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第13話 プレドゥミルソル遺跡1

「葡萄はミルソルから南にある農園で取れた物を使っています

本日は10年物ですが、お注ぎしてよろしいですか?」

屋敷のメイドは無表情のまま尋ねた。

「いや…」

「はい!おねが…」

ミリアが僕の視線に気付いた。


「はい…お酒は我慢します…」

ひとまず明日、泥酔して動けないなんてオチは避けられた。



ミリアと出会ってから一番豪勢な食事だ。

「こちら、スパイスマッシュルームと鮮魚の香油和えでございます

香り高いスパイスマッシュルームはここから東の…」

メイドの抑揚のない説明を手を振って制止した。

「あ、丁寧にありがとうございます

でも大丈夫ですよ、説明いただかなくても、この品々が貴重で、私たちがもてなしていただいていることは充分伝わってますから」

あれこれと気を回してくれるメイドに居た堪れなくなり、下がってもらった。

ちょっと踏み込んだ話もしたいしね。


「ミリア、初めて会った時に訊いてくれたこと、僕が聖遺物探しをしてる理由なんだけどね」

リスのように頬を膨らませたミリアがこちらを見る。

「んんん…んぐ…んん」

ミリアが慌てて飲み込もうと水に手を掛けた。

「あ、いいからいいから」

手を振って制止し、話を続けた。


「まぁ実は僕もよくわかってないんだけどね…」

ミリアの顔にはてなマークが浮かぶ。

ああ…混乱してるだろうな…


「かいつまんで話すとね

妹…らしい人が居て…

その人は今正気じゃない

悪魔の契約が絡んでるらしくて、契約を解除する聖遺物と正気に戻す聖遺物が必要なんだ

それを探しているよ」


「かいつまみすぎですよ!」

やっとの思いで飲み込んだミリアが声を荒げた。




「…と、こんな感じだけど…

他に聞きたいことはある?」

知ってる限りの事の経緯を話し終え、ミリアの顔を見た。

ミリアは真剣に僕の目を見つめていた。


ズズ…


ミリアが鼻を啜り口を開く。

「そう…だったんですね…」


パクリ


そのまま小さく切り分けた牛肉を口に放り込んだ。


「…」

ミリア…


「あの…

辛くないんですか?

故郷の村が無くなって…妹さんのことも忘れて…」

口の中が空になったミリアがゆっくりと疑問を放った。

「辛くないよ」

そう言うとミリアの目に一瞬責めるような意思が見えた。


「いや、強がりじゃなくてね

本当に覚えてないんだよ」

僕はグラスの水に口を付け、喉を濡らした。


「師匠に村の壊滅を聞かされたのは子供の頃の話だし、妹を見つけたときにはもう正気じゃなかったんだ

それにね、師匠に言われるまでは妹だってことを知らなかった」

「そう!それに師匠のカンナ様!

まさに恩人じゃないですか!」

ミリアが腰を浮かせ前のめりになって口を挟んだ。

「伝説の魔女でアインツさんの師匠兼恩人!

遠い存在だと思ってましたけど…もう!一気に大ファンです!

それにその義手と義眼もカンナ様が作ったなんてスゴすぎます!

今度サイン貰って下さいね!」

天井が高い食堂中にミリアの声が反響する。


「ああ…うん…今度ね」

ミーハーだなぁ…



「次は僕から質問して良いかな?」

椅子に座り直し、姿勢を正して、料理を堪能するミリアを見た。


「んぐ…」

ミリアはグラスの水で口の中の物を流し込んだ。


「…はい、良いですよ?

あ!待ってください!

当てて良いですか?」

ん?当てる?

ミリアがニヤニヤと白い歯を見せる。


「んふふ…ズバリ!

何で兄を追いかけるより遺跡の探索を優先したのか、じゃないですか?」

ミリアが人差し指をこちらに向け決め顔を作る。

「うん、そうだよ

ホント君はお酒が無ければ話が早いよね」

「んふふーでしょう?」

別に褒めてないんだけど…まぁ嬉しそうだし良いか…


「んふふ、理由は2つあります

まず、兄さんはほぼ間違いなく王都か私の実家に帰っていると思うからです」

ミリアは顎に手を添えしたり顔で語り始めた。


「兄さんは名誉の為に王都に行き、討伐団に参加しました

そしてアルネルドで討伐団は任務を終えてアルネルドの国境警備に参加、その後殆どが王都に戻ったと聞きました

つまり!名誉を上げて出世した人は居ないから兄さんも諦めて帰ったんです!」

ミリアが人差し指をこちらに向けドヤ顔を見せた。

ドヤァ…って文字が浮かんで見えるよ…

これ決めポーズなのかな?


「ミリア…」

「まぁまぁ焦らないで下さい、アインツさん

2つ目の理由を説明します」

ミリアは再び顎に手を添えて語り始めた。


「2つ目はアインツさん1人で遺跡探索に向かわせるのは危険だと思ったことと、聖遺物は莫大な価値があるってことです!」

ん?合計3つじゃない?理由


「あ、アインツさんの実力を信用してないってことじゃないですよ?

