33.暴露
「それで、呪いはどうしますか? 見たところ、呪いとアーヴァインの執念というか守りが混ざり合っているような感じがします。魔法自体が意思を持っているというか」
「魔法ってそんな事ができるのか!?」
「普通はできません。ただ、アーヴァインは新たな魔法を生み出す天才でもありました。有用なものから無用な物まで、暇だったからという理由で。……嫌味な奴です」
確かにあの人に人間関係の構築は難しそうだった。例え嫌われたり嫌味を言われても、魔法があればそれでいい。そんな人だった。
寝て、起きて、魔法の研究をして、そんな生活の中に私が淹れたお茶があって、私と触れ合えたら最高だとか言っていた気がする。
何がそんなに気に入られたのかは知らないけれど。
「まあ、それがヤツの物だと分かるのは俺くらいでしょう。俺にも同じ魔法を掛けられているので、体のいい人身御供です」
「守りの魔力ならいいのでは?」
「野郎が四六時中まとわりついているようなものです。それに、相手方の魔術師が魔力を追えないように、俺にフェイクを押し付けたんですよ。おかげで暫くは監視されていました」
チェスター曰く、アーヴァインを追い詰めるために相手は魔術師を雇い、追跡していた。
前線に追いやっただけでなく二重三重に罠を仕掛けていたのだ。
アーヴァインも応戦していたが、結局死亡を偽装してまでも逃亡生活を余儀なくされてしまった。
チェスターにフェイクを仕掛けてまでも私を守ろうとしていた……?
「バカだわ……。そんな、周りに迷惑かけてまで……」
「ヤツの性格ですからね。きっとどこかで息を潜めて復讐の機会を伺ってますよ」
彼がそこまでして私のために動いていたならば、私も応えなければならないだろう。
「解呪せずこのままで。呪いは彼に解いてもらうわ。ただ、……もし、アーヴァインに他に愛する女性がいて、その、家族でもいたりしたら、あなたにお願いする事になると思うわ」
彼が今どういう状況かは分からない。生きているのに連絡を取らない可能性の一つとして、もしも私以外と幸せになっているならそれでいい。
その時は今までのお礼を伝えて、守りの魔法を掛け続ける事だけ止めてもらおう。
「分かりました。その時はぜひお声掛けください」
「ありがとう」
「よかったわね、セシリア。どの辺りを探せばいいか見当がついているならこちらもすぐに動けるわ」
「ええ。ハルヴィアならセリーナたちが向かったから、私も追いかけようと思います」
「それは止めたほうがいいですよ」
だが、チェスターから医師ストップならぬ魔術師ストップがかかった。
「アーヴァインの魔法で守られているとはいえ、長旅に耐えられる身体ではありません。例え解呪したとしても同じです。おとなしく結果を待った方がいいかと」
「そんな……」
セリーナに会って彼を探したい気持ちが募っていたのにへし折られてしまった。
「セシリア、あなたは無理をしないで。私達に任せてちょうだい」
「義姉様……」
「そうだぞ。魔術師捜索ならばいくら費用を出しても構わない。うちに召し抱えてもいい。……そしたら、うちの離れで暮らすのもいいぞ」
「ありがとうございます。でも、私はセリーナと二人で暮らす家は自分たちで見つけたいので」
「ぐ……兄を信用できないか……」
現時点での兄様に不信感は無い。魔術師が絡めば裏切る事は無いだろうというのは納得できる。
ただ、どうしても以前の記憶があまりいいものでは無いため、少しばかり警戒してしまうのは仕方がないと思う。
「まあ、仕方ないわよね。なんたって初恋の相手がよりにもよってモニカなんだもの」
「んなっ……!? は……??」
「そうなのですか?」
それは今まで初耳だった。
確かにチェルシーと仲が良かったからうちにもよく来ていたし会う機会は度々あっただろう。
だが義姉とは早くに婚約していたし、まさか兄様がそうだったとは驚いた。
そして義姉がそれを知っていたのも驚いた。
「婚約者だったのだもの。嫌でも分かるわよ。チェルシーのところに遊びに来ていた時、真っ先に挨拶に行くって私との交流時間を削ってまで入り浸っていたのだから」
夜だからと準備されたハーブティーを優雅に飲みながら淡々と話す義姉を見て、よくぞこの愚兄と結婚してくださいました、と頭が上がらない。
対して兄様は酸欠した魚のように口をパクパクさせながら冷や汗をダラダラと掻いている。
「伯父上、趣味悪いですね」
「ご当主様を悪く言いたくはないですが、どこが良いのですか? 魔術師的にもあれほど邪悪なオーラの人間はあまり見た事ありませんよ」
セドリックに呆れられ、チェスターにトドメを刺されてしまった。
「フラン伯母上はどうして伯父上と結婚したのですか?」
「政略結婚だったのよ。初恋はモニカとはいっても、それを成就させようって気は無くて一応私を尊重してくれていたから、子どもを儲けた後なら愛人がいてもいいか、と思っていたの」
「愛人などいないぞ?」
「ええ、ヘタレとも言うのかしらね。今からでもお作りになる? 子どもたちの手も放れたから、私は構わないわよ」
義姉様、義姉様、兄様の魂が口から抜けかかっております。
「フ……フランは俺に愛人がいてもいいのか?」
「私、あなたの初恋がモニカというところで女性として愛される事を諦めたの。だってあまりにもタイプが違いすぎるんですもの。政略結婚ですし、心が伴わなくてもいいか、と割り切って、あなたを観察する事にしたの。ふふふ、生態を知るたび新たな発見があったりして楽しかったのよ」
コロコロと笑う義姉を見て、兄様は顔面漂白したようになってしまった。
愛されていると思っていたのだろうなぁ。
「ああ、でもあなたが愛人を作るなら、私も構わないわよね? ねえ、チェスターと言ったかしら。あなた私とどうかしら」
義姉はウットリするような笑顔でチェスターを見つめる。その事で兄様は声にならない叫びを上げ、義姉をきつく抱き締めた。
「だ、だめだ、だめだ! フランだけはだめだぞ!」
「あらあら」
なんだかんだ言いつつ、義姉も嬉しそうだから、これは夫婦の仲は何とやらかしらね。
チェスターも無の表情で二人を見ている。
セドリックと目を合わせ、会話をしているようだ。
「フラン、色々と誤解があるようだ。今夜はとことんまで語り合おうではないか」
「よろしいですが、眠くなったら寝ますわよ?」
「納得できるまで寝かさない。チェスターはゆっくりしていってくれ」
そう言いながら二人は部屋を出て行った。
今夜はチェスターと語り合うと思っていたが、一応魔術師より義姉を優先というところなのだろうか。
私としては義姉が幸せならばそれでいいと思っているけれど。




