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第15話 プレドゥミルソル遺跡3

「さむ!

なんで!?ヨルドちゃん!」

「はぁ…」

ミリアの問いかけに呆れた顔でため息を吐くヨルド。

「大概の遺跡は各層その層で一番強い、主となる魔獣が居るんです

その主が過ごしやすいような環境を魔術で作ったり、環境を整備してくれる魔獣を守ったりするんですよ」

ヨルドはやれやれ、と言いたげな表情で説明を終えた。

面倒さを隠しきれてないがしっかりと説明はしてくれる、きっと良い子だ。


スタタッ


「何か来る!」

微かな足音に気付き、キーロが小さく組長に伝えた。

その瞬間、大きな影がこちらに飛び掛かってきた。


ガギンッ!


組長のヤーマンが壁のように大きな斧で受け止めた。

「結構力あるなぁ!」

毛皮の厚い巨大な白い虎が覆い被さるようにヤーマンを押し潰そうと力を込めていた。




数刻前…


【遺跡入り口、テント内】


「ガァッハッハッハ!

君たちが遺跡に入りたいってお客さんかい?

2人だけでなんて命知らずもいいところだ!」

豪快、その言葉を擬人化したような大男が立っていた。

身長だけでなく、身体全体がとにかくでかい。


「は、はぁ…

僕はアインツ、こっちの女の子はミリアで…」

「まあまあ!

皆まで言うな!」

彼は言葉を被せ遮ると、大きな手を広げ、鼻先まで突き出してきた。

視界が汚れた手のひらに遮られる。


「俺は組長をやっているヤーマンと言う者だ!

あくまで契約主はルーベルさんだ

細かいことはルーベルさんの直属の人間に言ってくれよ!

わかんないからなぁ!

ガッハッハァ!」

彼は笑いながら後ろ手に手を振ってテントから出ていった。


と思ったらすぐに戻って来て顔を覗かせた。

「これからメンバーが1人ずつ自己紹介に来るから聞いてやってくれや」


豪快そうに見えていまいち掴み所がない…苦手なタイプかもなぁ…


現在…


【プレドゥミルソル遺跡第3層】


ヒュッ


ミリアが投げたロープが自ら虎の手足に絡み付いていく。

ロープがグイと虎の身体に食い込む。


ブチッ


しかし、虎は前足の一振りでいとも簡単に拘束を脱して見せた。

引き千切られたロープが力無く横たわる。


「私のロープ…」

ミリアが悲痛に嘆く。


虎がロープに気を取られていた隙に僕は距離を詰めた。

間髪入れずに左腕を虎の鼻先に向けて振り抜いた。


ガッ

ギャンッ


悲鳴を上げ、真後ろに跳び退く虎。

息を荒くしこちらを睨み付けている。


ヒュッ

ガギンッ


そこへ向けヤーマンが壁のような斧を振り下ろした。

が、虎は身を翻して躱し、斧は床を砕く。

虎はそのまま闇に溶けていった。


「ガッハッハ!こりゃあまずいかもなぁ!」

ヤーマンは豪快に笑いながら言い放った。

そのままヨルドににっこりと笑顔を向ける。


「はぁ…わかってますよ…

私が説明するんですよね…」

ヨルドはため息混じりに口を開いた。


「えっとですね

さっきの虎は階段付近で待ち伏せしてたようなタイミングでした

つまりこの階層で餌を満足に取れてない…一番弱い魔獣と言う可能性があります

1頭ならどうにか出来るとは思いますが…」

ヨルドはばつが悪そうに言葉を濁した。


「撤退を視野に入れろってことか…」

僕の呟きに一番に反応したのはルーベルの部下、マクロニカだった。

「そ、それはダメっす!

絶対に撤退は!攻略失敗は!

ダメっすよ!」




数刻前…


【遺跡入り口、テント前】


「どうですか!?

野戦病院に炊事場!

