見た真実よ。でも、あなたすぐ信じて流されるような気がしたの。これからあのバカ令息と結婚するにしても、いいように言いくるめられて裏で愛人作られても気づかなそう」

「それは……」


 確かに伯母の言う通りかもしれない。

 両親の話を繰り返し聞かされて伯母の酷さを非難していたのに、伯母の話を聞いて今度は両親の話を非難している。


「セリーナ。冷静に物事を俯瞰して見るのよ。真実をあなたの目で見極めるの。……私は当時、自分の身に起きた事が誰が仕組んだのか知りたいの。それを暴く事によって、公爵家に影響があるかもしれないわ」

「だから私を養女に……?」

「それもあるけれど、単純に、……私と似ているから、放っておけないのよ。養女になればあなたが望めば婚約解消してあげられる」


 婚約解消……私はどうしたいだろう。どうすればいいだろう。


「考えさせてください……」


 今すぐ答えは出ない。やっぱりどこかで両親を信じたい私がいる。

 伯母の言う通りだ。

 フラフラして、流されてばかりの自分に少しだけ嫌悪感が芽生えた。



「養女の話、考えてみてもいいと思うわ」


 離れからの帰りに、祖母からも言われた。

 祖母から見ても、私はいらない子なのだろうか。

 押し黙っていると、そのまま続ける。


「正直、セシリアはあなたの両親よりもあなたの幸せを考える人よ。ちゃんとあなたを見てくれる」

「でも……」

「それに、アークライト公爵家は将来……」


 祖母を見ると、どこか遠くを見ているような目をしていた。

 何となく話し掛け辛く、そのまま口を閉じる。


「ゆっくり考えてみて。養女になっても、私はあなたの味方よ」


 祖母の言葉に小さく頷く。

 帰りに四阿を見たけれど、二人はいなくなっていて少しホッとした。



 その後、伯母の言う通り冷静に両親を見てみる事にした。


「セドリック、今日の勉強はどうだったか? ちゃんとやっているか?」

「はい。きちんと先生のおっしゃる通りにしています」

「ねえお母様、今度のお茶会に着ていくドレスが欲しいわ。ピンクのうんと可愛いのがいいな」

「そうねぇ。最近流行りのレースをふんだんに使って仕立てましょうか。クリスタル・リトスも散りばめて」

「スピネルダイヤがいいわ。ルビーレッドも捨て難いわよね」


 相変わらず父はセドリックだけを気に掛け、母はシェリーばかりと話す。

 私の存在はどこにも無いみたいだ。


「セリーナ、どうかしら」

「……そうですね。……意外でもなんでもなかったのかもしれません」


 祖母に問われ、視界が開けるようだった。

 改めて見てみれば、後継者にしか興味が無い父。

 娘と着飾る事しか興味が無い母。

 二人の関係はどこか冷めているようにも感じて、今までどうして盲目的に理想の夫婦と思えていたのか不思議だった。

 そして、そんな両親の間に生まれて幸せだった、なんて思っていた自分が恥ずかしくなった。


 食事が済み、私は父の元へ向かう。

 ローランド様とシェリーの件を伝え、将来的な希望を話すためだ。


 扉を叩くと、室内から声がした。

 開いて中に入ると、見慣れない景色が拡がる。

 おそらく私はこの部屋に入るのは初めてだ。


「どうした? セリーナが来るなんて珍しいな」

「お話があって参りました。お時間よろしいでしょうか?」


 相変わらず優しい表情をしている。

 だが、よく見るとその目には何も映していないようにも見える。


「話って何だい?」

「ローランド様と、シェリーの件です」


 父の瞳がすぅ、と細くなる。


「先日、婚約者の交流会の際、シェリーが割り込んで来まして、……結局、禄に交流もできないままでした」

「……それで?」

「二人は仲もいいですし、二人が望めば婚約者を交代してもいいと考えています」


 父は机の上で手を組み、顎を乗せた。

 その表情は抜け落ち、一瞬背中に汗が伝う。


「セリーナはそれでいいのかい? きみはローランドを愛しているのだろう?」


 ……え?


「シェリーとローランドは確かに仲がいいかもしれない。それは義理の家族になるからね。悪いよりもいい方がいいだろう? だからってやましい気持ちなんか無いと思うよ。ましてや、婚約者交代なんて、望んでいなかった」

「お父様……?」

「だめだよセリーナ、我儘を言っては。きみの婚約者はローランドだ。交代なんて馬鹿な事を言うんじゃない」


 父の異様な雰囲気に、生唾を呑み込んだ。

 婚約者交代なんて望んで『いなかった』とはどういう事?

 それにこれは我儘ではないはずだ。

 将来的な事を考えての相談なのに……


「セリーナの婚約者はローランドだ。シェリーには別の相応しい相手を探している。分かったら下がりなさい」

「お父様……」


 結局取り付く島もないまま、父の部屋をあとにした。


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