52.まずは友人から……
いよいよ貴族裁判が三日後に迫った日。
ラモーナ様が再び我が家に訪れた。
「セシリー! いよいよね。私たちも勿論証人になるわよ」
「ラモーナ……。ありがとう」
「私だけじゃないわよ。モニカとチェルシーに不満を持っているのは大勢いるもの。同世代は特にね」
ラモーナ様の話によれば、モニカ殿下と生みの母はアカデミーの頃から割と好きにやっていたらしく、方々から恨みを買っているらしい。
「モニカなんか庶子と判明したらそれこそ集中砲火を浴びせられるのではないかしら。王族の血を引いていない托卵王女で、隣国との火種になりかねないなんて王家は何を考えているのやら」
「本当にね」
「王太子殿下も公爵夫人とズルズル続いているなんて、醜聞もいいとこね。王太子妃殿下には同情するわ」
ラモーナ様は社交界での噂を教えてくれた。
母が生みの母と王太子殿下の不貞を目撃したらしいが、母以外にもチラホラ目撃者はいるらしい。
「夜会で見た時も堂々としたものだったわ。見せつけてるのかと思ったくらいよ」
「案外そうなのかもよ。『ああ、身代わりで結婚しないといけなかったために結ばれなかった悲劇の恋人たち。本当に愛する人は別の人なのに……ッ』て悲劇の住人になりたがってそうじゃない」
「お互い別の相手の子を授かったって擦り付けあっていたわね。片方が全てを捨てたら自分も捨てるのに、って言い合っていたけれど、本当に捨てて付いてくるのかしら」
「なにそれ見たいわ。面白そう。チェルシーがウィリアムに捨てられて地位を追われたら王太子殿下が拾うかが楽しみだわ」
「王太子殿下は捨てる気無いと思うわよ? 非公式なんだけど、妃殿下は御懐妊なさっているそうよ」
つまり、生みの母だけを愛していると言いながら、妻ともよろしくしていたのか。
男性ってみなこんな感じなのかしら。
「二人とも、セリーナが男性不信になるだろう」
「そうですよ、母上。世の中クズな男だけではないのですから」
父とレックス様が言っているが、血の繋がった祖父は不貞してモニカ殿下を作ったし、元父は不貞して生みの母と結婚したし、王太子殿下は生みの母と不貞中。
周りの男性陣が不貞ばかりで殆どの男性がそうなんじゃないかと思ってしまう。
「そうね。セリーナの純粋さだとそうなっちゃうわね。ごめんね」
「じゃあさ、レックスなんかどう? 私の息子だから、不貞したらしばき倒してやるわよ」
「えっ」
ラモーナ様の言葉に顔を上げると、レックス様と目が合った。
「いえ、でも、レックス様にご迷惑じゃ……」
「いいよ」
「えっ?」
レックス様は相変わらず無表情だ。
だが、無表情なのに顔が真っ赤だった。
それに釣られて私の顔まで赤くなってしまう。
「あんたならいい。面白いし飽きないし、何か目が離せなくてずっと見てたい」
「〜〜〜〜っ!?」
顔真っ赤の無表情で言われ、鼓動が速くなっていく。
母に助けを求めると、きらきらした瞳で見つめられた。
「っ、ダメだ! ダメだ、ダメだ! 俺の目の黒い……いや、赤いうちはダメだ、セリーナは嫁にやらんぞ!」
「じゃあ婿に入ればいいわ。レックスは次男だから後継じゃないし、婿入りすればセリーナとはなれなくて済むわよ」
「あ、あのっ」
「そ、れなら、いい、のか?」
止めてくれると思わせたお父様の防波堤アッサリと陥落ー?
「まあ、今すぐじゃなくていい。あんたが他にいないなら、候補の一人として考えてくれたらいい。俺はあんたを裏切らないと誓おう」
女性陣二人にきらきらした瞳で見られ、父は複雑そうな表情だ。
それに黙ったままの私を見るレックス様も、こころ無しか捨てられた子犬みたいな表情だ。
「あの、まだ、そういう事は考えられなくて! あの、裁判が終わってからでもいいですか?」
だからって今すぐ答えを出せる程、レックス様への気持ちに自信が無い。
私でいいのか、生みの母たちの事もあるし、大手を振って飛び込める程私に魅力があるとも思えなかった。
「そ、そうだぞ! まだ時間はたっぷりあるからな。俺が精査してやる。セリーナ、大丈夫だからな。断っても父がいるからな」
「私もいるわよ」
「男の見せ所ね、レックス。母としてはあんたの表情を豊かにしてくれる初めての女の子だから逃したくないけれど、セリーナの気持ちが一番だものね」
「任せろ。セリーナ嬢は必ず守る」
無表情だがきっと真剣な表情をして、優しい目を向けてくれる。
短い間だが一緒に過ごして、その人となりも分かっている。
「あ、あの、……まずは友人からで、いいですか?」
「ああ、勿論だ。改めて、よろしく!」
何かと濃い人たちばかりの中で、普通に近い人だ。それが特別に思えるから不思議だ。
「じゃあ、改めて。裁判の時にはセリーナを守るのよ。何かあっては大変だわ」
「任せろ」
母の冤罪を晴らし、この先の未来を憂い無く過ごすためにモニカ殿下と生みの母の罪を暴く。
二人は身分が高いからと好きにしてきたが、これ以上傷付く人が増えないように、断罪する。
「みんな、よろしくね」
母の言葉に皆一様に頷いた。
決戦の時はもうすぐだ。




