44.魔術師の正体
「今日もまた、成果無し……」
あれからずっと魔術師さんの行方を追っているが、一向に掴めない。
ラファエル殿下チームと、私とレックス様のチームのふた手に分かれて探しているが、いずれも目立った成果は得られていない。
私たちは裏の森に入ってみたが、前に進んでいるはずなのに何故か入口に戻される。
ラファエル殿下も街で聞き込み調査をしているが、手掛かりは無し。
よほど警戒心が強いのか、本当に会えるのかどうか分からなくなってきた。
「諦めたらそこで終わるぞ」
「分かってます。お母様の幸せのためにも、絶対に見つけます」
「どこへでもお供しますよ。そのための護衛だからな」
レックス様はキリッとした表情だが、どこか含み笑いがあるようで絶妙にモヤッとしてしまう。
余計な事を考えずに集中しなきゃ。
「あーもう、また入口に戻されたわ」
「魔術師の魔法かなんかだろうかね。よほど他人を信頼していないように感じるな」
「何故でしょう。結界のようなものでしょうか」
考えても埒が明かないので、私たちはヘンリー殿下に相談する事にした。
「ヘンリー殿下、お忙しいところすみません。魔術師さんに会おうとしても裏の森には入れないし街で聞き込みしても実体を摑めません。ヘンリー殿下がお会いになる時はどのような時なのですか?」
「うーん、そう言えば神出鬼没だからどうかなぁ。気づけばそこにいる、って感じかなぁ」
なんとも曖昧で頼りがいの無い返事に落胆する。
「あ、でも、従姉妹は裏の森に入れるみたいなんだ。よければ同行させようか?」
「本当ですか? ぜひお願いいたします!」
協力してくれる方がいるならばぜひに、という事で、ヘンリー殿下の従姉妹さんを召喚してもらった。
「セリアンのところに行きたいのはどなた?」
「は、はい、私です!」
ピンクの髪色の釣り目の令嬢は、手を挙げた私をじっと見つめる。
「あなたはモニカじゃないわね。セリアンはユーステルの血を拒絶しているの。彼すごい魔術師なのよ。森一帯にユーステルの血を持つ者を寄せ付けない結界を張っているのだもの」
魔法を使えない私は、それがどれ程すごい事なのかイマイチぴんと来ない。
だが私たちは入れないが従姉妹さんは入れるという事は、それだけ魔術師さんが我が国の人間を嫌っているという事だろう。
「彼はモニカを敵視していたわ。だから私もモニカが嫌いだった。ヘンリー兄様は愛していたけれど、結局裏切られたわ」
「私たちはモニカ殿下の罪を暴くためにここに来ました。私の母を、不幸にしたからです。彼女は王女という身分で好きに生きてきました。そろそろ終わりにさせたい。そのために……魔術師さんの力をお借りしたいのです」
従姉妹さんは探るような目でじっと私を見つめた。
今まで辛酸を嘗めさせられてきた分、母には幸せになってほしい。
だから魔術師さんに会わなきゃ帰れない。
「……いいわ。一緒に裏の森に行きましょう。私の事はフィリスと呼んでちょうだい」
「フィリス様。私はセリーナと申します」
私たちは握手を交わし、早速裏の森へと足を向けた。
裏の森の入口は明るくて、来る者を拒んでいるようには感じないのに何度もループしては入口に戻されてしまう。
今回も同じだったら、と思ったが、木々のざわめきが私たちだけで来た時より穏やかだった。
ちなみに馬車は入れないから歩きだ。
「あなたたちにハルヴィアの者と誤認させる術式を施したの。セリアンと話していて私が構築したものだから彼も知らないと思うわ」
という事は、フィリス様も魔術師なのだろうか。
確か魔術師は存在自体が希少で、だから二人は気が合うのかな。
「フィリス様と魔術師さんは恋人同士とかですか?」
「私はそうなりたいと思っているわ。でも、記憶喪失の彼はこう言うの。『記憶喪失なだけで、祖国に恋人や妻がいるかもしれない。あんたとどうにかなったらその女性が悲しむし、あんたも辛いから記憶が戻るまでは俺は誰も相手しない』って」
戦争で負傷し記憶喪失になり、パートナーの存在を忘れて別の人と……という話はよく聞いた事がある。
母も探し人に恋人や妻がいても不思議ではないから、その時は遠慮なく教えてほしいと言っていた。
「まあ、そんな相手がいたと思えないんだけどね。だって私が訪ねても気付かずに魔道具作りに没頭してるんだもの。あんな朴念仁を相手にできる人なんていないわよ」
少しばかり寂しそうなフィリス様は、きっと魔術師さんの事が好きなのだろう。
確かに意中の人に他に相手がいたら悲しくなるわ。
私もレックス様に愛する人がいたら……って、違うわ、たぶん。
私は婚約解消してひと月も経っていないのよ。
既にローランド様の名前すら忘れてしまっていたけれど、一応婚約者もいたのに、何でレックス様に愛する人がいたらなんて考えているのよ。
「まーた百面相してる」
「ぅえっ?」
「魔術師の事でも考えてたんだろ? セシリア様とペンダントで話させてやれば記憶戻るんじゃねぇか?」
「……セシリア? あなた、今セシリアと言った?」
レックス様にまたからかわれていたら、フィリス様が食い気味に寄って来た。
「セシリアって知り合い? どういう関係?」
「えっ、と、私の母です。セシリア・オルコット、元ウィンストン侯爵家令嬢です」
「セシリア……」
フィリス様は母の名を呟いて、表情を強張らせた。
「あ、の……母が、何か?」
「ああ、ごめんなさい。……セリアンは、自分の名前すら覚えていなかったの。けれど、ずっとうわ言のように『セ……リア……』と言っていたから、便宜上セリアンと名付けたのよ」
それはまさか、母の名を呼んでいたという事だろうか。
……としたら、まさか、魔術師さんが母の恋人の可能性ある?
「ねえレックス様、もしかして魔術師さんて」
「……あんた、鈍感もいいとこ鈍感すぎないか?」
呆れたような顔をされたが、まさか本当に同一人物だなんて思いもしなかった。
魔術師さんを連れて帰れば母の呪いが解けてモニカ殿下の血筋を暴けると思っただけで、魔術師さんがアーヴァインさんと結び付かなかった。
「俺、同一人物だろうな、手間が省けていいなって言ったよな? な? ラファエル殿下も意気消沈してたよな? な?」
「え、ええ、すみません……」
「おもしれー通り越して心配になってきた。あんた何かセシリア様と魔術師が結婚したら一人で生きていけんの?」
ぐ……、痛いところを刺された気がする。
悔しいが何も言い返せない。
「まあ、護衛が必要なら呼べば駆け付けるけども」
「えっ?」
レックス様を見れば相変わらずの無表情だ。
だがよく見れば少し頬が赤い気がする。
それに気付いて私の鼓動が加速した。
「それは……」
「はいはーい、イチャイチャするのは構わないけれど、着いたわよ」
フィリス様がパンパンと手を叩き、ハッと我に返った。
そうだったわ、今はフィリス様もいらっしゃるのだった!
顔から火が出そうな勢いでレックス様から目を逸らす。
レックス様も咳払いしてごまかしているようだ。
そんな私達に小さくため息を吐き、フィリス様は目の前の小屋の扉を叩いた。
「返事は無し、か」
まさかここに辿り着けたのに、不在……?
諦めきれない私は一歩前に足を踏み出した。
すると、急に扉がガチャっと開く。
中から出てきたのは、ボサボサで真っ白な髪をした、いかにも生活能力の無さそうな男性だった。




