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第4話 港町リルド1

ミリアと2人、ヤクモ村を出て山に入った。

魔力の有無に関わらず、様々な生態系が息づいている。

今のところ討伐団が組まれる程の魔獣が生息していた痕跡は見当たらない。


しかし、緩い傾斜の山道を進んだ先、見えてきた山小屋と根本近くで折れた木々は激しい戦闘があったことを雄弁に語っていた。

「ひどい…」

「あまり近付かないようにね、崩れるかもしれない」

倒壊し掛けている山小屋には立ち入らず、2年前の足跡を探した。


この戦闘規模、1頭だけとは思えないな。

もし生き残りが居て、今出てこられたらマズい…

「ん?あれは…」

倒木の陰にキラリと何か光ったように見えた。

近付いてしゃがみこみ、良く見てみると錆びた短剣のようだった。

見た目に大きな特徴は無いがグリップに王都にある鍛冶工房の刻印が彫られているのが確認できた。

ここで討伐団が戦闘を行った可能性はかなり高そうだ。


「ミリ…」


カサッ


ミリアへの呼び掛けを背後の物音が遮った。

咄嗟に飛び退き距離を取って確認した。

それは体長1.5m程のイノシシだった。

こちらを気にしながらも突進してくる様子はない。


「アインツさん…あれ、狩っちゃいましょう?」

イノシシの動向を伺っていると耳元で囁かれた。

「は…?」

「牙が20cmはありますよ!

交易が盛んなリルドならあのサイズはなかなかの値段になるはず…」

良い笑顔だな…

たくましくて何よりだよ…


「いや、そんな簡単な…」

ミリアは鞄から長いロープを取り出し、イノシシに向けて放り投げた。

「私魔術の実技でもこれだけは得意だったんです!」

ロープは意思を持った蛇のようにイノシシに向かい、四つ足に絡み付いていく。

慌てて踠くイノシシだが、動けば動くほどキリキリと締め付けられる。


グギィィィ…


やがて悲痛な悲鳴を絞りだし、イノシシは大人しくなった。

「見直しました?私動き止めとくんでトドメをお願いしますね!」

ミリアが懐から取り出した大振りナイフの柄をこちらに向け差し出してきた。

「あ、ああ、うん」


2時間ほど経った…

血抜きの為吊るされるイノシシの巨体。

虚ろな目が虚空を見つめている。

日はまだ高い。


順調なら急がずとも、今日中にリルドにたどり着けるだろう。

しかし…


「これ、100キロはありそうだけど…」

独りごちっている間もミリアは忙しく動いていた。

傷みやすい内臓をヤクモの宿で分けて貰った野菜と煮込んで昼食を作っている。


「アインツさーん、もう出来ますよー!」

「ああ、今行くよ」



食事をとりながら状況を整理した。

この山小屋付近で討伐団の戦闘があった可能性が高いが、それ以上の手掛かりは見つからなかったこと。

周囲に魔力の反応はなかったこと。

今日中にリルドに着くにはイノシシをどうにかする必要があること。


「ロープで引っ張ります?」

「ただ引っ張っても大変だし、イノシシがズタズタになるよ

それよりあれを使おう」

倒木を指差した。

「木材の加工魔術なら覚えてる

あのサイズの倒木ならイノシシ丸ごと乗せられるソリが作れるよ」

「なるほど!」

手を打って納得するミリア。


「じゃあソリはお願いしちゃって大丈夫ですか?

