51.作戦会議
「ラファエル殿下から登城命令をいただいたわ。モニカ殿下が隣国ハルヴィアへ和平の証として嫁いだが、不貞により離縁、またその血筋について不義があったのでは、と元夫のヘンリー殿下から訴状があったらしいわ。一週間後、貴族裁判を開廷するのですって」
久しぶりに会った祖母から、ラファエル殿下からの手紙を手渡された。
いよいよモニカ殿下を断罪する時が近付いてきた。
「今ある証拠として、ヒューバート様からの手紙と、アーヴァインの魔道具を使用してモニカと王妃殿下の罪を暴く」
「あとセシリアを襲わせたのはクソ女ってやつも」
「証拠が無いわ」
「証拠が無けりゃ、自白させればいい」
父はニヤリと不敵に笑った。
今まで母を陥れてからも二十年近く平気で過ごしてきていた人がそんなヘマをするとは思えない。
「セシリアの姐様が王宮にいるんだよな?」
「ええ」
「その方に協力してもらえるんだろ?」
「そうだけど……」
母が娼婦をしていた頃に可愛がってくださったという女性が、現在国王陛下の愛妾として囲われているらしい。
とはいえ本当に愛妾なのではなく、元々貴族の愛人としていたが別れ、行き先をどうしようかと悩んでいた時に国王陛下のスパイとして雇われたそう。現在は表向き王妃殿下の侍女として雇われ、裏では国王陛下に情報を渡しているのだとか。
これは母からの情報だ。
私が不在の間、王太子妃殿下の再会し、この断罪に付き合ってくれる事になったという。
「クソ女が昔から持っている物があれば、それを借りるだけでいい。物の記憶を読み取る魔法があるんだ。それを使う」
そんな便利な魔法があるのか、と思うと、魔術師さんを敵に回すのは危険に思えた。
使いようによっては過去の犯罪も暴けるだろう。
「じゃあ、私が襲われた時に持っていた荷物からも何か分かるかもしれないわね」
「そんなのがあるのか?」
「ええ。フラン義姉様が持ち物をとっておいてくれたの。実家の私の部屋は当時のままだったわ」
「じゃあそれも借りる。セシリアが駆け落ちなんかじゃない証拠になる」
改めて思うと、父の魔法が便利すぎて王太子殿下が私の生みの母に唆されて前線に追いやった事がどれだけ愚かな事なのかが分かる。
「あなたって敵からすれば恐ろしい魔術師なのね」
「そうかな。まあ、俺がいれば国一つ揺るがす事は容易いだろうな。だからこそ王家は魔術師を囲いたがる」
父が味方でいてくれて良かった、とホッとした。
生きていてくれて良かった、とも。
「あの、血筋を証明する魔道具があるのよね?」
表情を固くした祖母が父に問い掛ける。
「ああ。本人の髪の毛を魔道具に入れれば両親の髪色と瞳の色が分かるやつだ。血液や唾液などの体液の方がより正確に分かるぞ」
「それは本当に確証があるものなのかしら?」
祖母の言う事はもっともだ。確かに父の魔道具が正確だという証は無い。いきなり断罪の場で使用するのに不安があるのだろう。
「では、私が使ってみます」
「セリーナ」
「今私が使用して、お父様の魔道具が確かなものなのか証明してみせます」
まだ恥ずかしいからはっきりとは言えないが、父の口元が緩んでいるのが分かって私も顔が熱くなる。
「父思いの娘を持てて、ここは楽園かな。ありがとう、セリーナ。では髪の毛を一本拝借するぞ」
私は髪を一本途中で切り、父に渡す。
父はそれを魔道具の受け皿に入れた。
「右側に父親、左側に母親の情報が出る。枠が二つあるだろう? 上が髪色、下が瞳の色。髪の毛だとちょっと色味が曖昧なんだが、碧眼、紫眼などの特徴は掴めるから簡易的なものになる。体液はより正確な色になるんだ」
父が説明する間に魔道具が光りだし、それぞれの枠に色が示された。
右側の上は茶色、下は緑。左側の上は黄色、下は紫だった。
「黄色は金髪も該当する」
この魔道具によって、私の両親は揺るぎないものになった。
ホッとするやら、残念やら。
「へえ、面白いわね」
「おじさん、僕もやってほしい」
セドリックもそう言い出した。祖母が逡巡している間にセドリックは自分の髪を一本抜いて魔道具に入れる。
すると光は私と同じ色を示した。
それを見て祖母は詰めていた息を吐いた。
祖母の中では疑惑があったのかもしれない。
当のセドリックはつまんなそうな顔をしている。
「これ合ってないよ。右はともかく、左は黒と碧眼になってほしかった」
口を尖らせているが、それはセシリアお母様の色だ。それに気付いた父は母の肩をさり気なく抱き寄せた。
十歳相手に大人げないですお父様。
「あなたの魔道具の性能は分かりました。それを見越して、使ってほしい子がいるの」
その言葉に、母が息を呑んだ。
それが誰だか心当たりがあるのだろうか。
「誰だ?」
「シェリーという、私の孫なのだけれど……」
祖母は私とセドリックの顔を伺うようにして口にする。
それはつまり、生みの母がモニカ殿下のような子を生んだという事なのだろうか。
それともそういう意図は無く、単純にセドリックと私は一応血筋が証明されたからシェリーも、という事なのだろうか。
「もしシェリーが我が公爵家の血を引いていないならば、公爵家として問題になります」
確かに托卵は乗っ取りと言われても仕方がない。
元父との子でないならば、アークライト公爵家の血は入っていない事になる。
「分かりました。セシリアの妹の罪を暴く時、その者の血筋も証明しましょう」
祖母からすれば、自分が守ってきた公爵家を他人に好きにされるのが嫌なのだろう。
確かに生みの母は社交以外の事をしていない。させてもらえないが正解か。
だが、もし托卵としたら、元父は知っているのだろうか。知っていて、それを黙認しているのだろうか。
「もしシェリーが元父の子でないとして、それを知っているなら、血の繋がりは無いのにちゃんと目を掛けていたのかな……」
母と一緒にいる事が多かったシェリーを父はそれなりに目を掛けていたように思う。
私の事は無関心だったけれど。
「いやぁ、アレはアホっぽいから托卵されてるとしても気付かないと思うぞ。当日知ってまた『裏切り者』とか叫ぶんじゃないのか?」
「そうね。チェルシーが仮面舞踏会に行っている事も知らないみたいだったし、愛は盲目ってやつ?」
二人の言葉に祖母は頭を抱えた。
一人息子が貶されて、母としては嫌だよね……
「知らないでしょうね。この際だからウィリアムには引退してもらってセドリックの教育に力を入れるわ」
アッサリ切り捨てられた元父あわれ。
だがそういう片鱗は元からあったのだろうと思う。祖母は元両親に対していい感情は持っていないようだったから。
「大丈夫です、お祖母様。僕はこの日のためにしっかり勉強してきました。両親がいなくなっても、公爵家は守ります」
いつの間にかセドリックが頼もしくなっている。
それを見た祖母は優しく微笑み、母もセドリックにニコニコとしている。
今だけは、更に母を抱き寄せる父の気持ちが少しだけ分かる気がした。