アインツさんがそこらの一般人じゃないことはもう充分理解してます」

ミリアは腕組みをして語り続ける。

「でもですね、遺跡は普通10人単位の部隊編成をして臨むって習ったんです

だから1人じゃ流石に行かせられないですよ

仮に上手く聖遺物をゲット出来ても満身創痍のところを野盗に襲われるかも知れないです」


ウンウンと首を縦に振った後、再びの決めポーズ+ドヤ顔ドヤァ…

「どうですか!?」


どうと言われてもなぁ…

「あの、ミリア?

僕を心配して付いてきてくれたのは嬉しいよ

そこは素直に感謝してる」

「んふふー」

ああ…良い笑顔だなぁ…

「でもね、お兄さんの事だけど

普通軍や王宮内の人事は外に漏らさないよね?

だから王都に戻ったことが討伐団で名誉を得た人が居ないって証明にはならないんじゃないかな」

「え…」

ミリアの表情がみるみる曇っていく…

「むしろ、王宮の人事を与える為に呼び戻したのを周りが自発的に戻ったと思い込んだり、隠す為にそう言ってる可能性もあるんじゃない?」

「うう…」

あ、泣きそうだ。

もうやめとこう…

ミリアが納得してるなら理由なんて関係無いか。

「あ、さ、冷める前に食べきっちゃおうか

滅多に食べられない料理だし!」

「はい…そうします…」

黙食は長く続かず、晩餐は和やかに終わった。




翌朝…

ふかふかのベッドなんて師匠のところで修行していた時以来だし…僕には野宿や安宿の方がよく眠れる…

…なんてことは無かった!

こんなに寝起きが爽快なの初めてかもしれない…

掃除の行き届いた部屋、朝特有の澄んだ空気、外から聞こえる鳥の声と差し込む光。

スッキリした頭で見ると世界の解像度が上がったみたいに感じた。


コンコン


ベッドから立ち上がり、背筋をグッと伸ばしていたら扉を叩く音が響いた。

その直後、甲高い男の声が扉越しに聞こえた。

「アインツ様、お目覚めでしょうか?」

この声、ルーベルさんか…

「はい、起きてますよ」


扉は開くことなく言葉が続いた。

「朝食のご用意をさせて頂きました

遺跡探索についてもご提案させて頂きたい所存にあります

準備が出来ましたら食堂までご足労願います」

「あ、はい」

ルーベルの丁寧な申し出に返事をすると、コツコツと足音が遠退いて行った。



軽い足取りで食堂に向かった。

扉を開くと、香ばしい薫りと焼き立てのパンの黄金色が出迎える。


「あ!アインツさん!

これ知ってます?

こーひーって言うんですよ!」

次に目に映ったのはミリアの得意顔だった。


「こちらは我がトールミルディンの特産品の1つ、香日(コーヒー)と言う飲み物です

太陽の香りがその名の由来と言われています

豊かな香りと目を覚まし頭を冴え渡らせる苦味をご堪能下さい」

ルーベルがすかさず丁寧に補足を加え、黒い液体の入ったカップを手渡してきた。


「にがぁ!」

ミリアが悲鳴を上げた。



ルーベルの説明によると、遺跡までは歩いてもそう遠くない距離だと言う。

「プレドゥミルソル遺跡…カルナッゾ式に言うとサウスアルネルド遺跡ですな

私(わたくし)めが手配しました探索団が部下共に既に遺跡に向かっております」

「探索団?」

カップから口を離しルーベルの目を見た。

ルーベルはにっこりと笑い話を続けた。


「はい、まさかお二人で行かれるおつもりで?

いかなカンナ様のお願いであってもそれは承服しかねますな」

狐の糸のように細い目が少し開き、鋭い眼光を覗かせた。

「ご存知とは思いますが、遺跡は危険なところでございます

カンナ様のお弟子様が向かわれるのを知っていながら、このルーベル、万難を期さずして祈るだけでは死よりも重い罰を受けるようなもの!」

ルーベルの背後が歪むような熱量を感じた。

これじゃ師匠の威を借る狐は僕の方だ…

「わかりました、お言葉に甘えさせて貰いますね」

多人数での遺跡探索は初めてだ、不安はある。


「ご安心を

彼らもプロでございます

私の部下も手塩に掛けて育てた自慢の兵、ご迷惑はお掛けしません」

表情に出てたみたいだ。

ルーベルさんは油断できないな…

「ああ、すみません

不満がある訳ではなくて、僕は2回遺跡の探索を経験してますが、どちらも2人での探索だったので…」


コト


「アインツさん!

私、遺跡探索初めてです!

アドバイスを下さい!」

ミリアがコーヒーが並々残ったカップを机に置き、声を上げた。

「アドバイスかぁ…」

僕が初めて探索した遺跡は師匠と2人だったな。

確か最初に言われたのは…

「とにかく僕の側から離れずにちゃんと言うことを聞いてね」

「んふふ、じゃあ今まで通りってことですね」

ミリアが嬉しそうに笑う。

ルーベルも微笑ましい光景を見守るような目をしている。

うーん…なんかむず痒いぞ…




そして…

プレドゥミルソル遺跡第1層。

早くも山岳地帯に多く分布する魔獣、シーフガルダが立ち塞がり、睨みを効かせていた。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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