第5話 港町リルド2
僕たちはビーチで行われる格闘トーナメントへの参加登録を済ませ宿に戻った。
「ミリアも参加するんだね
殴る蹴るだよ?」
夕食の卓でトーナメントの話題を出してみた。
「大丈夫ですよ!
まあ楽しみにしといて下さい!んふふ
そんなことよりさっき市場で買ったこれ見て下さい」
ミリアが独特な格好の手作り人形を取り出した。
緑色の紐を編み込んだ肌と黄色いワンピース、頭には毛羽立った紫色の植物の細い蔦が何本も植え付けられ髪を表現している。
目と口には貝殻、鼻は何か木の実の種かな?
「なかなかお洒落だね」
「え?」
「え?」
「いやこれ要らないのに買わされたんですよ!
質問に答えてやるからって…」
これダメなのか…結構良いと思ったんだけど…
「へ、へぇ…僕もちょっと変な人形だなって思ってた…よ?
そ、それで何か聞けたの?」
ミリアが見透かしたような視線を向けて来る。
「ふーん…
買った後に"何も知らないよ"って言われました…
ああー!思い出したら腹立ってきました!
明日は暴れてやりますよ!」
「う、うん、頑張ろうね…」
翌日…
「さぁ!ついにこの日がやって参りました!
4年に1度!筋肉と技術の祭典!
リルド!最強!トーナメントだぁ!
実況は私、町長の息子で前回大会一回戦進出の実績あり!ロバート・リルド!
そして!解説は前々回覇者!前回準優勝!漁師のミケルゥトールマン!」
「今年は息子が出ます」
スピーカーから甲高い男の声がビーチ中に響く。
整列する出場者達は各々準備運動をしながら集中力を高めている。
客席は実況にあてられ既に色めき立っている。
「まずはルール説明だぁ!」
トーナメントルール
今回の出場者は10人
トーナメントは前回優勝者とくじ引きで決まった1人の計2人がシードとなる
対戦カードも全てくじ引きで決定する
試合は素手で行い、魔術の使用は出来ない
その為、試合中は魔素に干渉し魔術を阻害するブレスレットを着用する
なお、ブレスレットは貴重な為、試合中の2人にのみ渡され、試合終了後に都度返却となる
試合は降参、気絶、レフェリーストップまで続けられる
原則として試合開始後は決着まで中断しない
反則行為
目突き、噛み付き、股間への打撃、武器の使用、降参した参加者への攻撃、過度な挑発行為、描かれた円外の地面に身体が接触すること
反則行為を行った場合は即時失格となる
賞金:30万lz
副賞:未鑑定聖遺物
※優勝者のみ
「…と、以上だぁ!
出場者は順番に実況席までくじを引きに来てくれ!
特別ゲストのパ…町長!
開会の言葉をお願いしまぁす!」
「はい、皆がんばってね」
「早速始めよう!
一回戦第一試合!
片目の巨人!流浪の怪物!義手義眼の大男!アインツ!
対するは…
速さには自信がある!スピードスター色男!ナンパ師!カイトォ!」
「なにこれ?アインツさん自称怪物なんですか?」
ニヤリとミリアがこちらに視線を向ける。
「そんな訳ないでしょ…」
「さあ、ミケルさんどうですかこのカード
アインツ選手は初出場ながらタッパもありますし筋肉も仕上がってますね
対するカイト選手はなんと言うか…喧嘩慣れしてそうな感じは伝わってきます!」
「はい、息子は次の試合ですよ」
これが魔術阻害のブレスレットか…
…!
着けた途端に義眼から見えていた白黒の景色がブラックアウトし、義手が動かなくなった。
金属本来の重さがずっしりと肩にのしかかる。
なんか麻酔が効いてるような…自分の身体じゃなくなったような…最初からその通りではあるんだけど…
一抹の不安を抱え、土俵となる円内へ踏み入れた。
「はは!どうやらその義手は魔術で動かしてたみたいだね!