テント内には簡易ですがベッドも用意いたしました!」

満面の笑顔でルーベルが用意した遺跡前に並ぶテントを指差していく女性。

彼女は嬉々として話を続けた。


「申し遅れました!

あっしはマクロニカ、ルーベル様の一番の部下っす!」

深々と頭を下げるマクロニカ。

長く伸びたポニーテールが鞭のようにしなる。


「あっしはこれからルーベル様が手配した探索団の方々を呼んできます!

そこのテントで待っといて貰って良いっすか?

ルーベル様が選んだお香も焚いてあるっすから!」

先ほどベッドがあると言っていたテントを指差すとすぐに踵を返し、野営地の隅に留まっている馬車の方へ駆けていった。

普段から走り込みを続けているであろう安定した姿勢…

訓練をいつも真面目にこなしていることが伝わってくる。




現在…


【プレドゥミルソル遺跡第3層】


ギャウウウウ!!

フシャァアアア!!


先ほどの虎の物か、威嚇の雄叫びが響く。


ギャッ!


しかし、短い断末魔と共に、すぐに静寂に包まれた。


「今の方角はわかるか?」

ヤーマンは手短に問いかける。

「あっちだな」

キーロは通路の奥を指差した。


「どうする?アインツさん

俺は組員が死んだり今後の仕事に支障が出るような事態は避けたい

だが、勝手に死んでくれなんて言ってたんじゃあ依頼なんて来なくなっちまう

大人の判断、頼むぜ?」

ヤーマンは笑みを崩さないがその目は氷のように冷たい。


「アインツ様!大丈夫っす!

次はあっしも戦うっす!

行きましょう!あっしが命に代えても守るんで!」

マクロニカの目は狂気的とも思えるほど熱く燃えている。

何が彼女をそこまで掻き立てるのか…


でも…


「進もう」

迷いはない。


「よっしゃ!」

マクロニカが大きくガッツポーズを取る。

「ほぅ…」

ヤーマンの表情が僅かに固くなる。


「大丈夫

遺跡の探索はこれで3つ目、引き際はわきまえてるつもりだよ」

ヤーマンの目をまっすぐに見つめた。


「わかったよ

退くときはなるべく早く指示してくれよな!」

ヤーマンは相変わらず笑顔だった。



グチャ…グチャ…


キーロが指差した通路の先、角を曲がると大きな白い熊がしゃがみこみ、何か貪っていた。


「ひぅっ…」

息を飲むミリア。


よく観察し、捕食されているのは先ほどの虎であることは確認できた。

やはり先ほどの断末魔はここで行われた食物連鎖の営みだったようだ。


一行目配せし、刺激しないようその場を後にした。




ゴゴゴ…バタンッ


第3層最奥の部屋、倒壊した扉の瓦礫をどけ、中を見渡した。


キュピ?


そこにいたのは鳥。

暖かそうな羽毛で全身が覆われている。

なにこのもふもふ…巨大な…ペンギン?


「かわいー!かわいい!なにこれ!」

ミリアが歓喜の声をあげた。


「ミリアさん!迂闊に近付かないで!

かわいいけどあの鳥は!」

ヨルドは鳥から目を反らさずに声を荒げた。


鳥は嘴を上に向け、パタパタと両翼を扇いだ。


「きゃわ!」

「はぅっ!」

同時に悲鳴をあげるミリアとマクロニカ。

ヨルドはグッと何かを噛み殺しているが、目に警戒以外の色が混ざる。


その時…


プシャァァア!


鳥は透明な液体を鉄砲水のように吐きつけてきた。


ヨルドの警告で距離を取っていた一行は紙一重の回避が間に合った。

壁に吹き付けられた液体はみるみるうちに凍りついていく。


氷の魔獣…

氷だけじゃない…あの巨体で押し潰されたらどうしようもなさそうだ…


「俺は出来ること無さそうだな」

そう残しキーロは闇に消えた。


ガキンッ!


「キーロはほっとけ!」

ヤーマンが距離を取りながら斧で牽制する。

しかし、傷を負わせることは出来ず、翼を振るだけで簡単に斧を弾き飛ばしてしまう。


「あの、なんだ?ヒレ?羽?

