第11話 城塞都市アルネルド
コツコツッコツコツッ
右目の義眼に何か当たっている。
白黒の視界はチラチラと遮られる。
バサバサバサッ
上体を起こして辺りを見渡すと、頭をつついていた何者かが羽ばたいて飛び降りた。
…ニワトリ?
なんでこんなとこにニワトリ?
あれ?左腕が無い…
ズキンズキン
激しい頭痛が思考の邪魔をする。
この胃から込み上げる不快感…そして激しい喉の乾き…これは…
二日酔いだ…
外は快晴、明かり窓から朝日が射す。
◆ ◆ ◆
んふふーアインツさんが笑うとこ、初めて見たかも!
コンコン
ノック?アインツさんかな?
「はーい!」
扉を開けると立っていたのはククナだった。
「ククナさん、どうしたんですか?」
「あの…し、シスターが歓迎会をしてくれるってことで、その…ミリアさんと、あ、アインツさんも呼んで良いって言ってくれたんです
…ど、どうですか!?」
吃りつつ一息で切り出すククナ。
たぶん、人とちゃんと会話するのは久し振りだったんだと思う。
「もちろん行きます!
アインツさんにももう声掛けました?」
「いえ…なんか恥ずかしくなってしまって…」
ククナの頬に朱が差した。
「んふふ、笑ってましたもんね
珍しいんですよ、アインツさんが笑うの」
「そ、そうなんですね…」
ククナが恥ずかしそうに顔を伏せた。
「それじゃ私がアインツさんを連れていきますね!」
ククナが顔を上げほっと一息吐き出した。
「あ、ありがとうございます!
よろしくお願いします!」
ククナは深々と頭を下げ、宿屋から出ていった。
◆ ◆ ◆
部屋を出て隣の部屋、ミリアの部屋をノックした。
しかし、反応は無い。
居ないのか…寝てるのか…
激しい頭痛で考えがまとまらない…
ひとまず食堂で1杯水を貰おう。
その後は教会で昨日何があったか聞いてみよう。
食堂は朝食を取る宿泊客で賑わっていた。
◆ ◆ ◆
アインツさんも来てくれる…
ククル…弱いお母さんでごめん…
続ける理由が無くなってほっとしちゃったの…
今度こそあなたを、本当に失ったのに…
それなのに…アインツさんには感謝しか抱けない…
ごめん…ごめんね…
「ククナさん、戻りましたね
料理が出来るまで子供たちを見ていて下さる?」
教会に戻るとシスターたちが歓迎会の準備を進めていた。
◆ ◆ ◆
水を飲むと胃の不快感は少し落ち着いた。
もう一度ミリアの部屋の扉を叩くがやはり反応は無い…
「やっぱり居ないのか…」
考えたことが口から漏れた。
重い身体を引きずって教会に着いた。
庭で遊ぶ子供たち。
それを見守るシスターが見えたが、昨日の威厳がない。
窓から朝食の片付けをする若いシスターが見えた。
そうだ、思い出した。
昨晩はククナさんの歓迎会に参加したんだ。
◆ ◆ ◆
「お待ちしておりました
ククナさん、いらっしゃいましたよ」
出迎えてくれたのはシスターだった。
「お呼ばれしちゃいました!
あ!お酒!」
奥のテーブルには大皿の料理と何本もの酒瓶が並んでいた。
のみほうだい!
「ミリアさん!アインツさん!
こっちです!」
ククナさん、膝に子供乗せてる!
もう馴染んでるじゃん!
席に着くとすぐに注がれるお酒。
「料理もお酒もたくさんありますからね
2人とも遠慮しないで下さいね」
のみほうだい!
◆ ◆ ◆
ギィギィ
教会の床板が歩く度に軋んで音を立てる。
「どうぞ、お水です」
シスターが水を差し出してテーブルに着いた。
「その腕…」
水を1口飲んでから口を開く。
「はい…朝起きたら無くなってて…
シスターもわからないですよね…」
シスターは困った顔をして応えた。
「はい…残念ながら…
昨日の晩、ククナさんの歓迎会…
実は途中から記憶がないんです…」
シスターが今度は申し訳ないと言いたげな表情をした。
「僕もです…
久し振りに飲んだということもあるんですが…昨日は飲み過ぎてしまいました…」
記憶にあるのはククナさんにひたすら勧められて…
とにかく何杯も飲まされたな…
バンッ!
勢いよく扉が開くと、いかにもヤンチャそうな少年が飛び込んできた。
「シスターマー!お腹空いた!
