60.その後の事
裁判は、無事? 閉廷した。
処分が下されたのは、国王陛下夫妻、モニカ殿下、王太子殿下、生みの母。
王妃殿下の罪はモニカ殿下を国王陛下の子として偽っていた事。血筋が王家のものではないと知っていてハルヴィアへ嫁がせた事。これは国王陛下も同罪だ。
和平のための婚姻だったため、ハルヴィアを騙していたとして国王陛下夫妻へ苦言が呈された。
「私が望むのは、この国が属国になる事。どうにも頭のおかしな連中が治めていたのではいつまた戦争になるか分からないからね。とはいえ穏便に済ませたい。属国になれば我が国も口出しできるし、両者にとっていい事だらけだよね」
笑顔で脅すヘンリー殿下の提案を拒絶できるわけもなく、我が国はハルヴィアの属国になる事が決定した。
ただ、ヘンリー殿下がお気に入りの魔術師とラファエル殿下がいるため、自治を認められた。
国王陛下は後処理が終えると退陣し、私財は没収。王家の血を引いていないモニカ元殿下を養育してきた費用として補填される。
退陣したあと国王陛下と王妃殿下は別々の場所で幽閉される。
後続はひとまずラファエル殿下が引き継ぐ。
監視役として、なんとフィリス様がラファエル殿下と結婚する事になった。
ラファエル殿下は母を思っていたけれど、さすがに父との仲を見せつけられて断腸の思いで諦めたらしい。
早速前向きにフィリス様と交流を始めているそうなので、誠実な殿下ならばきっとフィリス様と手を取り合い国を導いてくれるだろう。
ラファエル殿下は中継ぎの国王で、王太子にはディーン王子がなる予定だ。
二人の王子は母親の味方で、父親の不貞に気付いていて嫌悪していたので、反面教師として頑張っているらしい。
王妃殿下は祖母に送ったお茶が原因で間接的にアークライト前公爵殺害の罪も問われた。
「知らないわ! 私はアデラインに贈ったのよ! それを飲むなんて想定していないわ!」
相変わらず引き際も弁えず怒鳴り散らしていたらしい。
ちなみに祖母は知らずに祖父にお茶を飲ませていたそうだ。
子を作るほど愛する女性からの贈り物だから、きっと喜ぶと思って飲ませていたのだとか。
ちなみにそのお茶からは毒物が検出された。
それを知った祖母は、自分が飲ませたお茶のせいで、と落ち込んでしまったが、元々は王妃殿下が送ってきたのだ。
それに毒が入っているなんて知らなくて当然だ。
祖母は無罪、王妃殿下は生涯幽閉となってしまった。
ちなみに待遇はいいそうだが、ヘンリー殿下の話では、日に日に痩せているらしい。
「食べられないというか、食事に毒が盛られているって食べないんだよね。何も入れてないのにね」
その理由は、王妃殿下の侍女が原因という。ある日、侍女はいつものように王妃殿下にお茶を淹れたらしい。
「これ、美味しいわね。どのお茶かしら」
「アークライト公爵夫人アデライン様からいただいた特製のお茶でございます。なんでも昔、王妃殿下から贈られたそうですよ」
「なん、ですって……?」
「あなたに恨みは無いのですが、あなたの娘が私の可愛い妹分を随分と甚振ってくれたそうですね」
そう、耳元で囁かれたそう。
その侍女は表向きは国王陛下の愛妾で動いていた女性だった。
それから王妃殿下は食事がままならないらしく、このまま衰弱死してしまうのでは、と言われている。
種明かしをすれば、侍女が淹れたお茶は無毒だ。
祖母がそんなお茶を送り返すはずないものね。
でも、自分が送ったお茶が返ってきて自分が飲んだと思って精神的にダメージを受けるくらいなら普通のお茶を送ればよかったのにね。
「シンシア姐様……」
王妃殿下の侍女は、どうやら母の知り合いらしい。
母が最初に働いていた娼館が摘発されたのは冤罪だった。これもモニカ元殿下の差し金だとか。