とにかくダメだな

俺の斧じゃ切れない」

ヤーマンが笑顔で告げるが声は冷えきっている。

翼だと思うよ。

心の内に止めた。


鳥は再び天を仰ぎ、翼をバタつかせる。

さっきと同じ動き!おそらく放水の予備動作!


一息で踏み込み、胴体に跳び蹴りを浴びせる。


もふんっ


足が吸い込まれるようにめり込んでいく。


プシャァァア!


鳥は上向きのまま、凍る液体を噴水のように真上に放出した。


ミスった…!


ピシャッ!


ピキキ…


義手を盾に直撃を避けるが、右肩と頭髪の一部が凍結していく。


「ふんぬっ!」


噴出を終えた鳥の横っ腹にゴオと風を切り、ヤーマンの斧が横薙ぎに振られる。


もふん


大きなチャンスに見えた。

しかし、刃も衝撃も全て、柔らかな羽毛が飲み込んでしまった。



羽毛から脱すると再び距離を取った。

焦るなよ…冷静になれ…


辺りを見渡すと凍っていた液体が消え失せていた。

気化させるのも自在なら弾切れは無いか…


「アインツさん!大丈夫ですか!?」

ミリアが駆け寄ってきて凍った髪の毛をツンツンと触る。


「あ、うん、とりあえず平気

もふもふで柔らかかった…」

あ、本音が漏れ出てしまった…


「えー羨ましいですー!」

「もふもふ…」

ミリアとヨルドが羽毛に釘付けになっている。

君たちさぁ…


「あっしの出番ですね!」

マクロニカが背負っていた体躯に合わない長剣を構えた。

先端には黒い粘土のような物が付着している。


「あっしはルーベル様直伝!

火薬への点火魔術が得意っす!

もったいないっすけどあのもふもふ!

焼いちゃえばいいんすよ!」

マクロニカが切先を鳥に向け、いつでも飛び掛からんばかりに腰を落とす。


「待って、マクロニカ

正面からは流石に無理だ

ヤーマンさんの斧すら簡単に跳ねのけた翼がある」

マクロニカを嗜めていると、再び鳥が予備動作を開始した。


「行け!1度なら止められ…」

ダグバナの轟く声は尻すぼみに小さくなり、やがて無音になった。

「こんな時まで人見知り!」

ヨルドが叫ぶ。


なるほど、意図は理解できる。

「マクロニカ!行こう!」


ヨルドの声の反響が消えない内に走り出した。

同時にダグバナは瓶の粉を振り撒いた。


プシャァァア!


鳥が迎撃を始める。

しかし、中に舞う粉は包むように壁となり、放水を受け止めた。


ピキキ…

ゴトンッ!


黒い粉は塊となり落下した。


マクロニカが切先を鳥の喉元に突き立てる。


パァァアン!


乾いた破裂音がこだまする。


ギェ…


鳥は小さく呻いたが羽毛が炎上する様子は無い。

が、隙は充分!


鳥の脇を抜け背後に立つともふもふに突入した。

僕は手探りで背中を探す。


あった!


「菌!肺にカビ!」

僕が叫ぶと空中にカビだらけのローブをはためかせ、色白の女性がスゥっと姿を現した。

「う、うん!わかった!」

彼女は僕の要求にカクカクと頷く。

帽子のキノコは暗闇では毒々しさが抑えられ、なんだかお洒落に見えた。


カハッカハッ


暖かなもふもふから離れると鳥が咳き込み出した。


「よしよし、上手くいった!

皆一旦離れよう、奴は直に弱る」

「アインツさんずるいですよ…」

ミリアの呟きにヨルドが無言で頷く。

君たち今回見てただけなのに…




数分後…

鳥は地に伏した。


「キューちゃん…」

「クーピー…」

今回の傍観者だった2人が同時に溢した。

ホント君たちさぁ…

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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