24.普通の人。変な人?
母とラモーナ婦人は、積もる話があるようで暫く二人きりで話すようだ。
私はレックス様を庭先に案内する事にした。
「離れからも本邸のバラ園はきれいに見れるのね」
「女性はバラが好きなのか?」
「私は嫌いではないわ。好きでもないけれど。一般的な話なら、好きな女性は多いと思う」
シェリーがバラをよく好んでいた。ローランド様と四阿でお茶をしていたな。
私は小振りの花が好きだ。どちらかというとバラの引き立て役の。
小さいながらも懸命に生きる姿が可愛らしいと感じる。
「それでね」
「もう、本当に?」
視界に入って来たのは四阿にいるシェリーとローランド様、そして元母。
若い二人に母が混ざるようになったのかな。
祖母の話ではシェリーとローランド様は婚約したそうだ。
それを聞いてもなるべくしてなったとしか思わない。
「あれは?」
「元妹と母と婚約者です」
全員元、と付くのが不思議なのか、レックス様は戸惑っているようだ。
そんな彼を見て苦笑した。
「お気になさらず。私、もう伯母を母と呼べる事が嬉しいんです。あの中に私の居場所は無かったから」
改めて目線を元家族に向ける。
楽しそうに談笑し、時折お菓子を食み、お茶を飲む。
何の話をしているのか、終始笑顔が絶えない。
ローランド様も戸惑いながらも笑みを絶やさない。
私では無理だった。明るいシェリーが妻になるから、きっと明るい家庭を築くだろう。
「……なんて言うか、俺は静かに茶を飲む方がいいな」
「そうですか?」
「ああ」
レックス様は興味なさげにぼーっと景色を見るように無表情でシェリーたちを見ている。
今までシェリーや元母に見惚れる男性ばかりだったから、何だか新鮮だ。
「そう言えば、レックス様は婚約者はいらっしゃらないのですか?」
「いたらハルヴィアへ同行しない」
私より年上に見えるが、貴族といえば幼い頃から婚約者がいるのが主流だ。
次男、三男は家に継ぐ爵位がなければ貴族籍にもいられないため、早めに婿取りの令嬢を探すのが常だ。
「うちは両親共に騎士だったから、騎士爵を取ればいいって考えだ。むしろ親の財産を当てにせず、自分で稼げという方針だな」
なるほど、無理に婿に入る道を模索しなくても、自分で生計を立てられるならそっちでもいいのか。
「私も今から騎士になれるでしょうか」
母の件が終われば、離れを出て二人で暮らす予定だ。
余命がどれくらいかは分からないが、穏やかに余生を過ごせる場所を探したい。
それに母の遺産はあると言っていたが、なるべく手を付けたくない。
それは母が辛い思いをして稼いだお金だ。気軽に使っていいものではない。
「無理だろ」
悲壮な決意は、アッサリと、たった四文字で否定された。
「騎士というのは一朝一夕でなれるもんじゃない。あんたは練習用の模擬剣すら握れないくらい非力な令嬢だろ。模擬剣を毎日素振りして力付けて体力付けて、まずそれからだろうが成長しきった身体でやれんのかな」
レックス様は私を見ながら思案顔になった。
無理なら別の道を模索しようと思ったが、騎士の道も考えてくれているのだろうか。
「剣は無理でも、魔法なら魔術師に習えば……あんたに魔力があるならだが。もしくは、治療師とか、文官とか、無理しなくても騎士以外に道はあるだろ」
今日初めて会ったのに、まるで旧友の相談に乗るような気安さと親密さを感じるのは、ラモーナ婦人の息子さんだからだろうか。
表情は乏しいが、内に秘めているものは熱い人なのかもしれない。
「ありがとうございます。色々と将来の事考えてみます」
「そうだな。人には適性ってもんがあるから、もしあんたが騎士に向いてるってんなら、ハルヴィアに行くとき俺が師匠になるよ」
そしてお人好しでもあるのかもしれない。
とりあえず、普通の人……よりちょっといい人みたいで良かった。
レックス様は再びシェリーたちの方に目を向けた。
「しかし、あの女性たちは賑やかだな。男はあまり喋ってないみたいだが、こういうものなのか?」
「そうですね。婚約者との交流会なので、本来ならばシェリーとローランド様と会話すべきでしょうが……」
見た感じ、シェリーと元母ばかりお喋りして、たまにローランド様に相槌を求めているようだ。
ローランド様は元母とも話しているから、案外上手くいっているのかもしれない。
「婚約者とかいた事無いからこういうお茶会に縁は無かったが、俺はできれば静かに過ごしたいな。会話はするが、静かな空間を共有できる方がいい。夫婦となるなら何十年も共にするのだろう? ああいうのは一緒にいて疲れそうだ」
確かにシェリーや元母のようにお喋りに夢中になるタイプは好まなそうだ、と苦笑した。
だが、私もレックス様と同じ意見だ。
共通の話題がなくての沈黙ではなく、沈黙を共有する。
話さなくても雰囲気を楽しめるような人がいい。
友人でも、婚約者でも。
「まあ、結婚する気もないが」
「私もです」
母と一緒にいる方が楽しいし、有意義だ。
「まあ、あんたなら、一緒にいても苦じゃなさそうだ。護衛対象があんたでよかった」
相変わらず無表情だが、小さく口角が上がっている気がする。
これから一緒に行くのだから、少しでも苦では無いならよかった。
「私も、あなたのような普通の方が護衛でよかったです。これからよろしくお願いしますね」
レックス様は無表情なりに頬を持ち上げてニヤリと笑った。
やっぱりちょっと変な人かもしれない。




