55.証明
王妃殿下はさめざめと泣いている。
モニカ殿下の顔色も青褪めていた。
「母上、どういう事か説明していただきましょう」
ラファエル殿下の追求に、王妃殿下は顔を両手で覆ったまましきりに左右に振っている。
何故ここに来て逃げ惑うのだろう。
「アークライト前公爵は、金髪碧眼でしたね。魔術師殿の魔道具が示す通り、姉上の実父はアークライト前公爵なのですか?」
「違うわ……違う、違うの。モニカは私の子なの……!」
それはそうだろう。モニカ殿下の母親を誰も疑ってはいない。
問題は父親だ。父親が国王陛下ではない事が重要なのだ。
「その魔道具がおかしいのよ! 偽物だわ!」
「偽物かどうかは、私が証明してみせます!」
この期に及んでしらばっくれるなんて許さない。
出番が無いかと思っていたが、私は父の正しさを証明するため一歩前に出た。
「私はアークライト公爵家の長女でした。私はアークライト公爵ウィリアムと、母チェルシーが不貞して生まれた子です。その血を、不貞の証拠を、魔道具をもって証明いたします!」
「セリーナ」
母が心配そうに見てくるが、構わない。
父の魔道具が偽物と言われて許せるはずがない。
「ではセリーナ嬢、こちらへ」
ラファエル殿下に促され、発言台へ出向いて行く。
「この際だから、王家全員血筋検査をなさった方がよろしいのでは?」
そんな発言がして、王妃殿下はじめ王族の方が声の主を探すように顔を上げた。
「一人庶子が混ざっているなら、全員疑わしいですもの」
「そうですな。やましい事が無いなら、王家の血筋を証明いただこう」
「ついでにアークライト公爵家もした方がいいのでは? 不貞から始まっているなら、混ざっているかも」
その言葉に元両親も声の主を探すように顔を動かした。
母と父はチャンスとばかりに口角を上げる。
次第に「そうだそうだ」と賛同する声が大きくなっていった。
「静粛に、静粛に! いかがでしょうか、国王陛下。貴族を納得させるならば、その血筋を証明していただいた方がよろしいかと存じますが」
「うむ……」
王妃殿下は既に顔色を白くして魂が抜けたようになっている。
モニカ殿下は爪を噛んでブツブツ言っているように見える。顔色は青褪めたままだ。
「相わかった。セリーナ嬢から始め、王太子、ラファエル、それからディーンとデリックの検査を行う。その後アークライト公爵家の者も証明せよ。他に希望者がいても、それは後日とする」
国王陛下の言葉に、生みの母が叫び出した。
「嫌よ! 血を出すなんて痛いじゃない! モニカはアバズレだから証明が必要だろうけど、私はしないわよ!」
「チェルシー止めろ。不敬だぞ。それにこれは王命だ。嫌と言っても従わなければならない」
「嫌よ! ねえウィルは信じているわよね? みんなあなたの子なのよ。あなたが信じてくれるなら検査なんていらないわ」
「それは勿論だが……」
「そうよ、特にシェリーなんてウッドウィル公爵令息と婚約しているのよ。濡れ衣を着せられたら婚約破棄されてしまうわ!」
そう言えば元婚約者のローランド様もいらっしゃったんだった。
相変わらず公爵夫人にべったりで、急に視線が集まってビクッと身体を跳ねていた。
「私は構わないわ。息子の妻に迎える女性の血筋が証明されるならば安心ですもの。ぜひ検査をお受けになって?」
公爵夫人からニッコリと促され、生みの母は唇を噛んだ。
婚約解消の時も思ったが、公爵夫人は何か考えていらっしゃるのかしら?