素材ごとの加工魔術はあまり覚えてなくて…」

「ん?ああ

心配しないで、あの倒木を加工するくらいじゃ魔力切れは起きないよ」

すっかり魔力量に不安感じさせちゃってるな…

まあでも仕方ない、それは事実だ。

倒木に手を添え魔力を込める。


ミシミシと音を立て木が割れていく。

イメージ…イメージ…

しばらくして簡素なソリが姿を現した。

「シンプルですね」

顔を出したミリアの率直な感想。

「…まあね

後はロープを括り付けたらイノシシを乗せて運ぼう」

左の義手と魔力を込めた右腕でイノシシを持ち上げソリに乗せた。

これで多少は楽に運べる。


「やっと…」

「着きましたね…」

港町リルド、ローグローシア大陸最大の交易都市。

「ごめんなさい...舐めてました…イノシシ…

でもアインツさんの魔術とパワー、凄かったです!」

「ミリアの機転にも何度も助けられたよ

僕もまさかソリが壊れるなんて思わなかったけど、咄嗟にあんな精密なロープの操作を出来るなんてみくびってたみたいだ」

達成感の中、2人で肩で息をしながら健闘を労いあった。

「残るはお金に換えるだけですね

あそこの宿屋に運びましょう」


「女1人だと舐められるので一緒に来てくださいね」

宿屋の裏口の戸を叩くミリア。

数瞬の後、エプロンを着けた筋骨隆々の大男が現れた。

「あ゛ぁん?」

低くドスの効いた声が地を這う。

「ひっ…」

ミリアがトコトコと僕の背に隠れた。


「あの…今日山で獲れたイノシシ…買い取って貰えないですか?」

ミリアが背中越しに交渉を始めた。

「イノシシ…?」

筋肉エプロンが一歩踏み込む。

ミリアが身を縮めたのが見なくてもわかった。


「でけぇな…運ぶの大変だったろ…

よしよし、血抜きもされてんな

牙も折れてない…

20万でどうだ?」

背中から顔を出したミリアの表情が見る見る晴れていく。

「にじゅうまんえるず!

良いんですか!?」

「んあ?

処理も良いしこのサイズなら妥当だろ」

「うわぁー!ありがとうございます!

あ、そうだ、部屋って空いてますか?」

さっきまでビビってたの忘れたって顔してる。

「さあな、表に回ってかみさんに訊いてくれ」

「はい!」

満面の笑顔で振り返るミリア。


「アインツさん!明日絶対市場見に行きましょうね!

あと海!絶対海行きますよ!海!」

この子ほんと現金だなぁ…

運良く2部屋空いていた。

明日に備えて早めに休むことにした。




翌朝、朝食を取りながら壁に張られている、町の情報が手書きで書き込まれた地図を見て今日の計画を立てた。

宿を出て坂を下ると朝から屋台が並ぶ市場が港まで続き、その先には水産加工の施設が海沿いに数軒建ち並んでいる。

さらに海沿いに進んでいくと砂浜が描かれていた。


「バッチリですね!

市場を抜けて海沿いに進んだら海!わかりやすい!」

「港を中心に町が出来たんだね」

「?はい!」

はてな浮かべながら良い返事するよね。

まあ今はそんなことより海だもんね。


市場を歩くミリアの足取りは軽かった。

というか屋台をほとんど見てない。


その時ミリアの行く手を塞ぐように2人の若い男が現れた。

「おねーさん!これ!

落としたよ!」

女性物のピンク色で薄手のハンカチを手に乗せ差し出している。


が、ミリアは意に介さず右にひょいと避けて歩みを止めなかった。

「え、おい、ミリア?」

唖然として固まる2人組を前に思わず呼び止めてしまった。


が、ミリアは意に介さず歩みを止めなかった。

僕まで無視?凹むんだけど…

「あのさ、それ多分人違いだよ

落としたとこ見なかったし…

そ、それじゃ!」

屋台を見る間も無くミリアを追いかけた。

「ミリアさん…聞こえます?」

「聞こえますよ」

「あ、さっきのわざとだったんだ」

「当たり前です

どう見てもナンパなのにいちいち反応しないで下さい」

「ああ…ごめん…」

これは反省だ。


「ところで、なんでそんなに海に行きたいの?」

ミリアは立ち止まりこちらを見てにっこりと笑った。

「んふー

青春ですよ!学生時代が詰まってるんです!」

「ん?」

「さあ!行きますよ!」

ミリアはくるりと向きを変え、再び歩みを進めた。




港を一瞥したミリアは海沿いに砂浜へ向かった。

遅れないように付いていく。

港には大きな漁船や交易船が並んでいる。

水産加工の設備もなかなかに大規模だ。


が、ミリアは意に介さず歩みを止めなかった。

まぁそんな気はしてた。

砂浜に近付くに連れ景色から商売っ気が減ってきた。

通行人も疎らだ。


「あ!見えました!

海!」

海自体はずっと見えてたけどね。

泳ぐには少し早い時期、砂浜にもほとんど人はいない。

1ヵ所を除いて。


「残念だね、まだ泳げそうもない…」

「まあ見れただけで満足ですよ

この潮の匂いと波の音…

癒しです…」

「あそこ、人だかりになってるね

張り紙がしてあるみたいだ」

「なんですかね?

行ってみましょう!」

近付いて内容を確認してみた。

"いよいよ明日!

リルド最強トーナメント開催ッッ!

乞!我こそはと思う者!

※なお、当日は魔術の使用は禁止となります。

その為、試合中は魔術阻害ブレスレットを着用していただきます。"


「ミリアは興味ないよね?」

ミリアに視線を向けると、彼女は張り紙の一点を見つめ固まっていた。

「いやいや…見てくださいここ!

副賞!」

「ん…未鑑定の聖遺物…?」

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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