↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わりのあなたに花束を  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!
第三章/母の幸せのために【side セリーナ】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/65

54.その血筋の色は


 王妃殿下の表情は強張っている。

 モニカ殿下は何を言っているのか分かっていないようだ。


「皆も知っての通り、私とモニカ王女の結婚は、和平のために結ばれたものだ。だから私は彼女を愛し、大切にしていた。だが、それを快く思わない者もいたのだろう。結婚当初、『モニカの血筋に不安がある』との怪文書をもらった事もあった」


 祖母は顔には出さないが、ヘンリー殿下からは見えない手をぎゅっと握った。


「私はモニカ王女を愛すると決めていたからね。勿論その時は捨て置いたさ。……だが、私はある人物と出会った」


 大仰な身振り手振りをしていたヘンリー殿下は、こちらをじっと見ている。


「その者は大変優秀な魔術師だった。魔道具や新たな魔法、魔法陣を生成できる研究者気質のね。魔術師については知っているだろうか。魔法を使える者は突然変異で生まれ、その数は希少だ。それゆえ王国は保護し、国の発展に尽くすようにお願いする。私が出会った魔術師は、国の財産とも言えるほどの魔術師だ。彼は記憶喪失でね、どういうわけかユーステルの言葉を話していた」


 にわかに議席がざわつき始める。

 クリフォード伯父様のように魔術師に詳しい方もいるのか、顔つきが険しい方もチラホラと見受けられた。


「聞けば研究者気質の魔術師が、我が国との前線に出されたと言う。……私なら彼のような優秀な魔術師は、国から出さないがね」


 ヘンリー殿下は指揮を出した王太子殿下に目を向けた。

 彼は顔を引き攣らせてヘンリー殿下を見ている。


「ここまでは前置きだ。問題はこの魔術師がたいそうモニカ王女を嫌っていたんだ。だから忠告を受けていた。まあ、個人の感情もあるだろう。だから聞く振りだけしていたんだが……、彼はある魔道具を持って来たんだ」


 ヘンリー殿下が再びこちらを向くと、父がスッと立ち上がった。

 そしてフッ、と消えたかと思うと、ヘンリー殿下がいる発言台に立っていた。


「こちらでございます、ヘンリー殿下」

「ありがとう。体調は万全か?」

「ええ、お気遣いありがとうございます」


 発言台に父の魔道具が置かれる。

 その音に議席の皆が集中した。


「これは血筋を確かめる魔道具だ。体液を入れる事により、両親の髪と瞳の色が分かるという」

「発言、よろしいでしょうか」

「……王妃殿下、どうぞ」

「あなた方はモニカを疑っていらっしゃるの? そんな物を持ち出して、モニカを晒し者にしようと言うの?」


 予想はしていたが、やはり王妃殿下がモニカ殿下を庇い出した。

 祖母はじっとその様子を見ている。


「そもそも魔術師の根拠の無い個人的な感情だけでモニカの血筋を疑うの? 侮辱もいいとこだわ……!」


 確かに今の発言だけだと、父の個人的な意見だけに思える。だが。


「ヘンリー殿下、私も発言よろしいかしら?」

「どうぞ」


 祖母が立ち上がり、発言台へ向かう。

 背筋をぴんと伸ばし、六十にもなるのに凛とした佇まいは美しいと感じた。


「私は三十年程前、王妃殿下の発言を聞いたことがございます。王太子殿下とモニカ殿下の友人を募るお茶会でございました。私の亡き夫が当時の王太子殿下に呼ばれたと言われ、一時的に席を外しました。しばらくしても戻らなかったため、探しに行った時に聞いてしまったのです。『モニカ、可愛いでしょう? 私とあなたの子よ』と王妃殿下がおっしゃっている様を」


 辺りがざわつき始める。

 国王陛下は表情を変えずじっと祖母を見ているが、貴族たちの目線は王妃殿下に集中している。


「う、嘘よ! そんな事言ってないわ! 第一証拠が無い! でたらめよ!」


 王妃殿下が顔を青褪めさせて叫ぶが、殆どが疑惑の眼差しを向けている。

 だが証拠が無いと冤罪にもなりかねないという意見も聞こえてくる。

 そこで祖母は懐から一通の手紙を出した。


「ここに亡き夫が義娘になるはずだったセシリア・ウィンストン侯爵令嬢へ宛てた手紙があります。封蝋もアークライト公爵家の物で間違いありません。今からこれを読み上げますわ」


 祖母の声が議会に響く。

 王妃殿下が「偽物だ!」「でっちあげだ!」「モニカは私の子よ!」と叫ぶが、それを無視して中身を取り出して読み始めた。


 読み終えたあと、王妃殿下は力尽きたのか俯いたままだった。


「国王陛下に問います。陛下は私を公妾としてお望みでしたか?」

「……そんな話はした事が無い」

「陛下は私が第二子を懐妊した際、悪阻がよくなるというお茶を夫に託しましたか?」

「きみが第二子を懐妊した事はヒューから聞いた。だが、それだけだ。何かを送る真似はしていない」

「……あなたは、王妃殿下とヒューバートの関係に気付いていましたか?」

「…………」


 国王陛下の顔は強張っている。

 沈黙は肯定と同じだ。おそらく知っていて黙認していたのだろう。

 祖母は深呼吸して王妃殿下に向き直った。


「こちらの手紙からモニカ殿下の血筋を証明していただく事を求めます」


 王妃殿下は呆然としているモニカ殿下をぎゅっと抱き締めている。

 王太子殿下はそんな二人を顔色悪く見ている。


「だめよ……嫌よ、嫌、モニカは私の子よ。間違い無いわ。私の子なのよ……!」

「母上、確かに姉上はあなたの子でしょう。ですが、父上の子と言えますか?」


 ラファエル殿下の問い掛けに王妃殿下は肩を跳ねさせ更にきつくモニカ殿下を抱き締めた。


「王妃殿下、あなたの子である事を、堂々と証明すればよろしいのではなくて?」

「そうですわ。このままですと、疑惑だけが残りますわ。この際しっかりと証明して、モニカ殿下の疑惑を払拭した方がよろしいかと存じますわ」


 どこかからそんな声が聞こえてくる。

 王妃殿下と同世代だろう婦人方が、声を上げ始めていた。


「国の代表たるあなたが、まさかアークライト公爵の子を国王陛下の子と偽っていたなんて事はありませんでしょう?」

「国民の血税で、庶子を養って贅沢させていたなんて、そんなはずありませんわよね?」


 一人、また一人と声を上げていく。

 女性たちが一丸となって王妃殿下を追い詰めていく。


「王妃よ、モニカの血筋を……証明するのだ」


 国王陛下の声が響く。

 その目線に耐え兼ねたのか、力を失くした王妃殿下はモニカ殿下から引き離された。


「モニカ殿下、失礼ですがこちらに血液をご提供ください」


 近衛から言われ、モニカ殿下は力無く指を差し出した。

 そばまで来ていた父が魔法を唱えると、傷も無いのにモニカ殿下の血液が準備された小瓶に注がれていく。

 父がそれを魔道具に入れた。

 ……私の出番は無くなったようだが、誰もがその魔道具の性能を疑っていないようだ。


「皆様ご覧下さい。皆様から見て右側が父親、左側が母親の色でございます」


 父が魔道具を高らかに掲げた。

 そこに映し出された色は、右に金色と碧、左に銀色と紫だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。