怪我する前に降参したらどうかなぁ!?」
相対したナンパ師が勝ち誇る。
「それでは!はじめぇ!!」
レフェリーの一声と共に拳を突き出し飛び込んでくるナンパ師。
「おおっとぉ!カイト選手!速攻ォ!」
1歩右に避け、右手でナンパ師の手首を掴む。
「しかしアインツ選手躱した!」
掴んだ手を引き、勢いを利用して場外へと放り投げた。
「ひょうっ!?」
間の抜けた悲鳴をあげるナンパ師。
「ん投げたぁァァア!」
「へぅっ!」
砂まみれになりながら転がるナンパ師。
「決着ゥ!!
カイト選手場外!反則負けです!
いやーあっという間でしたね!ミケルさん!」
「はい、次の試合が楽しみですね」
ブレスレットを外すと左腕がスッと軽くなった。
視界も元に戻る。
「あ、ミリア着替えたんだ
その服借りたの?」
レフェリーにブレスレットを渡していると、ミリアが極東の島国で武道を志す者が好んで着ると言うドーギを着て現れた。
「私物ですよ
これで兄と良く修行したんです」
「修行?」
「おい!避けろ!
やれ!
あ?何してんだよ!」
解説が荒れている。
マイクを切れ。
「兄が強くなりたいって頑張ってたから私も!ってよく付いて行ってたんです
そのうち父が私のドーギも用意してくれて…
結局兄には1度も勝てなかったですけどね!」
ミリアの目に少しだけ寂しさが宿った気がした。
「あ、試合終わりますね!
次なんでいってきます!」
「ミケルさん、息子さんは残念でしたが、内容はどうでした?」
「チッ…」
「一回戦第三試合!
なんとこれは!でかぁあい!小柄な身体に不釣り合いなおっ…」
実況がプツリと途絶えた。
「おまえ!市場で無視した女!」
「誰?」
「そりゃあ覚えてねぇよなぁ…
今度こそ忘れられないようにしてやるぜ!」
「はぁじめぇえ!」
対戦相手の紹介も無くレフェリーが開始の掛け声を放った。
ナンパ師Bが顔の前に拳を作る自己流の構えを取った。
そして距離を置いたまま様子を見る。
ミリアが1歩踏み込むとしゃがんだ。
低い姿勢のまま足首を狙って横薙ぎに脚を払った。
ナンパ師Bは自らの拳が死角となり避けられない。
「うぉっ!」
真後ろに倒れ砂ぼこりがあがる。
視界が晴れると顔の目の前に拳を突き下ろし、寸止めしているミリアが現れた。
「ま、参った…」
「そこまで!」
実況が復帰しないのでレフェリーが締めた。
「アインツさーん
勝ちましたよ!」
手を振りながらミリアが駆け寄ってきた。
「うん、見てたよ
動きが切れてたね」
「んふふーでしょお?」
「ふ…アインツ…試合を見ていたよ…」
ご機嫌のミリアの後ろからフードを被った男が声をかけてきた。
「ん?」
「皆まで言うな
この大会、優勝はお前か俺になる
決勝で待っていろ、退屈させるなよ?」
そう残し去っていく男。
どうやらこの後すぐに試合のようだ。
「誰ですか?今の」
「いや…知らない…」
その後、大会は順調に進んだ。
アインツは左腕のハンデを感じさせない安定した試合運びであっさりと決勝進出が決定した。
ミリアも危なげなく準決勝、しかし、前回優勝者は伊達ではなかった。
技術こそミリアに分があったが圧倒的なフィジカルの差を覆すことは出来ず、大振りの裏拳に押し出され場外負けとなった。
そして決勝戦…
「さあ…ついにこの時が…やってきました!
決勝に進出した選手を改めて紹介します!
まずは今大会初出場!片目の怪物!アインツ選手!
そして…前回覇者!パワーオブ力持ち!筋肉鍛冶屋のガァンテツゥ!」
観客の声援が一層高まる。
でかいな…
身長は僕と大差ないけど筋肉量が全然違う…
どうするかな…
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