ご飯はまだ?」
「あら…もうこんな時間…
今から作るから待っててね
アインツさんもご一緒しませんか?」
シスターが立ち上がり穏やかな顔をこちらに向ける。
「いえ…まだ食欲が…」
◆ ◆ ◆
教会に新しいシスターがきた。
でかくて機械の腕の人と髪が赤くておっぱいが大きい女の人。
その2人と一緒にきた。
あやしい…
きっとわるい奴の仲間だ…
ぼくは信用しないぞ…
歓迎会の料理も…たべ…たべ…
食べたい…
こういうときは目を閉じて…がまんだ!
「ねぇ君!1人で何してるの?
ほら、お肉!食べようよ!」
「わっ!」
おっぱい女がきた!
うう…なんか顔があつい…
引ったくるように肉を受け取り頬張った。
「うまぁ…」
「ねえねえ…これ鶏肉だよね?
庭にもニワトリが居たよね?」
な、なにをいってるんだ?
「昼間ね、餌をあげたら美味しそうにたべてて…
死んじゃったらかわいそうだよね…」
「え?」
え?チーボしんじゃうの?
「だからさ…お姉ちゃんと…
救出大作戦…しようよ」
ズズ…
鼻をすすって応えた。
「やる!」
◆ ◆ ◆
太陽が真上から射し、外も暖かくなってきた。
「そうそう、今朝からククナさんと子供たちがお世話してる雌鳥を見てないの…
何か心当たり無いですか?」
シスターは料理しながら背中越しに問いかけてきた。
雌鳥…
まさか部屋に居たニワトリ…
確かに鶏冠はなかったな…
「…今朝宿の部屋にニワトリが居ました…」
◆ ◆ ◆
ククナさんも仲間に引き入れたし、いよいよ作戦開始だ!
アインツさんは食肉用なら1羽だけ飼育してるのはおかしいなんて言ってたけど、チーボが死んでから気付いても遅いのに!
よしよし、作戦通りククナさんがアインツさんとシスターにお酒を勧めてる…
「お姉ちゃん!早くしてよ!」
「わー待って待って!」
◆ ◆ ◆
宿屋に戻ると食堂でミリアが机に突っ伏して目を閉じていた。
「ミリア…」
「アインツさんですか…?」
そのままの体勢で口だけ動かしてる…
「ミリア、ククナさん何処に居るか知らない?」
「…」
「え?寝た?」
「…」
ミリアは突っ伏したまま寝息を立て始めた。
「はぁ…」
ため息しか出ない…
部屋に入ると雌鳥がベッドの上ですやすやと眠っていた。
至るところに糞が落とされている。
「ふ、ふふ、ふふふ
こ、こう言うの…ひ、ひさしぶり…」
頭の中に響く吃った女の声。
「菌!」
「うんっ…ふ、ふふ…
あ、アインツも…よくっよくなっ…てる…」
「と、と言うことは!再契約してくれるの!?」
良かった…
いやでも菌が喜んでるってことは…気を遣わせてるってことだよね…
「う、うん!
よ、用があっ…あるときはっ…呼んでね…」
ほっとため息が出た。
雌鳥に目をやるとまだ眠っている。
僕は起こさないように優しく抱き上げた。
あ、まずいこれじゃあ扉を開けられない…
カチャリ…
そう思っているとゆっくり扉が開いた。
「あの…誰かとしゃべってました?」
ククナが部屋に入ってきた。
僕の義手を抱き抱えて…
◆ ◆ ◆
流石に飲み過ぎた…
ククナ…ありゃあ男を手玉に取ってきたタイプだね…
この私がこんなに気持ちよく飲まされるとは…
アインツも…こりゃダメそうだ、完全に潰れてる…
「んん…!
重い…!」
ククナが自分で潰したアインツをおぶろうとしている…
「宿へ運ぶ気かい?」
「はい…!
風邪引いちゃいますよ…!」
うーん…ここに寝かせといても良いと思うけど…
「その重そうな義手は外せないのかい?」
「義手?」
ククナが義手の付け根をあれこれいじりだした…
フッと一瞬意識が飛んだ次の瞬間にはククナはもう居なかった。
片腕の無いアインツを残して…
◆ ◆ ◆
義手を付け直し、ククナさんに雌鳥を渡すと教会に連れ帰るように頼んだ。
なんかもう、問い詰めるのも、あれこれ考えるのも面倒になってきた…
昼食時で混み合う食堂に戻ると、ミリアが見知らぬ男と話していた。
またナンパかな?
「ミリア、起きたんだ」
「あ、アインツさん!
今大事な話してるんで黙ってて下さい!」
こいつマジか…
「うん、だからね
ロアンも王都に戻ってると思うよ
俺ももう帰りたいよ…」
ミリアの兄の知り合いか?
口振りからして元討伐団か。
ロアンが警備兵に参加してたらその同僚の可能性もあるか。
どっちにしても…
「ミリア、どうする?
王都に戻る?」
「え…私は…」
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
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