35.これからの事
翌日、手紙も手に入れたし、すぐに帰ろうと思ったが、駄目で元々と恥をしのんで義姉に相談する事にした。
「元娼婦の愛人を受け入れた貴族? うーん、いたかしら」
最初の娼館で勤めていた姐様たちにもしも会えるなら、と思ったのだ。
「愛人関係を公にしている人は少ないから、いても私では分からないわ。ごめんなさい」
「いえ、私ももし会えたら、と思っていただけなので」
娼館を出て自由を得た今、長旅には耐えられないが家に引き篭もってばかりもいけないと思い、叶う事なら姐様たちに会いに行きたかった。
「そうねぇ。……そうだわ。この際だから、社交会に復帰したらどう?」
「えっ」
「我ながらナイスアイデアだわ。家名があるって事は貴族籍はあるのよね。ちょうど今度王宮主催の夜会があるの。衣装は準備するから一緒に行きましょ」
義姉の強引な誘いに頷くしかできない。
そんなこんなで、私は予定外だが社交会に復帰する事になった。
帰宅後、私はアデライン様の部屋へ向かった。
例の手紙を渡すためだ。
私が握り潰してしまったヒューバート様からの手紙は、モニカの血を裏付ける物となるだろう。
「あら、お帰りなさい。久しぶりの実家はどうだった?」
「とても有意義な時間になりましたわ」
「それで、帰るなりどうしたの?」
「実は、こちらをアデライン様へと思いまして」
実家から持ち出した手紙を差し出した。
アデライン様はそれを受け取り、差出人の名前を見たところで眉を顰めた。
「あの人の手紙?」
「ええ。お倒れになられた後にいただいたのです。今まで隠していてすみません」
経緯を説明すると、アデライン様は苦笑した。
「日頃の行いよね。あの人が品行方正ならば隠さなかったでしょうし。……中を見てもいいかしら?」
「もちろんです」
アデライン様は一瞬手を止めたが、封を開け中身を取り出した。
カサカサという音だけが部屋に響く。
ヒューバート様の本心を知り、アデライン様はどう感じるだろう。
手紙を読み終えたアデライン様は、ふー、と長く息を吐いた。
「この手紙は、本人証言として使えるかもしれないわね」
「亡くなった方のも有効でしょうか」
「弱いかもしれないけれど、無いよりマシだわ」
モニカがヒューバート様の子という証拠になるかと思ったが、やはり故人だという事が引っ掛かっるようだ。
「アデライン様、王妃殿下とヒューバート様はどのような関係だったんですか? 何故国王陛下だけでは足りなかったのでしょうか」
「そうね。……オフィーリアは何かにつけて私を敵視してくる人だったわ。私とトラヴィス様との仲を裂いただけで満足せず、自分がけしかけたヒューバートも私を気に掛けていたのが気に食わなかったのよ、きっと」
アデライン様も一人の女性の悪意によって人生を狂わされている。
王妃殿下も、モニカやチェルシーも何がそこまで駆り立てるのだろう。
「ただ、この手紙、モニカはヒューバートの子だとオフィーリアが言ったと書いてあるわね」
「そうですね」
「オフィーリアは、モニカが国王の子ではないと知っててハルヴィアへ嫁がせた事の証拠になるわ」
国同士の婚姻の際、求められるのは血筋と身分だ。
もしそれに違反していたとしたら……?
「アデライン様はハルヴィア側へモニカの血筋を疑う文書を出されましたよね」
「ええ」
「何の影響もなかったとおっしゃいましたが、もし、ハルヴィア側が血筋を調べられる魔道具なんかを持っていたとしたら」
一見は何の影響もなさそうな小さな楔は、やがてそこから脆くなり、亀裂となり、瓦解してしまうだろう。
疑惑を持ったハルヴィアの第二王子殿下が、モニカとの子を作らない選択をあえてしたのだとしたら……
「そんな魔道具あるかしら」
「実は、作れそうな人がハルヴィアにいるかもしれなくて」
アデライン様にアーヴァインの事を話すと、我がごとのように喜んでくれた。まだ生きていると決まったわけではないのだが。
「あなたにそんな人がいたなんて、知らなかったわ。……ウィリアムよりいい男なんでしょ?」
「ええ、まあ、はい、そうですね」
アーヴァインは、プラチナシルバーのふわふわの髪に赤目という珍しい色合いだった。
突然変異なのだと言っていた。
肌も白くて私と交換してほしいくらいだった。
儚いイメージだったが、執念深い一面を知った。
「もしそういう魔道具があるとしたら、モニカの血を公にできそうね」
「ええ。それと、もう一人、ですね」
言うかどうしようか迷ったが、義姉から聞いた噂の一つとしてセリーナの妹の件も伝えた。
するとアデライン様はすっ、と真顔になった。
「……ウィリアムに似ていないと思えば、そういう事」
「まだ確定ではありませんが」
「火の無いところには煙は立たないわ。社交会で、囁かれているなら状況を鑑みて客観的にもそう見えるという事よ」
現在セリーナの妹はアークライト公爵家の籍にある。もし実の父親がそうなのだとしたら、ウィリアムとの仲に亀裂が入るだろう。
「ウィリアムは許すでしょうか」
「真実の愛で結ばれた二人の絆は脆いわよ」
不貞する人は、自らの不貞を棚に上げ被害者ぶって攻め立てる。
ウィリアムもチェルシーが彼以外の子を生んだと知ったら──
「せっかく私から奪って幸せになったのに」
それが自らの行いのせいで壊れようとしている。
少しずつ、着実に、今まで辛苦を舐めさせられたつけを払ってもらわなきゃね。