侍女は原因を探るため国王陛下を利用していたらしい。
ちなみにシンシア様はヘンリー殿下がお気に召したそうで、ハルヴィアへ連れて帰るのだとか。
ヘンリー殿下は離婚歴もあるし、いい年だし、再婚ならば純潔も関係無いので今後どうなるかは分からない。
母曰く、元一番の売れっ子だったそうだから教養もあるしいい関係になれるのでは、とニコニコしていた。
モニカ元殿下のような多情ではないが元娼婦なので、また手玉に取られそうな予感はしている。
そんなモニカ元殿下は、表向きは修道院へ送られる事になった。
だが、母の希望で最後の餞に、と母が歩んだ人生を体験してもらうべく手配したらしい。
「結婚はもうできないだろうから、王女であった幸せな人生から修道院に送られると見せかけて途中でゴロツキに襲わせるの。あ、ちゃんと眠くなる飴もあげたわよ? ちなみにね、私を襲った彼ら生きてたんですって! モニカを場末の娼館に送ったら、きっと逃げるかしらね」
嬉しそうに笑う母は、怒らせたら怖いタイプだ。
絶対に怒らせないようにしよう、と固く誓った。
でも……
「モニカ元殿下は男好きなら、ご褒美になりませんか?」
「どうかしらね。今まで王女だったから誰も手を出せなかったけれど、相当な恨みを買っているはずよ。娼館に辿り着いても無事でいられるかしら。そもそも辿り着けるかどうか……」
憂いを帯びたように首を傾げる母は、無事娼館に入れても、若くもないのに未経験だから下っ端からだし、今まで傅かれていた立場から使われる立場になるのだから、相当な屈辱だろう、とも言っていた。
「娼婦って飽きさせない努力をしないとお客様の指名が入らないし続かないのよ。モニカ程度じゃ無理ね」
最初は物珍しさに寄って来るだろうが、年齢も鑑みるとリピート率は低いだろうとの事だった。
「でも、祖父の血を引いているのですから、子どもでもできたら厄介ですね」
「そうねぇ」
母はチラリと祖母を見る。
「セリーナには真実を教えておくわね。王妃殿下の近衛は、みな、金髪碧眼だったそうよ」
素知らぬ顔でお茶を飲む祖母、悔しそうな表情の父。
魔道具は確か、髪色と瞳の色だけが出る物だった。
「もっと改良して次は個人を特定させる」
これをバネにして、本当に開発しそうだ、と苦笑した。
「子どもといえば、シェリーはウッドウィル公爵家にいるのですよね? シェリーの子も……問題になりそうですね……」
シェリーはある意味可哀想だったかもしれない。
生みの母の犠牲者でもあるだろう。
「シェリーは子を生めない措置をするそうよ」
祖母はため息を吐いた。母も少し気まずそうな顔をしている。
「王家の血は火種になりかねないもの。王太子殿下も離婚して断種の上放逐される事が決まったし。だから妹はウッドウィル公爵家が監視を買って出たの。チェルシーはオマケね」
「でもそうするとウッドウィル公爵家の後継者が……」
「そこは王家が後継者を儲けるため愛人を作る事を許されたわ。公認だから反対しても無駄なやつ」
という事は、シェリーは結婚しても夫に愛人がいる事になるのか……
王家に認められているから、文句も言えないのね。……でも、それはシェリーが選んだ道の結果でもあるのかもしれない。
私から婚約者を奪ったという前科があるのだから。
「まあ、救いはウッドウィル公爵令息が妹を愛しているような事ね。まあ、それがどのような愛かは想像したくもないけれど」
母親べったりのローランド様が、シェリーを選んだのだ。せめて幸せにしてあげてほしい、と姉の欲目として思ってしまう。
「あれはペットみたいな感覚じゃないか?」
……無理かもしれない。ウッドウィル公爵夫人が二人をただで引き取ったとは思えないもの。




