36.声の再会
「はい、どうぞ」
アーヴァインからもらったペンダントに、チェスターに魔力を注入してもらった。
「これで連絡取れるようになるの?」
「ええ。ペンダントに念じるように話し掛けると連絡取れるはずです」
見た目は何も変わらないが、セドリックからチェスターと連絡を取るときに見せてもらったようにすればセリーナと連絡ができるのかしら。
魔法に疎い私は半信半疑でじっとペンダントを眺めていた。
「血とか拭き取ったんですね」
「え? ……そうね。鎖が錆びるし、きれいなままで保管したかったから」
暫くはアーヴァインの血かもしれないものを見ては涙が止まらなかった。
帰って来るものだと思い込んでいたから。
けれど時間の経過と共に彼に見られるならばしゃんとしていたいと思うようになった。
同時に、血で劣化しないようにとキレイに拭いて、貰ったペンダントと共に宝物の中にしまいこんだ。
セリーナにあげたのは、私が貰ったほうだ。
「アーヴァインが未だに帰還しないのは何らかの事情があると思うんです。俺はあいつはあなたに別れも告げないまま他の女と、というような真似はしないと思います」
チェスターはアーヴァインの数少ない友人だったそうだ。
魔道具作りに特化した魔術師はみな当てはまるそうだが、彼は偏屈で気難しくて人間関係の構築が苦手だったらしい。
娼館に誘った先輩が、どうだったか聞くと「寝ました」と言ったのでついに……と感激したらしいが、彼は本当に寝ていた。
娼館一の人気娼婦を前にして、眠いから寝たといっているのをみて、先輩は項垂れたらしい。
ただ、ぐっすり寝れたからまた行きたいと言った事で、少しは効果があったのか、と言っていたそうだ。
「それって私、アーヴァインの枕じゃない?」
「奴は警戒心が強かったので、少しの物音で起きていたんです。深く眠れる場所はとても貴重だったと思います。魔術師が無防備な自分を晒せる相手は割と少ないんですよ」
その希少性から魔術師は重宝されたりコレクションにされたり奴隷にされたりと、中々に壮絶な人生を送る人が多かったらしい。
アーヴァインも見た目の良さからかなり狙われたんだろうなぁ。
「あなたにもそういう人が現れるといいわね。よし、そろそろ試してみようかしらね」
ペンダントを手に取り、セリーナと話せるように念じる。
「セリーナ、聞こえる? 聞こえたら応答して」
しーん、と空気の音がする。聞こえないのかな?
『えっ? 何かペンダントから声がしたのですが』
「セリーナ?」
ペンダントからした声に懐かしさが込み上げて来る。まだたった数週間しか経過していないのに、何年も会っていなかったみたい。
『お母様ですか?』
「ええ。セリーナ、元気にしていた?」
『わっ! 本当にお母様? 私は元気です!』
「怪我はない? 病気してない?」
『大丈夫です。あ、ラファエル殿下とレックス様も元気ですよ』
『何をペンダントに話し掛けているんだ?』
『今、お母様とお話できているみたいなんです』
『セシリア様と?』
ちょうど近くにいたからか、ラファエル殿下とラモーナの息子の声もする。
『セシリア様ですか? ラファエルです。お加減はいかがですか?』
「殿下、ご無沙汰しております。今はいい感じでして、そうです。呪いが解けそうなんですよ」
私はラファエル殿下に呪いの事を伝えた。
『では、セシリア様の病気は治るのですね?』
「おそらく。ただ、呪いを解呪するためにある人をハルヴィアで探してほしいのです」
『そういう事でしたら、喜んで。ちなみにどちらの方を?』
「アーヴァイン・オルグレンです。彼が生きているかもしれなくて」
『……え……』
『その方ってもしかして、お母様を身受けするはずだった方ですか?』
「そうなの。もしかしたらハルヴィアにいるかもしれないから、彼を探してほしいの」
『分かりました。私たちにお任せください』
セリーナの力強い言葉に胸を撫で下ろした。
それから少しセリーナと話をして、通話を終了した。
途中からラファエル殿下の声が明らかにトーンダウンしていたのが気になる。
まあ、確かに信じられない気持ちはよく分かる。
私も葬儀までした人が生きているかもしれないとは思わないもの。
「ちょうどハルヴィアに行ってるんですね」
「ええ。私は行けないから良かったわ」
「きっといい方向に流れる予兆でしょう。何かをする場合、時として誂えたかのようにスムーズに行く事があります。そういう場合は流れに身を任せると上手くいくんですよ」
アーヴァインがハルヴィア方面にいる可能性がある時に、セリーナたちがそちらへ向かっている。
タイミングが合致すると確かにその勢いで何とかなりそうな気もする。
「ありがとう。あなたに会えて良かったわ」
「ご武運を。アーヴァインが帰還したらまた挨拶に来ます」
チェスターは神出鬼没の魔術師だ。
魔術師クラブも調子がいい時のみ出ているらしい。
今は退役し、のんびり暮らしているそうだ。
兄様の囲い込みは失敗した。彼はたまに弟子を取り、魔法を教えるくらいの生活が性に合っているらしい。
アーヴァインとの仲もつかず離れずのちょうどいい距離感だったのだろうな。
セリーナとの通話は、時間を見つけて何回もしていた。
時折レックス様に茶々を入れられたりしながら話している。
護衛だから近くにいる率が高いのだろうが、中々いい二人のようで母としては今後の展開が気になります。
ただ、ラファエル殿下はあまり話したがらないらしい。単純にお忙しいのもあるだろうが、魔法に忌避感でもあるのかしら。
そんなこんなで時間が過ぎ、とうとう王宮主催の夜会の日になった。
エスコートはいないが、義姉と参加できるのは久しぶりなので楽しみにしている。
「王宮主催だから、敵の様子をしっかり見ましょう」
そう。王宮主催の夜会は、王族が勢揃いするのだ。
国王陛下夫妻、王太子殿下夫妻、モニカも勿論出席する。
今はどんな顔をしているのかしら。
「大丈夫よ、セシリア。余裕をもって笑っていなさい」
義姉の頼もしい言葉に頷き、夜会への一歩を踏み出した。