当のシェリーは注目を浴びれているせいか楽しそうに微笑んでいた。
「では該当の者は検査を」
国王陛下の言葉に、まず私が前に出た。
モニカ殿下にしたように魔法で私の血液を抜き、小瓶に入れる。
チェスターさんが魔道具の洗浄をし、議長に中身を確認してもらってから私の血を入れた。
勿論私の両親は変わらない。
強いて言えば母の髪色が金色に光っていた。
「あの子、十八くらいかしら」
「ええ、私の娘と同い年のはずだわ」
「不貞の末に生まれたと言って……」
「でも、確かアークライト公爵の元々の婚約者って」
ヒソヒソと噂話がそこかしこで飛び交っている。
社交界で元両親は駆け落ちした姉の身代わりで結婚したと同情をもらっていた。
そして段々愛するようになっていったとも。
だが私が結婚してすぐ生まれた事を疑問に思ってほしい。
私を授かったから、母を陥れ、真実の愛にすり替えたのだと知ってほしい。
「セリーナ嬢はアークライト公爵夫妻の色をしているな」
「不貞ではなかったのか?」
「アークライト公爵の元々の婚約者はセシリア様だったはずよ」
「駆け落ちなさったと聞いたわ」
「セシリア様がそんな不義理をするかしら?」
ざわざわと噂が大きくなる。
元両親は俯いて釈明などをするつもりは無いようだ。
「次は私が証明しましょう」
ざわめきを押さえるように、ラファエル殿下が前に出た。王妃殿下はラファエル殿下をじっと見ている。……いや、これは魔道具の方だ。
先程と同じようにチェスターさんが洗浄し、議長に確認してもらう。父が魔道具に血液を落とすと、右側が金色と紫、左側が銀色と紫に光った。
更に王太子殿下が続き、結果はラファエル殿下と同じだった。これでお二人は国王陛下の子と証明されたと言えるだろう。
先程まで表情を強張らせていた国王陛下は詰めていた息を吐き、王妃殿下はへなへなと頽れた。
続いてディーン王子とデリック王子。二人は王太子殿下の息子だ。先程までの結果で疑心暗鬼になっている王太子殿下は、その結果を息を呑んで見ていた。
結果として、王子殿下のお二人は右が王太子殿下の銀色と紫、左側が王太子妃殿下の茶色と翠で血筋が証明された。
王太子殿下は明らかにホッとした表情を見せ、王太子妃殿下を労っているようだった。
……それを見ていた生みの母の表情は一瞬いつか母を睨んでいたようなものになっていたが。
「王家の証明は終えた。次はアークライト公爵家だが」
「はい。ではまずは嫡子の僕から証明させていただきます」
セドリックが前に出て慣れたように腕を差し出し血液を提供する。
手際の良さに魔術師二人は苦笑していた。
セドリックの結果も先日と変わらず、私と同じ。
「やっぱり黒と碧眼じゃないのつまんないや」
そう言って父にじとっと見られていた。
「では最後に、次女の方だな」
国王陛下の言葉に、生みの母の目が見開かれ、王太子殿下がバッと振り返った。
「シェ……シェリーはいいのでは?」
「そ、そうだ。今日はもう疲れているだろうから後日改めてはいかがだろう」
「あら、あなた、疲れているならばあとお一人なのですから、これで最後でお付き合いくださいませ」
王太子妃殿下の言葉に、王太子殿下は狼狽えた。
もう既にその態度がやましい事がありますと訴えているのだが。
「その者で終わりだ。魔術師、早うせい」
「承知いたしました」
「お母様、大丈夫よ。楽しそうじゃない。私行って来るわ」
「シェリー!」
スキップでもしそうなシェリーは、自分の存在の危うさを分かっていないのだろう。
生みの母の伸ばした手は届かず、魔術師さんの元へ行った。
「私魔法にとても興味があるわ。お姉様ばかりズルいから、今度私にも魔法を見せてちょうだい」
シェリーの屈託の無いお願いを無視して、淡々と作業をしている二人を見て、母が「ぷふっ」と笑った。
「いや……やめて、見ないで……」
「チェルシー……?」
元両親の拒絶など知らないとばかりに、魔道具が輝き出す。
そして示された結果、左は生みの母の色を示していたが、右側は銀色に紫。
「……え?」
元父の呟きが、やけに耳に残った。




