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身代わりのあなたに花束を  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!
第三章/母の幸せのために【side セリーナ】

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43.芽生え


 ひとの運命とは時として残酷だ。

 ラファエル殿下は母と結ばれたくてどうにかしようと足掻いても、立場が許してくれなかった。

 例え身軽になっても、王家の血が娼婦だった過去を持つ母を許さないだろう。


「むしろ私が不義の子であれば良かったな、と思うよ。そうすれば何も気にせずにいられたのに」


 ラファエル殿下は今更他の誰かと結婚する気にもなれなくて、三十にもなるのに未婚らしい。

 そこは己に課せられた鎖に抗い、最初で最後の我儘としてこれからも未婚を貫くそうだ。


「部下に一時的に娶らせたら良かったのでは?」

「信用できる者がいなかったんだ。セシリア様は魅力的な方だ。気が変わってしまわないとも限らない。周りが敵だらけでどうしようもなかった。まあ、魔術師がセシリア様を幸せにしてくれるなら、私の気持ちなど打ち捨てられるさ」


 はは、と力無く笑うが、かなり無理をしていると思う。

 その後ペンダントを通じて母と話す機会は沢山あったが、ラファエル殿下は声を聞くと諦めきれなくなってしまうからと母と話したがらなかった。


『何か、大丈夫? ラファエル殿下は実はモニカと仲良かったりするのかしら』

「あはは……そうではないようですよ」


 母も訝しんでラファエル殿下に不信感が芽生えているようだ。

 かといって本音を言えるはずもない。


「大丈夫ですよ。ちょーっと時間が必要なだけです。希望が潰えたので傷心してるだけです」

『希望が、って、大丈夫なの?』

「大丈夫っす。これまでと変わらないです」


 レックス様が代弁するが、母は納得していないようだ。


『まあ、いいけど。ラファエル殿下が邪魔するなら容赦はしないとお伝えして』


 何だか母がここにいたらラファエル殿下をきっと睨んでサムズアップしてそうな絵が思い浮かぶ。

 そういうところは同じのようで、何だか嬉しくなった。

 そんな私とは裏腹に、レックス様は口元に手を当ててニヤけている……気がする。


「なんて言うか、あなたたち似てますね」

「そうかしら」

「鈍感なとことか、見えないけど同じポーズをとってそうとか手に取るように分かる」

「そ、そうかしら」


 それは私が母に似ているという事だ。

 確かに四分の一くらいは血が繋がっているし、同じ髪色だし、似てても不思議ではない。

 また、そう言われて何だかむずむずとしてしまう。


「なにニヤニヤしてんだ」

「え? そ、そう? 別に普通でしょう?」

「いや、いつももデレっとしてるけど、いつも以上にデレデレっとしてる」

「そんなはず無いわ。いつもと同じよ」


 ニヤニヤしてるのはレックス様の方だと思うわ。

 ……表情筋は動いていないから私の思い込みかもしれないけれど。


『あなたたち、仲いいのねぇ』

「お、お母様!? そんな事ありませんよ?」

『いいのよいいのよ。いい人が護衛についてくれて良かったなぁと思ったの。さすがラモーナの息子ね』

「お褒めいただきありがとうございます。母の友人の義娘ですから、しっかりとお守りします」

「お守り、って私は子どもじゃないわよ?」

「すまない、間違えた。お守りします」


 普通の人だと思ったのに、からかってくるなんて何だか嫌な感じだわ。

 お母様のご友人の息子さんだし大丈夫だと思ったのに!

 レックス様を見れば、何だか楽しそうに見える。

 無表情なのに表情豊かってどういう事かしら!


『頼んだわよ。と、そろそろ夜会の時間だわ』

「王宮主催の夜会でしたね。行ってらっしゃいませ、お母様。お身体辛かったらすぐに帰宅してくださいね」

『大丈夫よ。フラン義姉様が一緒だから。じゃあ、またね』


 まだまだ話し足りないが、声は弾んでいたから楽しんでいるのだろう。それもちょっぴり寂しい。

 フラン伯母様は母と仲が良かったらしい。

 生みの母は苦手だったみたいだが、確かにフラン伯母様と生みの母は相性悪そうだ。

 ……でも、ご実家と和解なさったなら、帰るとおっしゃるかしら。

 その時は私も連れて行ってくれるかしら。

 養女となって、私は離れで一緒に暮らしている。

 まさか戻れとは言われないだろうけれど。


 そういえば、アーヴァイン様が見つかったら、母と一緒になる、わよね、きっと。

 私、お邪魔じゃないかしら。

 十年も離れていた恋人同士なら、久し振りに会ったら熱烈に愛し合うわよね。

 ……私、お邪魔になるのではないかしら……


「なーに百面相してんの。不安そうな顔したり頬を赤らめたり、かと思えば急に青褪めたり」


 レックス様の声に我に返り、そちらを向くと呆れたような顔をしていた。


「あんた、おもしれー。女性って苦手だったけど、案外面白い生き物なんだな」


 レックス様の固くなった表情筋が不自然に盛り上がり、意地悪そうにニヤッと悪魔の笑みを浮かべた。


「ひっ!?」

「おっと、笑ったら怖いって驚かれるんだよな。怖がらせてすまない」


 頬を延ばしながら、無表情に戻っていく。

 確かに少し驚きはしたけれど。


「大丈夫ですよ? 驚かれるから表情筋を動かさないとかえって凝り固まってしまうのではありませんか? 笑いたい時は笑っていいと思います」


 無理して我慢していたら自然に笑えなくなってしまうもの。

 淑女としてはそちらの方が良いのかもしれないが、友人や家族の前くらいでは自然な表情でいられたらいいと思う。


「……母でさえ女性を怖がらせるから笑うなと言われていたが……、なるほど。笑いたい時は笑っていいのか」

「あ、でも無理に笑うとかえって不自然なので、笑いたい時に表情筋の運動を妨げないというか、こう、常に頬の肉を動かすイメージでですね」


 むに、と自分の頬を持ち上げるようにしてみせる。

 すると、レックス様はふはっ、とぎこちないながらも笑ってくれた。


「やっぱり、あんたおもしれー」


 その表情があまりにも自然だったから、不覚にも胸が高鳴ってしまった。


「そ、そうやってすぐにからかうのはやめた方がいいと思います」

「ごめんごめん」


 ふい、とそっぽを向いてしまったけれど、何だかレックス様の声が甘く響いた気がして私の頬が熱くなっていく。

 今、私の顔は赤くなってないかしら。

 変な顔になってないかしら。

 何だか気恥ずかしくて、鼓動が早くなって、しばらくレックス様の方を向けなかった。


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