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身代わりのあなたに花束を  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!
第三章/母の幸せのために【side セリーナ】

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53.貴族裁判、開始


 いよいよ貴族裁判当日がやってきた。

 生みの母の風邪は一応は治ったようだが、これみよがしに馬車に乗る時に咳をしていたから、元父がこちらをチラチラと睨んでいた。

 シェリーは迷惑そうな顔をしていたから、自分大好きな血の繋がりは伊達じゃないと感じた。


「今日という日を仮病で欠席されても腹立つからな。チェスターに診察してもらって呪いを一時的に緩和したんだ。というか、あの女チェスターに色目使ってきたらしいぞ」

「うわぁ……」


 生みの母の節操の無さに呆れて物が言えない。

 血が繋がっている事が恥ずかしいし、本当に母の養女になって良かった。


「もう病気ね。そういう事しか考えられないのかしら」

「男に求められる事に価値を見出しているんだろう。それしか取り柄が無いからな」

「努力とか嫌いだったわね。何もせずに『お姉様ズルい』だったわ。私はしっかりと自分のためになる事をしての結果なのにね」


 努力はしただけ必ずしも結果がついてくるというわけではないが、努力をした成果は何かしらに表れてくる。

 すぐには役に立たなくても、身に付けた知識は無駄にはならない。

 だから勉強するし、マナーを学ぶ。

 失敗しても、次に活かせばいい。

 繰り返し学ぶ事で生きる術が身に付くのだ、と家庭教師から口を酸っぱくして言われた。


「努力もしてない人がズルいって、おかしな話よ。結局媚を売ってのし上がっても、どこかで躓くのよ。最果てへの道も一歩から。さ、私たちも行きましょう」


 私も腐らずに努力して、いつかは母みたいにきれいな人になりたい。

 堂々として生きていきたい。


「行きましょうか、お嬢さん」

「ええ」


 レックス様が差し出した手にそっと重ねる。

 わずかに口角が上がっている気がするのは、たぶん私だけじゃないよね?


 私達は馬車に乗り込み、王宮を目指す。

 道中緊張していたが、祖母もいるし、レックス様もいる。

 それに、母と父も。

 裁判の主導は両親だが、私も魔道具の証明人として前に出る役を言われた。

 今回は王族の判定だから、より正確に出るように体液となるだろうとの事だ。

 父の魔道具が血筋を示すものであると証明する。


 王宮への道のりは、短いはずなのに長く感じた。

 レックス様の手を取る際、冷えきった手が震えてしまった。


「大丈夫だ、セリーナ」

「うん」


 今だけはレックス様の無表情を見習いたいところだ。どうしたらすました顔になれるだろう、とじっと見つめてしまった。

 すると、レックス様はふい、と顔を真っ赤にして逸してしまった。


「あまり見るんじゃない」

「え? あ……すみません……」


 じっと見つめるのは淑女としてどうなの、と私も俯いてしまった。


「……あんた、ホント、警戒心が無いっていうか、危なっかしいっていうか、目が離せないな。令嬢はみなそうなのか?」

「さ、さあ? 私はレックス様の周りのご令嬢たちの事なんて知りませんから比べようがありません」

「そうか?」


 なんだろう。レックス様の周りに私ではない令嬢がいると思うとモヤモヤしてしまう。

 彼がどんな表情をしているか分かる人がいたりしたら、それこそ嫌だな……なんて思ってしまう。


「まあ、俺もあんたしか知らないからな」


 そう言ったレックス様の表情が、甘く緩んでいた。

 体感にして三秒程で、一瞬見間違いかと思ったが、確かに緩んでいたはず。今はもう無表情に戻ってしまったから夢だったのかしら。


「着いたようだな」


 馬車が停まり、レックス様が先に降りる。

 差し出された手を取り、私も降りた。


「ではいざ戦場へ」


 腕に手を添えて頷いた。

 再び目が合って、お互いに逸らしてしまったが、添えた手は離さなかった。


「……僕たちもいたんだけどね」

「そうね」


 後から祖母とセドリックがそんな事を言っていたと母から聞いた時は顔から火が出るかと思った。



 裁判の席は大勢の貴族で埋め尽くされていた。

 王族席も国王陛下ご夫妻、王太子殿下ご夫妻と息子二人、渦中の人である王女殿下は既にご臨席だ。

 私たちもアークライト公爵家の席に座る。

 祖母の権限で準備されていた。


「よく来れたわね」

「あら、チェルシー、お加減いかが?」

「風邪が治らないのに強制されたの。きっと私はもう長くないのだわ……」


 儚げな雰囲気を出しているが、騙されているのは元父と王太子殿下と一部の殿方だけだ。

 女性たちは冷ややかな目をしている。


「チェルシー、無理をしないように。こんな裁判、すぐに終わらせて早く帰って休もう」


 元父は妻を労りながら母をチラチラと見ている。

 母の方は父に夢中で気にしていないようで、それがまた元父の執着を煽っているようだった。

 それを見た生みの母が関心を引こうとしてしなだれかかっているのが場を弁えない大人として周りの目に映ったらしく、目線が冷たくて私は必死に他人の振りをしていた。


 少しして、場がしん、と静まり返った。

 見てみると、ラファエル殿下とヘンリー殿下が入場されたようだ。

 二人が中央にある発言台の前に立つと議長席に座る方がカンカンとガベルを鳴らし、ラファエル殿下に発言を促す。


「皆の者、多忙中にも関わらず招集に応じてくれて感謝する」


 ラファエル殿下が頭を下げ、私たちもそれに倣う。

 ひと息吐いたラファエル殿下は、席に座る者たちを見回した。


「本日集まってもらったのは、隣国ハルヴィアからある疑惑を相談されたからだ。……ヘンリー殿下、お願いいたします」


 ラファエル殿下が一歩下がると、隣にいたヘンリー殿下が発言台の前に立った。


「改めて、私はハルヴィアの第二王子ヘンリー。そこに座るモニカ王女の元夫だ」


 柔らかな笑みを浮かべるヘンリー殿下は、ゆっくりと目線をモニカ殿下に移した。

 見つめられたモニカ殿下は頬を赤らめる。

 離婚されたのに再び会いに来て、自分を忘れられないと思っているのだろうか。


「あ、あれ捕食者の目だ」


 父がボソッと呟いた。

 その意味を問う前に、ヘンリー殿下が再び口を開く。


「私とモニカが離婚した理由は、一つは彼女の不貞が理由なんだが、その前に、彼女が王族ではない疑惑が出たからなんだ」


 柔らかな笑みを浮かべたヘンリー殿下の言葉に、誰もが言葉を失った。


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